初等教育からリカレント教育まで一貫性ある学びの在り方を検討

2020年10月19日、社会情報大学院大学で第1回目の『今後の社会を見据えた ICT 活用教育研究会』(座長:川山竜二社会情報大学院大学教授)が開催された。社会に必要とされる学校段階の教育の在り方を検討し、提言を行なうことを目的に立ち上がった。今年度の研究会を通じ、次年度以降の指針を示すことを目指す。

川山竜二

川山竜二

社会情報大学院大学 研究科長・教授

堀田龍也

堀田龍也

東北大学大学院情報科学研究科教授。教育再生実行会議初等中等教育 WG 委員や「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会」議座長等

コロナ禍で急速に進む教育の ICT化。初等中等教育では、2019年度に打ち出された『GIGA スクール構想』の早期実現へ向けた動きが加速。高等教育においては、高度なスキルを持つプロフェッショナル人材の育成や社会人のリカレント教育、主体的な学びが重要視されている。

こうした中、各教育段階における議論だけではなく、これからの社会を見据えた教育のあるべき姿を描き、初等中等教育から高等教育・リカレント教育まで一貫性ある学びの在り方を検討していく必要がある。

学校法人先端教育機構が主催する『今後の社会を見据えた ICT 活用教育研究会』では、教育現場の ICT 環境整備・活用も含めた学びの在り方について、現状と課題を把握・整理し、整理された論点をもとに中期的には実証実験を進めていく。

第1回の研究会では、教育産業や教育機関など各教育分野で活躍する有識者を招聘。研究会の位置づけを提示した上で、高等教育、初等中等教育の現状と課題について、川山竜二教授(社会情報大学院大学)と、堀田龍也教授(東北大学大学院)の両氏が講演。その内容についてディスカッションする形で議論を進めた。

ハイパー・ラーニングソサエティ、リカレント教育へ高まる注目

川山教授は、高等教育・専門教育の観点から、これからの社会像と求められる人材像について話した。

川山:政府の提唱する『Society5.0』の背景には、少子高齢化で労働生産人口が減少する中、先端科学技術の実装による課題解決と経済成長の実現という2つの狙いがあります。

そして『Society5.0』の社会では、これまで分断されていた知識と情報を共有し、分野横断的に連携することで新たな価値を創造していくことが求められています。さらに知識や情報を利活用するためには、それらを流通させるためのインフラが必要となり、これから養成される人材には、情報や知識を整理するための知識(メタ的な知識)が不可欠となるでしょう。

こうして、知識を創造し普及し活用するというトライアングルを回し、常に新たな知識を創造していくことが、今後の社会発展の基盤になっていきます。そのため、知識が最大の生産資源になり、知識を創り出す知識労働者と、創られた知識を使って働くサービス労働者の格差は増々拡大していくことが予想されます。

知識社会は世界との境界もなく、競争の激しい社会になると言えます。こうした知識社会で自己実現をしていくために、学習が重要な側面を帯びてきます。それを私は『ハイパー・ラーニングソサエティ』といっています。

生涯を通じた学習は自ら選択可能ですが、学ぶ、学ばないという選択の結果はキャリア形成に影響します。知識社会ではキャリア形成の自己責任を負わなければならないのです。

また、知識は細分化・専門化していくため、職業専門職教育の充実や更新される知識を維持するための継続教育、リカレント教育への注目度はますます高まっていきます。知識そのものの可変性が高くなるなか、知識の入れ替えを可能にするため、知識の細分化、モジュール化が進む。同時にそれらの知識を見極める総合的な視点も重要となっていくのです。

かつて印刷技術が発明されたことで、知識が標準化され蓄積されて爆発的に増大して細分化されました。現代における ICT も同様です。ICT は教育を再考するトリガーであり、これからの社会に合致した教育とは何かを考えるきっかけでもあります。

教育はコンテンツから、コンピテンシーへ

続いて堀田教授は、初等中等教育の現状と課題についてまとめた。

堀田:まず、学校教育は非常に多目的ですので、学習の分野による個別化だけが学校の機能ではありません。ですから、特に義務教育に意見するのであれば、あらゆる事情で学習が困難な、多様な状況の子どもを抱えて公教育が動いていることを前提とした上で、理想論ではない議論を交わす必要があります。

つまり、全ての学校が、これを頼れば前進するような普及モデル・一般化できる先導的なモデルを考えていく必要があるのです。

人生100年時代は、義務教育で得た知識で一生は生きられない時代です。このため、今後は『学び方』や『学ぶ意欲』を義務教育の間にいかに身につけさせるかが命題となります。常に知識の更新ができなければ立ちゆかなくなる時代。教科そのものというコンテンツから、『学び方』というコンピテンシーへと教育の軸は変わっていくのです。

ですから、例えば教科で割り切れないことを教育しなければならない時代に、教員の免許は教科で発行され、授業時間は教科で決められています。こうした、学校の形自体を考え直していく必要があるのです。

また、教員側の課題で言えば、2018年の時点で50歳以上が37%、3人に1人があと10年で定年を迎えます。人材の確保が急務となる中、デジタル化が遅れ、多様性への対応が進まない学校に、若い優秀な人材がどれだけ集まるのでしょうか。

だからこそ学校の情報化は、今のためだけでなく、サステナブルな公教育を実現するための必要な条件となります。また、日本の子ども達は ICT を学習に利用していない(OECD では最下位)というデータもあります。これも学校教育が情報化をしてこなかったことの裏返しと言えるでしょう。

学習指導要領は10年に1度、文部科学省が改訂し、審議は中央審議会(中教審)で実施されています。英語教育の必要性は30年ほど議論され続けてきましたが、小学校に教科として位置付くまでに相当の時間がかかりました。国の基準が変わったからと言って現場がすぐに変わるはずもなく、現実は非常に厳しい状況にあります。

この10月には、中教審による『令和の日本型教育』の中間まとめが公表されました。中間まとめの総論に示されているのは、『人間の生き方、生きるための教育の在り方』です。

教育の議論となると個別的な議論になりがちですが、この研究会が提言をするのであれば、大きな人格形成といった教育の目標に対して、どう学び直しをしながら生きていける子どもたちを育成していくのか。そうした観点から提言していく必要があるかと思います。

研究会では、初年度ビジョンとして、ICT を利活用した各教育現場の現状や課題を把握した上で、今後議論すべき事項に関する指針について、論点として整理することを目指す。中期的には、(1)高等教育と初等中等教育の接続の検討を進めること、(2)『令和の日本型学校教育』構築の一助となることを目指していく。