地域連携は『弱いつながり』がカギ ICTを活用した探究学習を[AD]

シスコシステムズが「教室の壁を越えて無限に広がる学び」の実現を目指す取組み『デジタルスクールネットワーク』。2021年3月6日に「新しい学力観を養うために ICT はどのような役割を果たすか」をテーマに、高校教員らが参加したオンラインワークショップの模様をレポートする。

国を超えた交流授業を促進 デジタルスクールネットワーク

スタンフォード大学の学生ベンチャー発のネットワークベンダーであるシスコシステムズ。「人々の働き方、生活、娯楽、学習のあり方を変える」をビジョンに、各分野をテクノロジーの観点から支えている。

文科省の GIGA スクール構想により、学校で1人1台端末環境の学びが普及する中、端末のスムーズな利活用に向けたネットワーク環境の整備は喫緊の課題だ。

同社は、クラウド管理型 Wi-Fi「Cisco Meraki MR シリーズ」、クラウド管理型スイッチ「Cisco Meraki MS シリーズ」、クラウド型セキュリティサービス「Cisco Umbrella」、ウェブ会議ツール「Cisco Webex」等を展開。海外及び日本でシェア No.1 のネットワークベンダーとして、教育現場に最適なソリューションを提案している。

クラウドサービスである「Cisco Webex」の利点は、新しいリソースをユーザーがすぐに享受できること。直近では「Webex Assistant」という最新機能が実装され、録画すると自動的に議事録を作成できる。

また、英語のインプットに対しリアルタイムで字幕をつけられる機能(日本語は5月実装予定)やボディランゲージ機能など、授業をよりインタラクティブにする機能も実装され、海外交流やオンライン授業をよりスムーズにするために活用できる。

大学のキャンパスから生まれたシスコシステムズ。同社のテクノロジーを使う世界の学校や教育関係者を結び付けることで、様々な体験、学びを深めていく取組みとして開始したのが「デジタルスクールネットワーク」だ(図1参照)。現在、オーストラリア、インド、シンガポール、日本を中心に参加者が集まり、各国で様々な交流授業を行っている。

画像をクリックすると拡大します

日本における取り組みは2018年9月、全国5つの高校からスタートし参加校は年々増えている。シスコシステムズでは、遠隔教育コミュニティの形成と加速を目指し、「Cisco Webex」などの利用方法のアイデアディスカッション、その他プログラム運用に関するフィードバックなどのトライアルを実施している。

ワークショップに先立ち、「デジタルスクールネットワーク」の取組みを説明するシスコシステムズ公共事業 事業推進本部 部長の田村信吾氏は「来年度は国際交流に力を入れていく予定です。オーストラリアでは、1600校以上の高校生に『Cisco Webex』を活用いただいていますので、日本の学校とうまくマッチングしながら交流授業を作っていきたいと考えています」と話す。

また、教育現場では、コロナ禍の影響もあり、オンラインとオフラインのハイブリッド授業の必要性が高まっている。

「ハイブリッドの中で、オンラインとオンサイトをいかにうまく使っていくかという部分を、教育現場の皆さんと作っていきたいと思っています」

授業の新しい在り方について、地域を超えたコミュニティで模索

ワークショップでは「新しい学力観を養うために ICT はどのような役割を果たすか」をテーマに、全国各地の高校教員や教育委員会などから、参加者が集った。

藤岡慎二 産業能率大学教授

藤岡慎二
産業能率大学教授

講師に産業能率大学の藤岡慎二教授を迎え、オンライン形式で、課題解決型入試問題を教員自身が体験。新たな授業スタイルとしての ICT の利活用や、探究学習の在り方等をディスカッションした。

冒頭、藤岡教授はワークショップの狙いや大学入試改革の状況等について説明した。

「学力の3要素※1を踏まえ、大学入試が変わってきています。新傾向の問題を体験していただくことで、オンラインでの FD(ファカルティ・ディベロップメント:教員の能力開発に向けた取組)の可能性と、今後の授業の新しいあり方を、地域や立場を越境したコミュニティで模索していきたいと考えています」

※1…(1)知識・技能の確実な習得、(2)((1)を基にした)思考力、判断力、表現力、(3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度を指す。

文科省が進める高大接続改革は「学力の3要素を踏まえた上で、学ぶ力を一貫して育む」形で、高校と大学の学びを繋げる取り組みだ。これが、学力の3要素を多様な視点で評価する、大学入試改革にも繋がっている。

また、新学習指導要領が重視する「主体的・対話的で深い学び」は、学力の3要素を育む上で大切だと言われている。これを実現する方法が探究学習だ。しかし、いまだ「調べ学習」と「探究学習」の違いが理解されていない現状がある。

「問いを立てられるかどうかが、探究学習のスタートです。収集した情報を整理分析し検証してまとめただけでは、調べ学習の域を出ません。答えのない問い立て、振り返りがあるかどうかが、調べ学習と探究学習の違いとなっていきます」

「知識・理解思考」、「論理的思考」、「創造的思考」という3段階の領域に対し、「単純」「複雑」「変容」で分け、計9つのマス目に区切ることで思考力を分類する〈思考コード〉で見てみると、これまでのセンター試験では、例えば「フランシスコ・ザビエルは何をした」という「知識・理解思考」が問われてきた。

今回の大学入学共通テストでは、記述式問題は見送られたが、先の例でいえば、「キリスト教の伝来が当時の日本に及ぼした影響は何か」といった「論理的思考」まで問いたいというのが当初の狙いだった。さらに、各大学の選抜試験では「あなたがザビエルなら布教のために何をするか」といった「創造的思考」まで問う問題が、今後増えていくことが予想されると藤岡教授は指摘する。

