万余の寺子屋 7000種のテキストと個別最適化されたカリキュラム

江戸時代の寺子屋は幕府の許可や届け出は必要なく、師匠一人に一部屋あれば開業できた。師匠の学識や勉学の中味もまちまちで、質量ともに近代の学校には劣ると見なされてきたが、果たして本当だろうか? 寺子屋での学習内容とその課程を吟味する。

御上の許可なく開業された、万余の寺子屋

高橋 敏

高橋 敏

国立歴史民俗博物館・総合研究大学院大学 名誉教授
1940年静岡県下田市生まれ。東京教育大学大学院文学研究科修士課程修了。文学博士。主として江戸時代の民衆教育史、生活文化史、博徒史など。著書に『日本民衆教育史研究』(未来社)『近世村落生活文化史序説』(同)『江戸の教育力』(ちくま新書)『近代史のなかの教育』(岩波書店)『博徒の幕末維新』(ちくま学芸文庫)近刊に『江戸のコレラ騒動』(角川ソフィア文庫)他多数。

江戸時代の庶民の教育熱に応え、読み書き算用の習得を担ったのは寺子屋であった。江戸時代には制度としての学校は存在せず、幕府は民間の教育には介入しなかった。いわば教育の領域は民間の自由裁量に委ねられていた。盛り上がる民間の文字文化獲得の要求を背景に、庶民自らが寺子屋をつくっていったのである。それゆえ、実数をつかむのは難しいが、一村に一つあったとすれば、6万3,562(1834年の総村数)の驚くべき数字になる。現代の小学校数をはるかに凌駕する、文字文化の広汎な普及を物語っている。

ところで寺子屋の淵源は、中世、寺院が町家の子弟を「寺子」として預かり…

(※全文:2531文字 画像:あり)

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