特集2 異質性・生成AI・地域展開など 新年度の学びを展望

社会が大きく変化する中、これからの時代を担う子ども達に必要な学び・環境をどのようにデザインしていくべきなのか。本特集は「協調学習と異質性」「生成AIの利活用」「ジェンダーギャップの解消」「部活動の地域展開」に焦点を当て、2025年に必要な学び・環境を展望する。(編集部)

「同質性」の高い日本の学校現場
2025年は「異質性」の導入を

GIGAスクール構想の推進により、小中学校に1人1台端末と高速通信ネットワークの環境整備が集中的に進んだ。2024年10月、政府が閣議決定した24年度補正予算案では、端末が更新時期を迎えることに備えて「GIGAスクール構想の推進~1人1台端末の着実な更新~」において、234億円を計上している。

1人1台端末の日常的な利活用が進む現在、これからの学校において、どんな学習環境をデザインしていくことが求められるのだろうか。

「歴史の学習環境デザイン」などを研究する広島大学大学院准教授の池尻良平氏は、2025年以降の教育現場では「異質性」がキーワードになると指摘(➡こちらの記事)。「学校現場では探究や協調学習が徐々に広まり、様々なICTを活用した効果的な授業事例が増えています。一方で、協調学習のパワー不足を実感します。協調学習は非常に効果があり、そもそも学校に行くメリットもそこにあるのですが、議論が盛り上がっていない場面もよく見ます。その要因は日本の教室の『同質性』にあります」と話す。池尻氏には、なぜ「異質性」が必要なのか、教育工学の観点から先端テクノロジーはどの様に活用すべきなのか、歴史学習の魅力などについて話を伺った。

生成AIガイドライン改訂と
教育現場における利活用の可能性

生成AI「ChatGPT」が公表された翌年の2023年7月、文部科学省は「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表。その後、2024年、「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議」では、ガイドライン改訂の検討を進め、同年11月、「初等中等教育段階における 生成AIの利活用に関するガイドライン(素案)」を公表した。

素案では、教職員/児童生徒が利活用する場面における基本的な考え方、具体的な利活用場面、利活用の際のポイントなどを整理。「教職員による利活用例」(図表1)や「学習場面において利活用が考えられる例、不適切と考えられる例」などを紹介している。24年度補正予算でも生成AIを活用した教育課題の解決・教育DXに向けた実証」(6億円)を計上、教育現場での効果的・適切な生成AI利活用の実現に向けた支援を盛り込んでいる。

図表1 教職員による利活用例(一部抜粋)

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生成AIの教育現場での活用が注目される中、鍵を握るのは、教職員のAIリテラシーだ。2024年に上梓された『これで安心 学校での対話型AI活用Q&A』共著者の一人である堺市立東三国丘小学校教諭の筆野元氏に、生成AI利活用の可能性と課題、学校現場における活用例について寄稿いただいた(➡こちらの記事)。

日本社会の大きな課題
IT分野のジェンダーギャップ解消

IT分野のジェンダーギャップが社会課題として指摘される中、その背景には「女性は数学が苦手」「女性は技術職に向いていない」といったジェンダーバイアスやステレオタイプの影響も要因の一つとして指摘されている。「国際数学・理科教育動向調査 TIMSS2023」によると、小・中学生いずれも、算数・数学、理科への興味・関心は、男子の方が女子より高いことを指摘している(図表2)。ジェンダーバイアスなどにより、子どもが自らの可能性を狭めてしまわないよう、学校教育の早期段階から、性別を問わず、個々の意欲と能力が尊重され、チャレンジできる環境の整備が求められている。

図表2 算数・数学、理科に見られる男女差

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2024年7月に閣議決定した「女性版骨太の方針2024」では、女性が少ない分野への進学者増に向けた取組の推進、女性デジタル人材育成に資するインターンシップの普及、次世代の女子中高生・大学生を対象としたプログラミング教育の機会の提供などを盛り込んでいる。こうした中、2019年の設立以来、5年間で約3,000人の女子中高生や大学生にデジタルスキル教育を提供してきたwaffle。創立5周年を迎え、成果や課題、展望など、ディレクターの森田久美子氏に話を聞いた(➡こちらの記事)。

部活動の地域展開と
子どもの放課後の在り方

文科省の24年度補正予算案は「部活動の地域連携や地域スポーツクラブ・文化クラブ活動移行に向けた環境の一体的な整備」に29億円を計上。政府が2023年度から25年度までを「改革推進期間」として、休日の部活動の地域移行について、早期実現を進めてきた。

こうした中、スポーツ庁の「地域スポーツクラブ活動ワーキンググループ(第3回)」で示された中間とりまとめ骨子(案)では、「将来にわたって子どもたちが継続的にスポーツ・文化芸術活動に親しむ機会を確保する」、「学校で部活動として行われてきたスポーツ・文化芸術活動を、地域全体で関係者が連携して支え、生徒の豊かで幅広い活動機会を保障する」といった改革の理念等を的確に表すため、「地域移行」という名称から、例えば「地域展開」などに変更することなどが示された。

少子化が進む中、部活動の未来をどの様にデザインするべきなのか。スポーツ教育学が専門で、「部活動」を研究テーマにする関東学院大学教授の青柳健隆氏に話を伺った(➡こちらの記事)。

本特集は「新年度の学びを展望」と題し、これからの時代を担う子ども達に必要な学び・環境をどのようにデザインしていくべきなのか。いくつかのテーマに焦点を当て、2025年を展望した。子ども達の学びや学習環境を充実させる上での参考となれば幸いだ。