筆子塚に見る、師弟の「三世の契り」

各地にひっそりと建つ筆子塚の存在をご存じだろうか。その端緒や建立の背景を紐解くと、「三世の契り」と言われたかつての寺子屋の師匠と筆子の師弟関係が浮かび上がってくる。

各地に存在する筆子塚が、暗示すること

高橋 敏

高橋 敏

国立歴史民俗博物館・総合研究大学院大学 名誉教授
1940年静岡県下田市生まれ。東京教育大学大学院文学研究科修士課程修了。文学博士。主として江戸時代の民衆教育史、生活文化史、博徒史など。著書に『日本民衆教育史研究』(未来社)『近世村落生活文化史序説』(同)『江戸の教育力』(ちくま新書)『近代史のなかの教育』(岩波書店)『博徒の幕末維新』(ちくま学芸文庫)近刊に『江戸のコレラ騒動』(角川ソフィア文庫)他多数。

かつての村を歩くと、寺院や集落の共同墓地、なかには旧道の傍らに、ひっそりと苔むして立つ、多くが台石中央に「筆子中」と彫られた、筆子たちが建てた、寺子屋師匠の墓碑「筆子塚」に遭遇する。筆子塚とは、教え子の筆子が「筆子中」に結集して師の学恩に酬い、人徳を追慕し、師弟の契りを後世に伝えるため師の業績を石に刻み、建立した石造物である。

日本列島津々浦々に分布し、江戸時代の寺子屋、文字文化の浸透を実証する物的証拠である。また庶民が暮らす町・村の共同体社会の内部に、新たに文字文化習得を媒介とした師匠と筆子の師弟の繋がりが大きく物をいう時代が来たことを暗示している…

(※全文:2458文字 画像:あり)

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