地域の中の「つなぎ手」として隙間を埋める存在に

社会構想大学院大学の「地域プロジェクトマネージャー養成課程」第3期修了生の藤沢尚慶氏は、本業とは関係ないキャリア教育や不登校支援などで現住地と地元の2拠点を軸に、地域活動を続けている。受講のきっかけや、養成課程での学び、今後の活動などを聞いた。

より本質的・実践的な
地域との関わりを求めて

藤沢 尚慶

藤沢 尚慶

旭化成ライフサイエンス株式会社
バイオプロセス事業部
大分県出身。早稲田大学先進理工学部電気・情報生命工学科を卒業後、テルモ株式会社で医療機器のQA/QC業務に従事、2023年から現職。「誰もが多様な選択肢から自ら選び、自己実現できる社会」をビジョンに仕事と並行して母校でのキャリア教育、地域での不登校支援、その他、多様な地域活動に従事。社会構想大学院大学「地域プロジェクトマネージャー養成課程」第3期修了生。

「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(以下「本課程」)では、地域活性へ向けた産官学連携プロジェクトを計画・運営する際に、様々な利害関係者の「架け橋」となり、プロジェクト全体をマネジメントする「ブリッジ人材」を育成している。

本課程は、地方自治体の現役職員や経験者、地域活性化や産官学連携を実践する専門家が「行政視点」を多く取り入れながら、地方自治体の考え方、地域活性化や産官学連携の手法・事例などについて、リアルかつ現在進行形の知識・スキルを提供。地方自治体に政策提言を行う機会も設けている。

第3期修了生の藤沢尚慶氏は大分県の出身。高校まで地元で過ごし、大学進学で東京へ。卒業後、静岡県富士宮市に移住。本業の傍ら「Startup Weekend三島」や「沼津発リブランディング塾」などに参加。富士宮市の不登校支援に関わるほか、「地方と都会の情報格差をなんとかしたい」と地元の母校でのキャリア教育にも携わっていた。

「地域活動への興味が増すなか、より本質的・実践的に地域と関わるための知識や視点を学びたいと、本課程に飛び込みました」

複数の立場を理解し翻訳する
「通訳者」の役割を目指す

藤沢氏は本課程を通して「行政や企業、NPO、市民などの間をつなぐ人材の重要性はもちろん、戦略的に各ステークホルダーをどうつなぎゴールを目指していくかについて、自治体の事例から学べたことは、大きな糧となりました」と振り返る。

自治体への政策提案ではEBPMの重要性を指摘。データをもとに構想を立てる大切さを深く理解したと藤沢氏。また、地域課題には行政の手の届かない「隙間」が多くある。そこに民間や個人がいかに介在していくかを考えていくことが大切だ。

『イントラパーソナル・ダイバーシティ:個人の中の多様性』を活かし、複数の立場を理解し翻訳する『通訳者』のような役割を目指していきたいと感じています」

また本課程を通じて、異なる専門性を持つ多くの講師から「実践的かつ多角的な学び」を得たという。

「特に印象に残っているのは、静岡県磐田市への政策提言でした」

現地でのフィールドワークや市長・職員との対話を通じ、行政の視点や地域のリアルな課題に触れたことは、貴重な経験となった。

「知識を『知って終わり』にするのではなく、『現場に接続する』プロセスを学べたことが、何よりの財産となりました」

磐田市への政策提言では「人が集まるまちづくり」をテーマに、EBPMを意識しながら、地域経済分析システムRESASなどを活用してデータ分析を行った。最終的に少子化や育児へスポットをあて、婚活イベントによる出会いの場の提供を提案した。

「市の政策や市長の方針、現地住民の声を照らし合わせながら、『データと現場の感覚』を統合していく手法を学びました。提案自体は未熟でしたが、『地域にどう向き合い、何を読み解くか』を考える、良いきっかけとなりました」

本業では現在、旭化成ライフサイエンスでヘルスケア関連製品の品質保証を担当する藤沢氏。現住地(川崎市)と地元(大分)の2拠点を軸に、地域活動を続けている。

「大分の母校では、地方の生徒に多様な選択肢があることに気づいてもらうような講演やキャリア支援をしています。本課程での学びを活かし、今後、活動の幅を広げていければと考えています」

現住地の川崎市では、不登校支援として、親の会の運営やオンライン勉強会、子どもの居場所づくりに携わる。また富士見公園内に新しく誕生した「冒険土の広場(プレーパーク)」では、広報やSNS発信などの裏方業務も担っている。

「小金井第三小学校おやじの会」を立ち上げ、子どもと地域の大人の交流の場を創出。

「地域の中の『つなぎ手』として、自分自身の多様性を活かしながら、組織や立場の隙間を埋める存在になっていきたいと思っています」

藤沢氏は説明会で「本業に関係なくとも、素人でも受講して構わない」と聞き、迷わず本課程へ飛び込んだ。

政策提言を通じ、磐田市長とのつながりもでき、現在もSNSを通じて交流が続いている。また、2024年に開催された本課程の同窓会にも参加した。

「切磋琢磨できる仲間の存在、ゆるいつながり(弱い紐帯)みたいなものの大切さを改めて感じています」

興味のあることには、まず挑んでみるのが藤沢氏のスタンス。

「EBPMや自治体への提案手法は、地域活動以外でも役立つ実践知です。地域や社会と関わる第一歩として非常に価値のある機会だと思うので、少しでも興味を持った方は、迷わず受講することをお勧めします」

Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案