Canva Japan世界中にデザインの力を届け 教育現場で創造性革命を推進

口コミで世界的な広がりを見せたオンラインデザインツール「Canva(キャンバ)」。2023年9月に設立されたCanva Japan株式会社は、教育版を無償提供し、日本の教育現場に新たな可能性をもたらしている。現在、全国の約半数の自治体で導入が進み、従来の一斉授業からインタラクティブな学習へと変革が加速する。「誰もがデザインできる世界」の実現に向けた戦略と、日本独自の教育文化への深いアプローチを、同社Canva教育版統括マネージャーの坂本良晶氏とカントリーマネージャーの高橋敦志氏に伺った。

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「誰もがデザインできる世界」の実現に向け、教育版を無償提供するCanva

創業理念から生まれた教育版の無償提供

「誰もがデザインできる世界」を目指して

Canvaは2013年にオーストラリアでサービスを開始し、2025年で12年目を迎えた。共同創業者であり、夫婦のメラニー・パーキンス氏とクリフ・オブレヒト氏がデザインの民主化を目指し、始めたサービスである。

「創業者のメラニー・パーキンス氏がもともとデザインを教えていた方でした。デザインをすること自体が、全ての人がアクセスできるものになればいいのではないか、という思想が始まりとしてあります」と、Canva Japan株式会社・カントリーマネージャーの高橋敦志氏は語る。

日本進出は2017年に始まったが、本格的な展開は2023年9月の法人設立からだ。「日本という人口的にも経済規模的にも重要な市場に対して、これまでしっかりとアクセルを踏み切れていなかった」(高橋氏)という背景から、現地法人を立ち上げ、現在は16名体制で日本市場に特化したアプローチを展開している。

Canva教育版の無償提供は、同社の創業理念に基づく確固たる方針だ。「弊社は、成長のベースとなる小中高の時期において、デザインや表現のツールで何かしらの制限があってはいけないと考えています。創業者たちも強くこだわった点で、未来への投資として教育版を収益化することはありません」と高橋氏は力を込める。

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創業理念から教育版の想いについて語った、Canva Japanカントリーマネージャーの高橋敦志氏

日本独自の教育システムへの戦略的アプローチ

現場起点の展開で急速な普及を実現

日本の教育現場への展開において、同社が直面したのは独特の制度的特徴だった。「教育委員会制度があり、それぞれの自治体単位でのガバナンスがある仕組みに対して、どういうふうに価値を提供できるかを考える必要がありました」と説明するのは、Canva教育版統括マネージャーの坂本良晶氏。

これは諸外国との大きな違いでもある。「インドネシアのように全学生のIDを教育省が一元管理している国では、中央の部分にアプローチしていけば導入スピードを上げられますが、日本ではより細分化されたアプローチが必要でした」と語る。

この課題に対し、同社は現場の教師を起点とした戦略を採用した。坂本氏は「私一人でできることには当然限界があました。そこで、日本中の現地の先生につながって、それぞれの現地の先生が教育委員会にCanvaを導入してほしいとニーズを伝えていただく形で、アウトバウンド比率が極めて高い状態で展開しました。」と振り返る。

その際、重要だったのは単なるツールの紹介ではなく、会社のストーリーや理念を伝えることだった。「共感いただいた先生方が広めていただいたことが非常に大きい」。この結果、2024年初旬の約80自治体から現在の850自治体へと、10倍以上の導入拡大を実現している。

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公立小学校教諭の経験もあり、教育現場を熟知するCanva教育版統括マネージャーの坂本良晶氏

世界最高水準の教育活用を実現

AIとの連携で個別最適な学びを推進

現在の日本の教育現場でのICT活用について、坂本氏は明確に評価する。「結論から申し上げると、日本はICT教育において世界から大きく遅れていました。しかし、GIGAスクール構想がスタートして、世界に例を見ないスピードで一人一台タブレットが配布され、現在は活用レベルにおいても世界で一番高い状況です」。

そんなデジタル化が進む教育現場でのCanvaの具体的な活用事例として、従来の一斉授業からの転換が挙げられる。ある教室では、子どもたちがCanvaでポスターを作成する際、スプレッドシートに下書きを入力し、教師がリアルタイムで評価やコメントを付ける。「クラウドを使うことによって、先生が教室を歩き回って個別に指導するのではなく、全体で共有しながら、子どもたちがお互いの作品を見てより良くしていこうということができます」。

さらに注目すべきは、自由進度学習への対応だ。「子どもたちに紙のノートではなく、Canvaでデジタルノートを配布し、単元全体をそこで完結させます。ある子どもは思考ツールを活用してユニセフの活動についてまとめ、別の子どもはODAとNGOに関してベン図を使って共通点や相違点をまとめる」など、個々の学習スタイルに応じた活用が広がっている。

AI機能の教育利用も積極的に推進している。2025年7月には、GoogleとCanvaは双方でポリシーを改定し、Canva教育版では小学生でも生成AIの機能が利用可能になった。「AIに丸投げするのではなく、AIに伴走してもらいながら学習を進めていくことができます。子どもたちがそれぞれ個別のレベルに応じた内容を自分でAIを使って問題を作ったり、探究的な学習の伴走したりといったことが実現できるのです。」と坂本氏は説明する。

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Canva内では、生成AIの機能追加も次々と行われている

日本発の教育手法を世界へ発信

同業他社との共存で教育全体の向上を目指す

今後の展開について、同社は量的拡大から質的向上への転換を重視している。現在全国の約半数の自治体で導入が完了し、「今年中に日本の半数を超える」見込みだが、重要なのはその後の活用促進だ。

特に注力するのが高等教育への展開である。「教職大学ではICTの指導がまだまだ進んでいない状況にあります。その結果、4年間の教育課程でICTを教わっていない状態で先生になり、子どもたちは使えるという状況」だという。

興味深いのは、競合他社との関係性だ。「同業他社とは競合と思っていない。他社のコミュニティの方と一緒にイベントを開催することも多い」と坂本氏は語る。「目標はCanvaオンリーではなく、それぞれの良いツールを適切なタイミングで子どもや先生に使っていただく事が理想です。ミッションはCanvaを広めることではなく、教育をより良いものにしていくこと」。

世界中にデザインの力を届けるというCanvaの理念が、日本の教育現場で着実に根付いている。従来の枠を超えた創造的な学習環境の実現に向けて、同社の挑戦は続いている。