学校・子どもから地域全体へ より広い視野で地域活性化に挑む
仕事の傍ら、地元である東京都小金井市の地域活動に長く携わってきた小林浩氏。社会構想大学院大学が運営する「地域プロジェクトマネージャー養成課程」の第4期修了生だ。受講のきっかけ、プログラムで得た学びや気づき、地域活動への影響などについて、話を聞いた。
自らの関心と経験を活かせる
キャリアの選択肢

小林 浩
社会教育士
大学卒業後、NHKに入局。報道ディレクターなどを務める。在職中、小金井第三小学校のPTA会長を務めたことをきっかけに地域の教育活動に関わるように。2008年に「小金井第三小学校おやじの会」を設立。地域の学校協働活動を推進。2021年に「社会教育士」の称号を取得。2023年から小金井市社会教育委員、2024年から日本社会教育士会理事などを務める。2024年7月、NHKを定年退職。社会構想大学院大学「地域プロジェクトマネージャー養成課程」第4期修了生。
写真は「全国おやじサミット in Tokyo」で司会を務めた時のもの(2017 年1 月、小金井市で開催)
「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(以下「本課程」)では、地域活性へ向けた産官学連携プロジェクトを計画・運営する際に、様々な利害関係者の「架け橋」となり、プロジェクト全体をマネジメントする「ブリッジ人材」を育成する。地方自治体の現役職員や経験者、地域活性化や産官学連携を実践する専門家が、通常学習する機会の少ない「行政視点」を多く取り入れながら、地方自治体の考え方、地域活性化や産官学連携の手法・事例などについて、リアルかつ現在進行形の知識・スキルを提供。地方自治体に政策提言を行う機会も設けている。
第4期修了生の小林浩氏は、2024年までNHKの報道局や管理部門で働いてきた。2007年に小金井第三小学校のPTA会長を務めたことをきっかけに地域と関わるようになり、2008年に「小金井第三小学校おやじの会」※1を設立。仕事の傍らプライベートで地域と学校との協働活動を推進してきた。「地域と学校のつなぎ役になれればと考え、“おやじの会”を立ち上げました」と当時を振り返る。2021年には社会教育士※2の称号を取得。学校だけでなく、市の生涯学習課や子育て課などへ地域活性化に向けたアイデアを提案するなど、行政とのやり取りも増えていった。
「地域社会に関わるなか、行政側の事情や考え方を知りたいと思うようになり、本課程を受講しました。地方が抱える現在の課題は、私の地元である小金井市の20年後の課題でもあります。受講を決めたのは課題先進地域の現状を学んでおきたいという想いもありました」
中高生と大人との関係性に着目
地域愛は顔の見える繋がりから
「地域おこし」「地域活性化」というと、特産品の開発や各種イベントの企画などが思い浮かぶ。
「本課程を経て学んだのは、企業誘致による特産品開発や各種イベントの開催は、一時的なカンフル剤に過ぎず、地域活性化の根本的な解決策にはなっていないということ。真の地域活性化には、地域課題・問題を地域住民が自分ゴト化し、その解決へ向け地元の人が動きだすことが重要だと気づきました」
自治体への政策提言では北海道夕張市に対して「中高生と地域の大人との出会いプロジェクト」を提案した。社会教育士の称号を得て、学校や子どもと関わるなかで、中高生と大人の関係性に着目した地域活性化を模索していた小林氏。
「中学・高校時代に地域の大人と交流する機会をつくり、関係性を築くなど、早い年代から地域で生きる事に関心を持ってもらうことが重要だと考えています」
政策提言では、夕張市の拠点複合施設「りすた」を、オシャレな常設カフェに変える「りすたde〈りすたバ〉プロジェクト」を提案。公募した中学・高校生による自主企画・自主運営で、多世代が交流できる居場所をつくる構想だ。
「島根県益田市の一般社団法人豊かな暮らしラボラトリーが運営する地域交流スペースを参考にしました。益田市は社会教育系の地域おこしという面で先進地域だと思っています」
真の“地域愛”は、地元の人々と関わることで生まれる。
「“毎日挨拶してくれたおばちゃん元気かな”“あの時ケーキおごってくれたおじさん何してるかな”といった顔の見える繋がりが地域への愛着を生むのです。地域の歴史や文化を学ぶ地域教育もいいですが、中学生や高校生が地域の人とどっぷり付き合う機会をつくりだすことが重要だと考えています」
人と人との緩い関係性をつくる
養成課程の学びで得た気づき
今後は「小金井市の未来を考えて活動を続けていきたい」と小林氏。「小金井第三小学校おやじの会」でのノウハウを地域に広げようと異年齢集団での遊びを通じて多世代交流を推進する「こがねい街のえんがわプロジェクト」を展開。冬は新聞紙チャンバラ、夏は水鉄砲で、東西に分かれて合戦をする。大人と遊ぶ、違う学年の子と遊ぶ、知らない子と遊ぶことを通じた新たな学びを進めると同時に、子どもと地域の大人の交流の場を創り出している。

「小金井第三小学校おやじの会」を立ち上げ、子どもと地域の大人の交流の場を創出。

本課程の同窓会で自身の地域活動の取り組みを発表する小林氏。
「人と人との緩い関係性をつくる。つながりたい時につながれる人間関係を築いていくことが、地域づくりには大切です。本課程を受講し、学んできた社会教育が地域づくり、地域おこしに大事な考え方だと改めて気づきました。これまで学校・子ども単位で考えてきましたが、地域活動をする上での視野は、かなり広がったと感じています。また、自分のやってきたこと、これからやっていきたいことを整理し言語化する上でも本課程を受講したことは大きく役立ちましたね」
※1 主に小学生の父親を中心とした地域の教育活動のための組織。地域によって名称は様々だが、全国から自主的におやじの会が集う「全国おやじサミット」などが開催されている。
※2 教育を通じて地域やコミュニティの活性化を支援する専門人材。2020年に始まった文部科学省の新たな制度。社会教育の制度や仕組み、基礎的な知識に加え、専門性の習得をねらいとした課程や講習を修了した人たちの称号。