「探究学習では、自身で問いを立て、実行していくなかで、『君ならどうする』『なぜそうするのか』と幾度も聞かれます。つまり、探究学習を通じて『論理的思考』や『創造的思考』は育まれるのです」

ワークショップの中で「探究学習」と「調べ学習」の違いを解説する藤岡教授

ワークショップの中で「探究学習」と「調べ学習」の違いを解説する藤岡教授

藤岡教授が教鞭をとる産業能率大学では今年、思考力を総合的に評価するため、スマホを使って情報を調べながら問題を解いていくという入試問題を導入した。

知らない知識はネットなどで調べることを前提に、今の社会は動いている。コロナ禍を含め、先の見えない状況の中で「知識を覚えるだけでなく、知識を活用して未来を創造できる人間」を大学としては育成したい。

こうした各大学のアドミッション・ポリシー(入学者受入れの方針)に即した入試問題は、今後増えていくことが予想されると藤岡教授は指摘した。

新たな傾向の入試問題にトライ 多様な視点の重要性に着目

ワークショップでは、産業能率大学で行われた新しい入試問題(サンプル問題)を、教員自身がオンラインで体験。その後、2チームに分かれ、回答や解き方をチームごとに共有。さらに、この問題を解くために有効な高校生の行動について考えた。

設問は「2040年に存続の危機の状況に陥っている未来島に対し、どんな施策をいつ講じれば島の未来を変えることができたと思うか」といった内容(図2参照)。

画像をクリックすると拡大します

仮想上の日本の離島を題材に、1950年代~2040年までの歴史的変遷や人口推移などの資料・情報があり、さらに必要な情報をスマホで調べることが可能だ。

実際90分で解くところを、ワークショップでは、10分で体験。それぞれが「思ったよりも難しい」「回答が『農産物のブランド化』などに偏る傾向がある」というのが参加者の印象。問題を解くために必要な高校生の行動については「地域活性化について、多様な視点で考えられる思考力が必要」、「スマホで何かを検索する以前に、そもそも、何が課題か、何が問題かの仮設を立てる必要がある」といった意見が出た。

ワークショップ後は KPI(keep/problem/try)シートで、参加者自身が学校でやってきた教育活動を振り返り、「続けたいこと、問題だと思うこと、挑戦したいこと」を議論。参加者からは「探究学習における地域との連携、外の人と関わり視野を広げることが重要だ」といった意見などが活発に交わされた。

地域連携型学習の意味を考える ゆるい繋がりが思考を深める

最後は、藤岡教授から、「地域連携の意義」について振り返りがされた(図3参照)。探究学習においてよく使われるのが地域課題を解決するという、地域連携型の学習だ。

画像をクリックすると拡大します

藤岡教授は「地域と連携する意味は、課題というコンテンツだけではなくネットワークに大きな意義があります。学校外との繋がりが生徒の問題意識や深みのある思考力を育んでいくのです」と話す。

「地域課題を地域と深掘りできる」ということも一理あるが、アインシュタインの言葉に『問題が起きた時の状況で、問題は解決できない』というのがある通り、地域に深堀りできる情報、素材があれば、課題は既に解決しているとも言える。

「私が考えるのは、コンテンツではなくネットワーク。ソーシャルキャピタル※2の話になりますが、特に『弱いつながりからなるソーシャルネットワーク』が、多様な幅広い情報を素早く、効率的に遠くまで伝播させるのに向いており、新鮮かつ多様で幅広い情報を生徒に絶えず提供すると考えています」

※2…人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴のこと。

一般的に高密度で繋がっているネットワークの場合、似たような人としか繋がることができず、結果として似た情報だけが閉じたネットワークで回りがちで、情報の伝播という意味では非効率だ。

一方、希薄なネットワークはブリッジが多いため、外からの情報が多く入り情報の伝播も効率的だという。さらに、強い繋がりをより簡単に作れるため、より遠くに伸びやすい。地域との連携は、学校における高密度なネットワークから、弱いつながりからなるソーシャルネットワークへ移行する行為だと言える。

「今回の入試問題では良質な回答をできる子は、明らかに観点が多く、深いでしょう。探究学習で様々な大人と出会い、議論してきたことが活きてくるでしょう。探究学習における、生徒の裏にあるソーシャルネットワーク、ソーシャルキャピタル、繋がりが思考を深め、答えを洗練させていくのだと思います」

地域連携においては、コンテンツとネットワークのバランスをどうとっていくかが重要となる。さらに、一度弱いつながりを構築した後に、それをどう維持していくかも課題となる。そこで藤岡教授は、コーディネーターの重要性を挙げる。

「地域と学校をつなぐコーディネーターの存在は重要で、コーディネーターには、つながりをコントロールしたり、維持したり、場をつくっていく役割が今後増々期待されていくと思います」

地域の人と学校外の弱いネットワークを構築することが、問いを立てるてがかり、答えを導きだす糧となる、新鮮かつ多様で幅広い情報を絶えず提供する。そういう意味では、この活動は、地方だけでなく都会でも可能だ。

「自分自身の多様な広い情報を素早く効率的に遠くまで伝播させる『弱いつながり』を、地域連携でいかに作っていくのか。これで、探究学習、PBL などの質は変わっていくと思います。こうした弱いつながりを学校と地域でどんどん作っていくために、私自身も貢献できればと思います」

その「弱いつながり」を広く構築するのに、ICT は大きな役割を果たすだろう。

【お問い合わせ】

シスコシステムズ

シスコシステムズ合同会社

お問い合わせウェブフォーム
https://www.cisco.com/jp/go/vdc_callback

デジタルスクールネットワーク特設 HP
https://www.cisco.com/jp/go/dsn