特集2 遠隔授業、チーム担任制、入試制度など 少子化時代の学校改革
国内では少子化の進行に伴い、これまで100万人を超えて推移してきた15歳人口が、2029年は100万人を割り込み、2038年は約74万人になる見込みだ。少子化に伴い生徒数の減少、学校の統廃合や小規模化が進む中、いま必要な学校制度・教育改革とは何かを展望した。(編集部)
遠隔授業で多様な学習ニーズに
対応し柔軟で質の高い学びを
2025年4月、総務省が公表した人口推計(24年10月1日現在)によれば総人口は1億2,380万2,000人。前年から55万人減少し、減少は14年連続となった。さらに13年連続で減少幅が拡大した。また、15歳未満人口は1,383万人。前年から34万3,000人減少し、総人口に占める割合は11.2%で過去最低となった。
少子化を背景に高校の統廃合や小規模化が進んでいる。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2019年11月に公表した調査※1によると1990年時点で公立高校が1校のみの市町村は1,197だったが、そのうち245市町村は2019年までに0校となった。文部科学省の資料によれば、公立高校の学校規模は徐々に縮小傾向にあり、2011年から21年度にかけては、学校数が約200減少した一方、小規模校の割合は増加したと指摘している※2。
高校の統廃合や小規模化が進み、生徒の進路希望に応じた科目開設などが困難な高校も少なくない中、どの学校でも多様な学習ニーズに対応し、柔軟で質の高い学びの実現が必要となる。文科省では2015年から、高校の全日制・定時制課程における遠隔授業(教科・科目充実型)を正規の授業として制度化。対面授業と同等の教育効果がある場合、受信側にその教科の免許を持つ教員がいなくても、同時双方向型の遠隔授業を行えるようになった(図表1)。
こうした中、自治体では遠隔授業の環境整備を進めている。鹿児島県は2025年4月、県総合教育センター内の遠隔授業配信センターから離島の小規模高校に向けて遠隔授業を実施。同センターの5人の教員が各専門の教科を担当。受講した生徒には単位認定も行う(➡こちらの記事)。
多様化が進む部活動
地域移行に必要な取り組み
生徒数の減少によって、一つの学校の運動部で必要なチーム数を満たさない部活動も増えてきている。さらに、ダンス部やプログラミング部など、種類や価値観の多様化も進み、生徒の希望する部活動がないといったことも起きている。また、世界一多忙といわれる日本の学校教員にとって、部活動の指導は大きな負担だ。競技経験のない教師が指導していることも多いといった課題もある。
文科省は「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」(2020年)において「23年度以降、休日の部活動の段階的な地域移行を図る」とした。25年度予算では「地域クラブ活動への移行に向けた実証」(16億円〔加えて前年度補正予算額29億円〕)など、部活動の地域連携や移行に向けた一体的な環境整備を進めている(図表2)。地域移行が加速するなか、いち早くその支援に向けた事業を展開してきた企業がアーシャルデザインだ。同社の保有するスポーツ人材を部活動指導員として学校に派遣する「アスリートボックス」事業では、部活動の地域移行推進における指導者の派遣、事務局(コーディネーター)の設置や地域移行モデル事業の実施を展開している(➡こちらの記事)。
また、生徒数が減少しても、教員の負担が軽減しているわけではない現状において、学級担任の責任の軽減や指導における教員の専門性(強み)の活用など「チーム担任制」への注目が高まっている。兵庫教育大学大学院准教授の安藤福光氏には、「チーム担任制」とは何か、その背景、教員・生徒にとっての成果、導入にあたっての留意点などについて寄稿いただいた(➡こちらの記事)。
教育の無償化が進むいま
入試制度改革にDAの導入を
少子化が進む中、高校の授業料や学校の給食費など、教育の無償化に関する議論が盛んになっている。今年3月に成立した25年度予算では、高等教育における多子世帯学生等の授業料・入学金を所得制限なく無償化した。一方、私立高校の授業料が無償化されると、私立校や公立校の人気の変動により、合格可能性の読み合いが複雑になることで、生徒の負担が増すことが懸念される。その原因は公立高校の入試制度における「単願制」にある。その課題解決に向けて「受入保留アルゴリズム(DA)」への注目が集まっている。制度導入の意義と可能性を東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)の野田俊也氏に聞いた(➡こちらの記事)。本特集は「少子化時代の学校改革」をテーマに、部活動、チーム担任制、遠隔授業、入試制度の視点から検証した。次世代を担う子ども達のより良い学びの環境実現に向けた一助となれば幸いだ。
※1 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「高校存続・統廃合が市町村に及ぼす影響の一考察~市町村の人口動態からみた高校存続・統廃合のインパクト~」(2019年11月22日)
※2 中央教育審議会「高等学校教育の在り方ワーキンググループ審議まとめ 参考資料集(1-3)」