『AIイネーブルメント─AIエージェントと人間で協創するWith AI時代』

『AIイネーブルメント─
AIエージェントと人間で協創
するWith AI時代』
山川 雄志 著/284頁/1800円+税/幻冬舎
生成AIの代表格ともいえるChatGPTが公開されて3年近くが経つ。技術革新のスピードは凄まじく、2025年を「AIエージェント元年」と呼ぶ声もある。従来の生成AIは、文章の生成や翻訳、要約、プログラム作成を瞬時に行う強力なツールだが、人間がプロンプトを与える必要がある。それに対しAIエージェントは、あらかじめ設定された目標やルールを把握し、必要な情報やツールを自ら使ってタスクを実行する。例えば議事録作成では、会議の終了を自動検知し、録音やチャットログを要約・保存し、関係者に通知する。この能動性と自律性が、従来の生成AIとの大きな違いだ。個別タスクごとに人が指示を出す「Use AI」から、AIエージェントと共に業務を進める「With AI」への移行である。
組織が「With AI時代」を迎えるにあたっては、単なる技術導入だけでは足りない。AIと協働し、ワークフローや組織、カルチャーを丸ごとアップデートするアクションが必要だと著者は言う。具体的には、サーバーやクラウドの整備、AI活用を前提とした業務プロセスの刷新、従業員の知識やスキル向上、評価制度の見直しなどが求められる。タイトルにある「AIイネーブルメント」とは、こうした総合的なプロセスを指す。
重要なのは、単なる自動化ではなく、人間の創造性や判断が生きる余地をどう作り、どこをAIに担わせるべきかを明確に切り分けることだ。大量のデータの参照や文書生成などAIの強みを活かし、人間が最終判断やコミュニケーション、イノベーションに集中できれば、組織の生産性と活力はともに高まるはずだと著者は断言する。
本書では、AIイネーブルメントを実践するための考え方やステップとともに、著者の実体験も交えながら、650社以上の導入支援で得たノウハウを惜しみなく公開する。一例として紹介されるのが、某大手広告代理店の事例だ。同社では、多様な掲載条件に最適なメディアを選ぶのに、手作業では2〜3日かかることもあったが、AIエージェントを導入した結果、同じ作業にかかる時間が数分から数十分に短縮された。このように、属人的で複雑に見える業務ほどエージェント化の余地が大きく、担当者間の調整が当たり前だった領域ほど、リードタイム短縮と品質向上の効果が大きいのだという。
世界中で同時に公開され、低コストで誰もが使えるのが生成AIの特徴だ。同じスタートラインから始まったレースに遅れを取らないためにも、いかに「With AI時代」の波を乗りこなすかが問われている。
新刊一覧
●教育学
教育学入門
AIで深める学び
木場 裕紀 著/184頁/2300円+税/
東京電機大学出版局
●学校教育一般
先生を続けるための『演じる』仕事術
松下 隼司 著、今じんこ イラスト/184頁/
1800円+税/かもがわ出版
教師=学びの身体技術 1 構え
齋藤 孝 著/200頁/2400円+税/
学芸みらい社
学校の「男性性」を問う
教室の「あたりまえ」をほぐす理論と実践
大江 未知、虎岩 朋加、前川 直哉、教育科学研究会 編著/
186頁/1800円+税/
旬報社
次期学習指導要領に備えろ!
あなたが「今すぐ」始められる11のクエスト
樋口 万太郎 著/144頁/
1960円+税/明治図書出版
●学級経営
学級経営11の武器
応用行動分析学で子どもが変わる
河村 優詞 著/176頁/2200円+税/
図書文化社
自分のペースで子どもが伸びる!
学級づくりからはじめる自由進度学習
若松 俊介 著/176頁/1950円+税/
学陽書房
●高等教育
大学IR入門
データにもとづく意思決定のための完全ガイド
中井 俊樹、上月 翔太 編著/220頁/
2500円+税/ナカニシヤ出版
●ICT
デジタル学習基盤と情報活用能力
佐藤 和紀、三井一希、泰山 裕 編著/
152頁/2000円+税/東洋館出版社
●幼児教育
保育はジェンダーを語らない
不可視・不可避の性と語りなおしの実践
天野諭 著/240頁/1800円+税/
かもがわ出版
●特別支援教育
発達障害・グレーゾーンの子どもを
伸ばす大人、ダメにする大人 家庭生活編
小嶋 悠紀 著、齊藤 恵 イラスト/208頁/
1700円+税/徳間書店
発達障害・境界知能(グレーゾーン)の
子のライフスキル・アセスメントツール
子どもの「今」を見える化し、自立をサポートする
梅永 雄二 著/64頁/1800円+税/
合同出版
●人材育成・マネジメント
無言のリーダーシップ
付加価値を生む仕組みのつくりかた
田尻 望 著/240頁/1600円+税/
SBクリエイティブ
部下の発達特性を活かすマネジメント
佐藤 恵美 著/224頁/1700円+税/
ディスカヴァー・トゥエンティワン
できるリーダーが意思決定の前に考えること
内田 和成 著/280頁/1000円+税/
日本経済新聞出版
若者恐怖症
職場のあらたな病理
舟津 昌平 著/272頁/960円+税/
祥伝社
●その他
AIは私たちの学び方をどう変えるのか
BRAVE NEW WORDS
サルマン・カーン 著、稲垣 みどり 訳/
296頁/2000円+税/東洋館出版社
民主的社会をつくるシティズンシップ教育
理論と実践の現在
北山 夕華、古田 雄一、川口 広美、斉藤 仁一朗、
川中 大輔 編、日本シティズンシップ教育フォーラム(J-CEF) 監修/294頁/3300円+税/ナカニシヤ出版
注目の一冊

『一〇〇年前の「入試改革」
一九二〇年代中等学校
入学難問題にみる教育と選抜』
石岡 学 著/288頁/
4000円+税/勁草書房
大学入試に関しては幾度となく「改革」が行われてきたが、その内容は厳しい批判にさらされてきた。直近では、共通テストで検討されていた記述式問題と英語民間試験の導入断念が記憶に新しい。
なぜか。過去の失敗を顧みず、原因を特定できていないからだと著者は言う。背景には、入試の歴史に関する研究の少なさがある。
そこで本書は、1920年代という短いスパンに限定し、入試に関する様々な要因を徹底的に深掘りしている。一点突破的研究で、近現代日本に通底する入試に対する暗黙の前提を問い直す。