ONDO 対話を重視し、主体的な学びを設計 人と組織の成長を支える
香川県高松市を拠点とするONDOの代表・谷益美氏は、ビジネスコーチングとファシリテーションを軸に、受け身の研修ではなく、対話から学びを生み出す。企業や大学で年間約200本の研修を実施するほか、地域の人事コミュニティづくりに関わり、対話する組織文化を広げている。
双方向の対話を重視し、
参加者が主体となる学びを設計
谷 益美
株式会社ONDO 代表取締役・ファシリテーター
1974年香川県生まれ。香川大学卒。建材商社営業職、IT企業営業職を経て2005年独立。専門はビジネスコーチング及びファシリテーション。企業、大学、官公庁などでコーチング研修やコーポレートコーチングなど、年間約200本の実践的学びの場作りを行う。早稲田大学ビジネススクール(MBA)非常勤講師も務め、優れた講義を実施する教員に贈られる「Teaching Award」を2015年及び2019年に受賞。雑誌やウェブサイトへの記事寄稿、取材依頼等多数。
企業・大学・官公庁で年間約200本の研修を手がけるONDOの代表・谷益美氏は、ビジネスコーチングとファシリテーションを通じて人と組織の成長を支援してきた。
谷氏は香川大学を卒業後、建材商社やIT企業での営業職を経て、2005年に独立。企業や行政機関で実践的な学びの場づくりを行い、早稲田大学ビジネススクール(MBA)の非常勤講師としても実績を残し、2019年に香川県高松市を拠点としてONDOを設立した。
ONDOでは現在、研修事業を主に4つの領域で展開している。一つは谷氏自身が講師として登壇するコーチング、ファシリテーション、リーダーシップ開発、キャリア開発などの研修で、現在の事業の中心となっている。
2つ目は「フィールド研修」で、自然の中での協働を通じてチームの関係性を深める学びの場を提供している。3つ目はチームビルディングの要素を取り入れた「謎解き研修」で、参加者が協力しながら課題を解く体験型プログラムだ。4つ目が「哲学対話」で、参加者が問いを共有しながら対話を重ねることで、思考力や対話力を育む。
いずれのプログラムにも共通するのは、双方向の対話を重視し、「参加者が主体となる学び」を設計している点だ。受け身で学ぶだけでなく、その場のテーマについて考え、語り合い、現場での活用について議論することで、参加者の当事者意識を引き出している。
一社一社の課題に向き合い、
信頼関係を築いて伴走支援
谷氏が講師・ファシリテーターを務める研修では、事前に用意した説明資料に頼るのではなく、議論の流れに応じてその場でタブレットでスライドを作成し、投影しながら場を進行する。参加者の発言や議論の内容をリアルタイムで可視化することで、思考の深まりと対話の活性化を促している。
谷氏は研修において、自身の経験が及ばないテーマが出た場合には、その場にいる参加者の知見を引き出し、議論を広げる。
「参加者が持つ知識や経験を引き出し、それをもとに議論を深めていくことがファシリテーターの役割です。自分で答えられないことがあっても、みんなで考えればいい。それが対話型の学びの強みだと思っています」
谷氏はコーチングを特別な技術としてではなく、日常の会話の質を高める方法として活用してほしいと語る。組織の中で対話の質が高まれば、関係性もアウトプットも変わると確信している。問いを投げかけ、お互いの考えを言葉にすることで、組織の意思決定やチームの関係性が変わっていく。谷氏は、研修とは「知識を伝える場」ではなく「組織の対話文化を育てる場」であると位置づけている。
また、事前の研修担当者との打ち合わせでは、その企業の経営戦略や人材戦略について必ず確認するという。研修で目指す人材像や行動変容と、組織の戦略が結びついていなければ、学びが現場で活用されにくいからだ。担当者が主体的に設計に関わることで、研修の効果を高められると語る。
「学びを現場での実践につなげるには、自社の課題に即した研修内容にすることが重要です。担当者の方と一緒に設計することで、受講後も学びを組織の中に根付かせることができます」
ONDOは長期的な伴走によって実績を築いてきた。担当者と信頼関係を築くことで、研修を単発の学びの場で終わらせず、組織文化の醸成へとつなげる。一社一社、丁寧にヒアリングを行い、現場の文脈に応じて柔軟に研修を設計してきたことが、多くのクライアントとの長年にわたる関係を築いてきた理由といえる。
谷氏の実践は大学でも評価され、「ビジネスコーチング」と「ファシリテーション」の集中講義を担当する早稲田大学ビジネススクールでは、優れた講義を実施する教員に贈られる「Teaching Award」を2015年と2019年の2度にわたり受賞している。
フィールド研修、謎解き研修で
企業の組織文化を変える
香川県さぬき市の山に整備した合宿スペース「MAEYAMA FIELD」。
フィールド研修では、自然の中での共同作業を通じて、チームとしての結束や信頼関係を育む。
ONDOが提供する教育研修は、会議室の中だけにとどまらない。ONDOでは香川県さぬき市の山に合宿スペース「MAEYAMA FIELD」を整備し、自然を活用したフィールド研修の場として活用している。
フィールド研修では、自然の中での共同作業を通じて、普段とは異なる側面をメンバー同士が理解を深め、チームとしての結束や信頼関係を育む。ピザ窯でのクッキング、火おこし、フィールドワークなど、仕事の現場では見られない一面が自然と引き出される中で、参加者は新たな気づきを得ていく。プログラムは経験豊富なフィールドガイドが担当し、泊まりがけの合宿形式にも対応している。
