特集2 ICT活用で進化する探究学習 次代を担う力を育む文理横断的な学び

文部科学省のDXハイスクール事業がICTを活用した文理横断的な探究的な学びを強化する学校などに対して、必要な環境整備の経費を支援している。教育現場でICTを活用した探究的な学びが広がる中、本特集では文理(教科)横断・探究的な学びの最前線を追った。(編集部)

DXハイスクール事業で進む
文理横断・探究的な学び

デジタルなど成長分野を牽引し未来を担う人材を育成していく上で、文理の枠に捉われない文理横断・探究的な学びの重要性が高まっている。

文部科学省では、成長分野への大学・高専の学部再編等を後押しするとともに、いわゆる文系・理系に別れる傾向がある高校段階において、令和5年度補正予算のなかで、「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」に100億円を計上。同事業は、情報や数学等の教育を重視するカリキュラムを実施するとともに、ICTを活用した文理横断的な探究的な学びを強化する学校などに対して、必要な環境整備の経費を支援する。

支援対象は、ICT機器整備(ハイスペックPC、3Dプリンタ、動画・画像生成ソフト等)、遠隔授業用を含む通信機器整備、理数教育設備整備、専門高校の高度な実習設備整備、専門人材派遣等業務委託費などを想定。

公立・私立の高等学校等(1,000校程度)を対象に、補助上限額1,000万円/校の定額補助を実施する。24年4月、文科省は採択校を公表した。採択された学校数は1010校(公立:746校、私立:264校、採択額は100億円)となった(図表)。

図表 都道府県別採択校数

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DXハイスクールを踏まえ、一般社団法人デジタル人材共創連盟(デジ連)は「DXハイスクールプラン集」を公開した(➡こちらの記事)。「DXハイスクールプラン集」は、AからFまで6つに分類、現在8つのプランを掲載している(AとEはプラン①②と2つある)。また、12のモジュールを準備し、各プランに適切に配置した。モジュールは「デジタルものづくり」「IoT」「遠隔授業」「データ活用」など、項目ごとに概要と必要な機材、必要予算額が記されている。

デジ連代表理事の鹿野利春氏はプラン作成の背景をこう話す。

「文部科学省からDXスクールが発表された当初から教育委員会や学校からのご相談を多くいただき、1,000 万円の予算規模に対して教育プランを学校がゼロベースで短期間に作ることは難しいと考えました。探究的な部分、AI活用やものづくりの視点など、バランス良く入れたプランを我々が作成し、モデルプランとして出すことで、採択校の支援をしています。プランに関しては、既に200件以上の相談を受けています」

教科横断・探究的な学びを実践する
教師・学校の取り組み

DXハイスクールに採択されている日出学園高等学校。幼稚園から高等学校までの総合学園として、少人数制で独創的な教育を実践している。同校では、各学年において週1で総合的な学習・探究の時間を開講。加えて、高等学校で武善紀之氏が担当する「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」「人間と機械」をはじめ、各科目でも探究的な学びを展開している(➡こちらの記事)。

武善氏が教科横断・探究的な学びという意味で「特にこだわっている」と話すのが、「倫理」をベースとした学校設定科目「人間と機械」だ。同科目は、哲学や心理学、情報科学をベースとしたアプローチで、人間と機械の関係性を深掘りすることを目的としている。心理実験を行ったり、生成AIをはじめとした人工知能を活用したりしながら、人間と機械の関係を模索・探求していく。

「機械の便利さを追求していくと、結局、“人間の価値とは何か”にたどり着きます。教育現場で探究学習は通常『究』の字を使いますが、この科目では、究めるのではなく、探し求める探『求』を大事にしています」

こう話す武善氏に、教科横断・探究的な学びの視点を伺った。

2018年からは文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定を受けている青翔開智中学校・高等学校。同校は探究を中心に据えた独自の教育プログラムにより、世界の課題を創造的に解決できる人材の育成を目指している(➡こちらの記事)。

同校最大の特徴は6年一貫の探究プログラムを確立し、建学の精神である「探究・共成(共に成長する)・飛躍」の具現化を推進している点だ。

同校で探究部主任を務める田村幹樹氏は「現在、中学校1年生から高校3年生までが週2時限、探究学習に取り組んでいます。最終的な目的は探究学習を通じた自己実現にあると考えており、探究の集大成として高校2・3 年生で行う『個人テーマによる課題研究』『探究修了論文執筆』という課題研究につなげています。また、中学校1年生から高校1年生までは、探究活動に必要なスキルの獲得やマインド醸成に重点を置いており、探究の授業をベースに教科横断的にそれらの力を育成しています」と話す。

田村氏には、探究プログラムなどの具体的な取り組み内容や狙いについて話を伺った。

子ども達の思考を拡張する
プロトタイピングツールとは?

DXハイスクールの支援対象となっているICT機器の整備(ハイスペックPC、3Dプリンタ、動画・画像生成ソフト等)。このうち、3Dプリンタ等によるデジタルものづくりは、子ども達のアイデアを形にし創造性を拡張する学びとして注目を集めている。VIVIWARE社は“モノづくりを通して「世界は自ら変えられる」という実感を子どもたちにもってほしい”というビジョンを掲げ、誰もが自分の未来を創り上げていける社会の実現を目指している(➡こちらの記事)。同社がアイデアを具現化し思考を拡張させるプロトタイピングツールとして開発した「VIVIWARE Cell」。専門的な知識がなくても直感的・感覚的に扱え、センサーやアクチュエータなどの機能モジュールを組み合わせて、ロボット・電子楽器・デジタルアートなど、簡単に試作にすることができる。

また、「VIVIWARE Shell」は、レーザーカッターなどを使って加工するための二次元図面データを作成するアプリケーションだ。CAD(図面作成ツール)の専門的な知識がなくても、指一本で感覚的に図面を作成。自由自在にロボットのホイールや車体をデザインすることができる。こうしたツール・アプリを開発したVIVIWARE代表の嶋田翔三郎氏に話を伺った。

本特集は「ICT活用で進化する探究学習」をテーマに様々な角度から探究学習の在り方を検証した。様々な教育現場で実践する上での一助となれば幸いだ。

これからの時代を生きる力を育むための文理横断・探究的な学びの広がりが期待される。(画像はイメージ)。

Photo by яна винникова / Adobe Stock