江戸の教育力を支えた「若者組」 一人前へのイニシエイション

江戸時代の教育というと寺子屋が真っ先に思い浮かぶが、読み書き算用を教える文字教育とは別に、文字によらない非文字の教育システムが存在した。すべての若者を一人前に育て上げた、若者組の教育を紹介する。

一人前の大人になるための、15歳のけじめ

高橋 敏

高橋 敏

国立歴史民俗博物館・総合研究大学院大学 名誉教授
1940年静岡県下田市生まれ。東京教育大学大学院文学研究科修士課程修了。文学博士。主として江戸時代の民衆教育史、生活文化史、博徒史など。著書に『日本民衆教育史研究』(未来社)『近世村落生活文化史序説』(同)『江戸の教育力』(ちくま新書)『近代史のなかの教育』(岩波書店)『博徒の幕末維新』(ちくま学芸文庫)近刊に『江戸のコレラ騒動』(角川ソフィア文庫)他多数。

ヒトの赤ん坊を人間にする広義の教育は、科学文明の飛躍的発展があろうとも軽減されることがない、人類共通の難事業である。中でも最も困難で厳しい試練は子どもから一人前の大人にする、成人(人に成る)の画期、折り目のイニシエイションにあった。成人式が形骸化して荒れ、親離れできず、「一人前」が曖昧模糊とした現状を見れば明らかであろう。

江戸時代の庶民は、誰もが15歳を画期に子どもから一人前へのけじめつけることが求められた。1歳で歩き、3歳で言葉を発し、7歳で子どもとなり、子ども仲間に加入する。この間父母・家族の庇護の下、親族・近隣に見守られながら...

(※全文:2542文字 画像:あり)

全文を読むには有料プランへのご登録が必要です。