特集2 変わる学校、変わる働き方 教師不足の解消にいま必要なこと

文部科学省が公表した「教師不足」に関する実態調査の結果によれば、全国の小学校、中学校、高等学校、特別支援学校で合計2,065人の教師不足の実態が明らかとなった。教師不足の解消と持続可能な教師の働き方の実現に向けて、いま、どの様な取り組みが必要なのだろうか。(編集部)

労働時間が減少したものの
厳しい状態が続く学校現場

2016年、文部科学省が実施した「教員勤務実態調査」により、教師の月当たり平均の時間外在校等時間は、小学校で約59時間、中学校が約81時間という実態が明らかとなった。「脳・心臓疾患の労災認定基準」(厚生労働省)では、発症前1か月におおむね100時間または発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたり80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関係が強いと評価できると示されていたことから、特に中学校は深刻な状況にあったといえる。

2019年の中央教育審議会の答申※1は「学校・教師が担う業務に係る3分類」や「教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を策定した。

同ガイドラインは、給特法に基づき大臣が定める指針となり、「1か月の超過勤務が45時間を超えないようにすること」「1年間の超過勤務が360時間を超えないようにすること」など、教育職員の業務量の適切な管理等に関する指針が定められた。

指針を踏まえ、都道府県および指定都市は、服務監督教育委員会が定める上限方針の実効性を高めるために条例の整備を行い、服務監督教育委員会は、上限指針を参考に上限方針を教育委員会規則等で定めることが求められた。

2022年の「教員勤務実態調査」を踏まえて推計された月当たりの平均の時間外在校等時間は小学校で約41時間、中学校で約58時間だった。2016年調査と比較して、約18時間、約23時間とそれぞれ減少したものの、2022年度に精神疾患により病気休職を発令された教師の人数は6,539人と、過去最多を更新しており、学校現場は依然として厳しい状況にある※2

また、2022年1月に文部科学省が公表した実態調査の結果※3によれば、2021年5月1日時点で、全国の小学校、中学校、高等学校、特別支援学校で合計2,065人の教師不足の実態が明らかとなった。

※1 「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」(2019年1月)
※2 「令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査」(2023年12月)
※3 「教師不足」に関する実態調査」(2022年1月)

「見える化」「校務DX」による
学校の働き方改革

こうした中で、中央教育審議会「質の高い教師の確保特別部会」は今年5月、「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(審議のまとめ)」を取りまとめた。

「審議のまとめ」では、教師を取り巻く環境整備には、①学校における働き方改革の更なる加速化、②教師の処遇改善、③学校の指導・運営体制の充実を一体的・総合的に推進する必要があるとしている。

①に関しては「全ての教育委員会における働き方改革の取組状況の公平な『見える化』やPDCAサイクルの構築が不可欠」と指摘している。

この「見える化」は、在校等時間といった量的な可視化だけでなく、質的な「見える化」も必要だろう。信州大学教職支援センター准教授の荒井英治郎氏が、長野県教育委員会と協働して、2022年度から県内で希望する学校を対象に「活き活き×やりがい職場調査」を実施している(➡こちらの記事)。組織の状態の「今」を「見える化」していく上で役立つのが、「活き活き×やりがい職場調査」だ。同調査は「働きがい」「組織風土」「相互理解」といった目に見えないものを「見える化」し、一人ひとりが抱える課題を共有しながら、今後の職場のあり方を考えていく組織開発診断ツールとなっている。

また「審議のまとめ」①では「学校・教師が担う業務の適正化の一層の推進」を挙げ、教育委員会が学校に伴走しつつ、先の3分類に基づく業務適正化の徹底、調査の精選、標準を大きく上回る授業時数の見直し、校務DXの加速化等が必要だと指摘している。

3分類の「基本的に学校以外が担うべき業務」にある「学校徴収金の徴収・管理」は学校の教職員にとって大きな負担の一つとなっており、校務DXで負担を軽減できる領域の一つでもある。株式会社MEMEが2024年4月にリリースした学校向けデジタル集金サービス「スクペイ」は、学校がスクペイの管理画面ですべてのお金の管理ができ、請求書を作成すればそれが保護者のスマートフォンに届いて保護者は支払いができるアプリだ(➡こちらの記事)。

管理面では集金から会計処理までの工数を大幅に減らせる仕組みを構築。従来の現金集金では請求書の作成・集金・領収書発行・集計・催促・銀行入金・会計データ作成をするが、スクペイは請求書の作成と請求書の送信だけで済む。未払いの際には、自動催促通知で働きかけることも、学校から手動で通知を送れる仕組みも備えている。

教師不足解消に向けて
処遇改善と経済的負担に注目する

「審議のまとめ」の2点目「教師の処遇改善」に関しては、「教職調整額の率は少なくとも10%以上とすることが必要」「学級担任の教師について、義務教育等教員特別手当の額の加算」「管理職手当等の改善」などを挙げている。一方で、民間の教育現場でも教師の処遇改善が進みつつある。2023年4月に兵庫県明石市に開校した青楓館高等学院。“「右にならえ」の教育に終止符を”を理念に掲げる通信制高校サポート校だ。今年5月、教師不足解消に向け、初任給30万円の新卒採用開始を発表し注目を集めている(➡こちらの記事)。

「審議のまとめ」の3点目「学校の指導・運営体制の充実」では、持ち授業時数の軽減として、「小学校中学年についても教科担任制を推進し、専科指導のための定数改善が必要」「支援スタッフの更なる配置充実と、次世代型『チーム学校』の実現が必要」などを指摘している。

学校の働き方に関する取り組みが進む一方で、あまり注目されてこなかったのが、教師の経済的負担だ。5月に著書『教師の自腹』を上梓した千葉工業大学の福嶋尚子准教授は、公立小中学校の教職員を対象に「教職員の自己負担額に関する調査(2022年度間)」を実施し、その結果を同著で紹介している(➡こちらの記事)。同調査では1,034 人が回答。1年間で自腹をしたことが「ある」と回答した教職員は75.8%に上った。福嶋氏には、調査の特徴や調査結果から明らかとなった実態など話を聞いた。

6月11日、政府は骨太の方針「経済財政運営と改革の基本方針2024」の原案を公表した。原案は「質の高い教師の確保・育成に向け、2026年度までの集中改革期間を通じてスピード感を持って、働き方改革の更なる加速化、処遇改善、指導・運営体制の充実、育成支援を一体的に進める」とし、「働き方改革の取組状況の見える化等、PDCAサイクルを強化し、教師の時間外在校等時間の削減を徹底して進める」「教職調整額の水準や各種手当の見直しなど、給与体系への改善も含めた検討を進め、2025年通常国会へ給特法改正案の提出を検討するなど、教師の処遇を抜本的に見直す」ことなどが示された。

本特集では、「変わる学校、変わる働き方」をテーマに様々な角度から今後の在り方を検証した。学校の働き方改革や教師を取り巻く環境を変えていくことを通じて、教職を生涯を通じて続けられる仕事として取り戻し、教師不足の解消が求められる中、その一助となれば幸いだ。

教師不足の解消に向けて持続可能な働き方の実現が求められている。(画像はイメージ)。

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