地方創生を誰もが意識する時代に必要な知識・スキルを体系的に学ぶ
総務省が全国的に推進する「地域プロジェクトマネージャー」人材の育成へ向け、社会構想大学院大学が2021年度から開講する「地域プロジェクトマネージャー養成課程」。第3期修了生の電通アドギア木村貴光氏に、受講の動機や受講中で得た学び、現在の活動などについて話を聞いた。
行政視点を取り入れリアルかつ
最新の知識やスキルを提供

木村 貴光
株式会社電通アドギア 地域デザイン・ラボ
長野県松本市生まれ。武蔵野美術大学卒業後、株式会社電通アドギアに入社。クリエイティブ~営業を経て、2020年に自治体向けソリューション開発プロジェクト「地域デザイン・ラボ」を立ち上げる。関係人口創出事業「チームビルディング・ツーリズム」(福島県南会津町)、大分県「転職なき移住」事業などに携わる。
急速な人口減少・人口流出に伴い多くの課題を抱える地域社会。複雑化する地域課題の解決には、行政・企業・大学・各種団体・地域住民・外部専門人材など、多様な主体をつなぎ、プロジェクトを推進できる「ブリッジ人材」が必要だ。総務省では、2021年度から、地域活性化プロジェクトの要となる地域プロジェクトマネージャーの全国的な拡充に向けた施策を打ち出している。
「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(以下「本課程」)では、地域活性へ向けた産官学連携プロジェクトを計画・運営する際に、様々な利害関係者の「架け橋」となり、プロジェクト全体をマネジメントする「ブリッジ人材」を育成する。
地方自治体の現役職員や経験者、地域活性化や産官学連携を実践する専門家が、通常学習する機会の少ない「行政視点」を多く取り入れながら、地方自治体の考え方、地域活性化や産官学連携の手法・事例などについて、リアルかつ現在進行形の知識・スキルを提供している。
2025年度(5/20~9/25)で第8期目の受講生を迎える本課程。開講期間中、週1日2コマ(180分)で全40講義を開催。地方自治体に政策提言を行う機会も設けている。
本課程の第3期修了生である電通アドギアの木村貴光氏は、2020年に自治体向けソリューションの開発プロジェクト「地域デザイン・ラボ」を立ち上げ、関係人口創出事業「チームビルディング・ツーリズム」などを展開してきた。
「地方創生系の仕事に携わるなか、意思決定プロセスをはじめとする自治体活動の基礎知識や基本的な仕組みを体系的に学びたいと思い、『地域プロジェクトマネージャー養成課程』を受講しました」
本課程での長野県駒ケ根市への政策提言では、女性技術者が活躍できる地域を目指す「〈メカジョ〉コミュニティの開拓で、さらなる“勝てるまち、駒ケ根”を目指して」を発表した。
「自治体の首長へ直接プレゼンできる機会はなかなか得られません。私の提案を市長に気に入っていただき、本課程修了後に内容をブラッシュアップして再度提案させていただくことにもつながるなど、非常に有意義な学びとなりました」
本課程の受講で得た気づき
マクロな視点で政策提案に深みを
木村氏が本課程を受講して得た大きな気づきの1つに、「人口減少や高齢化が行政に与える影響の大きさ」といったマクロな視点を政策提言に取り入れる重要性を挙げる。
「特に牧瀬先生※1の話は印象に強く残っており、行政の逼迫や地域プロジェクトマネージャーのような民間の力が必要になっている根源の部分に、人口動態の問題があることが、一貫制を持った形で理解できました。こうした視点を意識するかしないかで、自治体への施策提案の深みが全く違ってくるかと思います」
本業が広告業界の木村氏。アイデア出しや企画書を書くのに苦はない。
「人口動態の背景にある様々な情報は、新しいアイデアや企画を発想・提案するときの大きな基準となります。本課程を受講したことで、業務で関わる自治体職員や地域事業者との会話の質が上がったと感じます」
木村氏は現在、関東学院大学や淑徳大学、学習院女子大学などで、地方創生やSDGsをテーマに講義やワークショップを行う※2。本課程の受講が、自身の活動の幅を広げることにも繋がっている。
対象者との距離感が近い
地方創生に携わるやりがいとは?
木村氏が携わる関係人口創出事業として展開する「チームビルディング・ツーリズム」は、2025年3月まで福島県南会津町で実装してきた。
「コンセプトは『地域が主役となった事業を作り、地域でお金が循環する仕組みを作る』です。2024年末に事業を継承するNPOを立ち上げ、現在は、個人で賛助会員として加入し、賛助会員として活動をバックアップしています」
今後も地方創生への取り組みに、力を入れていきたいと木村氏は話す。
「広告業は不特定多数の人にメッセージを投げかけます。一方、地方創生の仕事は、対象者との距離感が近い。人口減少や高齢化を知識として知るだけでなく、実際に地域に足を運び、生活に直結している課題をリアルに感じ、その解決へ向け、自分のできることでお手伝いをしていく。これが自分にとってのやりがい、喜びかと実感しています」
今後の大きな流れとして、地方創生はどの企業も避けて通れないテーマとなっていくと木村氏は強調する。
「地方創生をやることが“先進的”ではなく、“当たり前”になっていく時代。いち早く、その最前線に立って知識と経験だけでなく、ネットワークも含めて身につけていくことは、今後のビジネスパーソン、社会人として必須となっていくかと思います。そうしたなかで『地域プロジェクトマネージャー養成課程』は、必要な専門知識やスキルを体系的・実践的に学ぶことのできる講座かと思います」
※1 牧瀬稔:社会構想大学院大学特任教授。本課程では、「地方創生の理論と実践」などを担当。
※2 なお、木村氏は本課程第8期の講師(8月19日)で登壇する予定だ。