特集2 プログラミング教育の現在地 学校現場の実践と学校外の学び

2020年度に小学校でプログラミング教育が必修化され、21年度から中学校で「技術・家庭」の技術分野で拡充。高校は22年度から「情報Ⅰ」が必履修科目となった。大学入学共通テストにも「情報」の新設が決定している。本特集は現状の課題感や最新の取組みを追った。(編集部)

小・中・高等学校における
プログラミング教育の課題

プログラミング教育は2020年度から小学校で必修化され、21年度から中学校で「技術・家庭」の技術分野でプログラミング教育が拡充。高校では22年度からプログラミングを内容に含む「情報Ⅰ」が必履修科目となった。また、25年1月の大学入学共通テストにも「情報」の新設が決定している。

こうした中、教育現場では、どの様な課題があるのだろうか。

図表 中学校技術分野担当教員の免許状所有状況(令和4年度)

画像をクリックすると拡大します

文部科学省は2月13日、中学校「技術・家庭科」(技術分野)の指導体制に関する実態調査結果を公表した。実態調査結果から、技術・家庭科(技術分野)を担当している教員9,719人のうち、2,245人が臨時免許状(技術)の授与を受けた者又は技術の免許外教科担任の許可を受けた者であり、担当している教員9,719人のうち「免許あり」は77%だったことが明らかになった(図表)。

また、特定非営利活動法人みんなのコードは、2023年8月に、プログラミング教育の実態調査を公表した。その結果、88.0%の高校教員が「ほとんどあるいは一部の生徒以外は中学校段階のプログラミングを理解していないと感じている」ことが明らかになった。この背景には、小・中・高一貫で体系的なプログラミング教育が行われていないことが原因であると、みんなのコードでCTOを務める安藤祐介氏は話す(➡こちらの記事)。

EdTech企業、ライフイズテック取締役で最高AI教育責任者(CEAIO)を務める讃井康智氏は「プログラミングは本来、小中高一貫、かつ段階的に学ぶ必要があります。しかし、特に中学校と高校で教えられる人材が不足しています」と話す(➡こちらの記事)。さらに、高校も情報Ⅰを教えられる教員が不足しているほか、教え方の課題も存在する。ライフイズテック専務執行役員で最高教育戦略責任者(CESO)の丸本徳之氏は「情報技術は問題解決の手段として学ぶものですが、学校では問題解決の体験がなかなか作り出せません」と指摘する。

学び方に関するもう1つの課題は、情報Ⅰを高校3年間でどのように学んでいくかだ。文科省は高校1年での履修を前提とし、大部分の高校がそうしている。しかし、大学入学共通テストは高校3年の終わりで、高校1年で学んだ内容を忘れてしまう可能性がある。

小・中・高等学校での
プログラミング教育の実践状況

こうした課題がある中、教育現場ではどのような教材が利用されているのだろうか。みんなのコードでは、小・中・高等学校に向け無料のプログラミング教材「プログル」を展開しており、2022年度末までに累計370万人に利用されている。

小学校版の教材は、学習指導要領に則り、教科ごとに設計されており、「プログル算数」では、プログラミングを通じて、算数の平均・多角形・公倍数などの考え方を学べる。また、「プログル理科」はmicro:bitと「プログル6年理科電気キット」を使って、学習指導要領に例示されている「電気の利用」を学ぶことができる。安藤氏によると、特に多角形コースは算数の授業で幅広く利用されているほか、問題解決型の総合的な学習の時間などで、子どもたち主導のプロジェクトや作品作りに幅広く活用されているという。

またライフイズテックが提供するプログラミング学習用教材「ライフイズテック レッスン」の導入が、全国の学校や学習塾で進んでいる。同教材は、全国600以上の自治体の中学校・高校4,000校以上で、約120万人の生徒に利用されている(2023年8月時点)。このうち180以上の自治体では、全校導入されている。

先に挙げた教え方や大学受験までの空白期間の課題に応えるべく、「ライフイズテック レッスン」では、中学校向けの「双方向・JSコース」、高校向けの「情報Ⅰ全対応コース」と「情報Ⅰ・AIドリル」を提供。中学向けではWebサイトを、高校向けでは、WebサイトやAIレジなどを実際に作りながら学べる教材だ。

また、年3回のCBT(共通テスト模試)の結果から、一人ひとりの学習の力点と学習プランをAIが作成。個別最適な反復学習で効率的な知識定着を実現する。さらに情報Ⅰ・AIドリルは、個別最適化された練習問題や苦手単元克服のための単元テスト、応用問題だけを選んで解ける機能も備えている。

オンラインスクールなど
学校以外で広がる学びの場

小・中・高等学校でプログラミング教育が進む一方で、学校以外でも学びの場が広がっている。

アメリカ発のSTEM教材「VEXロボティクス(以下VEX)」は現在、世界約70か国に広がっており世界大会も開催されている。VEXはロボット工学を軸としたSTEM教材。このVEXを日本で推進しているのが、2021年5月に開校したDOHSCHOOL(東京都世田谷区)だ(➡こちらの記事)。DOHSCHOOLでは、未経験者は自分の興味関心に合わせて、入門コースである「VEX専攻」と「mBot専攻」から選び、3か月学ぶ。入門コースを経ると、3つあるエキスパートコースか、VEXの世界大会を目指すVEXロボコンコースへ進むことができる。

VEXは、ロボットづくりによる試行錯誤のプロセスを通じて、教科横断的に学んだり、課題解決力やクリティカルシンキングを養ったりできるのはもちろん、競技大会への参加を通じて、チームワークやリーダーシップ、グローバリズム、コミュニケーション力など、これからの社会で生きていく上で、子どもたちが身に付けておくべき非認知能力を獲得できる教材だと校長の市川晋也氏は話す。昨年には、DOHSCHOOLから3チームがVEXの世界大会に出場。その中の1チームは昭和女子大学附属小中に通う女の子4人組だった。

2013年にオンライン・マンツーマンで学べる日本初のプログラミングスクール「CodeCamp」(社会人向け)を開講したコードキャンプ。2024年3月には、新たに中高生向けオンラインプログラミングスクール「CodeCampYOUTH」を開校した(➡こちらの記事)。「CodeCampYOUTH」は、個々のペースでWebテキストや動画で学習を進める「教科書」と、5名程度の少人数制で、講師やクラスメートと学習理解を深める「オンライングループ学習」(1回90分×月3回)を並行して学ぶ二部構成。カリキュラムの特徴は大きく3つ。1つ目は、一人ひとりに個別最適化された学びである点だ。2つ目は、講師が業界トップクラスの現役エンジニアであること。3つ目は、3か月に一度、オンラインで「特別レッスン」を開催する点だ。IT活用事例やITトレンドについて、その領域の有識者から直接話を聞くことで、IT活用に対する興味関心を高めていく。

本特集では、「プログラミング教育の現在地」をテーマに、企業・団体などの取材を通じて、現状の課題感や今後を展望した。より良いプログラミング教育を実践するための一助となれば幸いだ。