「スキルを学ぶ研修というよりも、一緒に困難な課題に取り組む経験を積むことで、チームに一体感が生まれます。仕事では見せない顔が見られることが、関係性の質を高めるきっかけになります」
ONDOでは体験型のチームビルディング・プログラム「謎解き研修」も提供している。会議室や讃岐おもちゃ美術館などを舞台に、参加者が協力して課題を解く形式で行われる。年齢や役職の壁を越え、ゲーム感覚で楽しみながら、役割分担や情報共有、協働といった組織運営に欠かせない力を体験的に磨くことができる。
「謎解き研修」は新入社員研修から幹部層の研修、懇親会まで幅広いシーンで活用され、「知らないうちにチームの大切さに気づいた」「助け合いながら取り組む中でメンバーの強みを発見できた」といった声が寄せられているという。
ONDOによる研修の効果は、実際の企業事例にも表れている。明治42年創業の老舗総合建築会社・菅組(香川県三豊市)は、新人研修をMAEYAMA FIELDで実施した。建設業界では、配属後に各現場へ分かれるため同期同士のつながりが希薄になりやすく、若手の離職が課題となるケースも少なくない。菅組では会議室中心の座学型研修から、自然の中での共同作業や宿泊を通じた関係づくりへと研修スタイルを転換した。
菅組の担当者からは、「普段の仕事では見えないそれぞれの個性や性格を知ることができた」「個性豊かなガイドとの交流を通じて、多様な考え方や働き方に触れ、視野が広がった」といった声が寄せられたという。
さらに、1年目に研修を受けたメンバーが翌年の研修に参加するなど、縦のつながりを育む仕掛けも生まれている。先輩社員にもフィールド研修に参加してもらい、新入社員との関係構築を早期に進める取り組みも動き始めている。
また、1977年創業で取引先約500社・4000店を持つファッション手袋の卸問屋・フクシン(香川県東かがわ市)は、MAEYAMA FIELDで幹部向けの「未来会議」を開催した。同社の社長が長年課題としていたのは、合宿形式の幹部会議を開いても、最終的には社長の意見が中心となり、議論が広がりにくいという状況だった。そこで次世代のフクシンを担う中堅社員が主体となり、会社の未来を自分たちで考える場として企画されたのが「未来会議」だ。
自然に囲まれた環境で実施されたこの会議では、谷氏のファシリテーションのもと、これまでにない率直な意見交換が行われた。中堅社員自身が主役となり、会社の方向性について議論を深めるという体験は、フクシンに対話の組織文化を根づかせるきっかけとなった。
フクシンは、MAEYAMA FIELDで幹部向けの「未来会議」を実施。率直な意見交換が行われ、会社の方向性について議論を深めた。
地域の人事課題を解決する
せとうちHRフォーラムを開催
今年1月、サンメッセ香川で開催された「せとうちHRフォーラム」。
今年1月、ONDOが発起人となり実行委員会を結成し、「せとうちHRフォーラム」が香川県のサンメッセ香川で初開催された。22団体が出展し、約300人が来場。AI活用、人事コミュニティ、地域企業の人材育成などをテーマとしたセミナーには、それぞれ80~90人が参加する盛況となった。企業・研修事業者・教育機関などが垣根を越えてつながり、地域の人材育成基盤を強化するきっかけを創出した。
このフォーラムは、香川・四国の人事課題をテーマにした体験型のHRイベントとして企画されたものだ。背景には、香川・四国が全国でも若者の人口流出が多い地域であるという課題がある。一度都市部に出た若者が、将来戻りたいと思える企業や職場環境を地域にどれだけ増やせるか。そのためには、企業が人材育成や組織づくりに積極的に取り組み、魅力ある職場環境を地域全体で高めていくことが必要だ。
谷氏は、地域における人材育成のエコシステムづくりを重視している。都市部には多くの人材サービス会社や研修会社が存在し、企業は多様な学びの機会を選択できる。一方、地方ではそうした選択肢が限られることも少なくない。
「地方企業が研修を行う際、東京から講師を招くケースも多いのが実状です。地域にも、人材育成の担い手がいるという認識を広げたいと思いました」と谷氏は語る。
地域で人材育成を支える環境をつくるためには、企業同士が取り組みを共有し、人材育成のノウハウを学び合う場を生み出すことが重要だ。フォーラムの準備段階では、出展者全員と個別に打ち合わせを行い、単なる展示ではなく“体験できるブース”にすることを重視した。
その結果、出展者同士の交流も生まれ、地域で人材育成に関わるプレイヤー同士のネットワーク形成にもつながった。来場者は講義を聞くだけでなく、対話型ワークショップや体験プログラムを通じて、人材育成の手法を実感した。
「せとうちHRフォーラム」では、座学の講座・セミナーだけでなく、対話型ワークショップや体験プログラムが数多く提供された。
谷氏は今後に向けて、企業の経営戦略と人事戦略を結びつけながら、組織づくりや人材育成の方向性を示す提案力をさらに磨いていきたいと語る。個別の研修ニーズに応えるだけでなく、「この組織にはどのような人材や組織づくりが必要なのか」を整理し、具体的な方針として示せるパートナーになることを目指している。
また、ONDOでは今年、地域コミュニティとの連携を深める取り組みとして「防災フェス」の開催も計画している。平時からの対話やつながりが、災害などの非常時における組織や地域の対応力を高めるという考えを、体験を通して伝える場にしたいという。
「地域のネットワークを通じて、ビジネスの枠を超えた“つなぎ役”になりたいと考えています」
対話の力を信じ、学びの場を設計し続けるONDOの取り組みは、地域と組織の未来に新たな可能性を広げつつある。