特集2 共同調達や新たな授業デザイン NEXT GIGAの展望と課題

GIGAスクール構想により全国の学校で1人1台端末での学びがスタートした。一方、端末故障の増加、バッテリーの耐用年数が迫るなど端末更新が必要なほか、多様な課題も顕在化している。本特集はGIGAスクール構想第2期をNEXT GIGAと題し、現状の課題や展望を探った。(編集部)

国策として端末更新を進める
GIGAスクール構想の第2期

1人1台端末と校内ネットワーク環境の整備を推進したGIGA スクール構想。2021年度からは全国の小中学校で1人1台端末環境下での新しい学びが本格的にスタートした。

一方、早期に導入した自治体では、端末故障の増加、バッテリーの耐用年数が迫るなど、端末の更新が必要になってきている。

23年11月に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」では「国策であるGIGAスクール構想の第2期を見据え、(略)地方公共団体の故障率も踏まえた予備機を含む1人1台端末の計画的な更新を行う」ことが盛り込まれた。また、「地方公共団体における効率的な執行等を図る観点から、各都道府県に基金を設置し、5年間同等の条件で支援を継続するとともに、(略)都道府県を中心とした統一・共同調達の仕組を検討する」とした。

この方針を受け、文部科学省では令和5年度補正予算において「GIGAスクール構想の推進~1人1台端末の着実な更新~」(2661億円)で予算措置をしたほか、伴走支援「GIGAスクール運営支援センター整備事業」(35億円)等の取組みを進めている。

24年1月、文科省は基金による端末整備・更新への支援を具体化するものとして、国から都道府県に基金造成のための補助金を交付する手続を規定する「公立学校情報機器整備事業費補助金交付要綱」(交付要綱)を制定、都道府県による補助金の管理運営について規定する「GIGAスクール構想加速化基金管理運営要領」(運営要領)を制定した。

運営要領では、地方公共団体等による端末整備・更新事業が基金からの補助を受けるための各種条件を設定しており、これらの条件を更に具体化するものとして、文科省は、「GIGAスクール構想の実現 学習者用コンピュータ最低スペック基準」(最低スペック基準)及び「公立学校情報機器等整備事業に係る各種計画の策定要領」(計画策定要領)を策定している。

24年4月に文科省が公表した「GIGAスクール構想の実現 学習者用コンピュータの調達等ガイドライン」(ガイドライン)では、第2期を見据えた端末の整備・更新について、運営要領、最低スペック基準、計画策定要領等の文書に基づき、端末の整備・更新を行う地方公共団体が基金からの補助を受けるために検討しなければならない事項や、共同調達をはじめとした実施しなければならない手続を概括的に解説している。

GIGAスクール構想の進展で
顕在化する課題と先進事例

GIGAスクール構想の第2期(24年度から28年度)以前から共同調達を実現した奈良県は、県や市町村の教育長、行政、有識者などを集めた「奈良県域 GIGA スクール構想推進協議会」を設置し、予算や具体的な実現方法などの議論を重ねたのち、20年7月に県内約40の自治体で共同調達を行った。当時、奈良市教育委員会に所属し、共同調達を実現したキーパーソンの一人で、現在は一般社団法人教育ICT政策支援機構の代表理事を務める谷正友氏に、共同調達によるメリットや、都道府県域の自治体間での合意形成の進め方などについて話を伺った(➡こちらの記事)。谷氏は「どんな端末が良いのかという合意形成を目指す前に、どんな教育を目指したいのか、みんなで大切にしたいことは何かといったことについて、合意形成をすることをお勧めしています」と話す。

また、1人1台端末の本格的な活用が全国の学校で進む中、課題も顕在化してきている。

学びのデジタル化や授業デザインが専門の山梨大学准教授の三井一希氏は、「私が感じている課題は大きく分けて2つあります」と話す(➡こちらの記事)。三井氏によれば、第1の課題は1人1台端末を活用して授業スタイルを大きく転換できたところと、そうではないところの格差が広がっていることだ。「1人1台端末は、学習指導要領が求める『主体的・対話的で深い学び』を実現するための装置のはずですが、うまく機能していないところがあるのは、学習者主体の授業観ではなく、旧来型の教師主導の授業観から脱していないからだと思います」と三井氏は話す。

第2の課題は、子どもたちの間に生じている体験格差だ。旧来型の授業観の教師と、学習者主体の授業観による教師の授業では、自然と子どもたちの端末活用にも影響が出てくるはずだ。三井氏はNEXT GIGAに向けて「児童生徒の操作スキルをさらに鍛えることも大切ですが、もっと没入する学びにしていく必要があります」と指摘する。さらに三井氏は、自身の専門分野である「インストラクショナルデザイン(ID:Instructioal Design)」が教師の新たな授業デザインにおいて役立つと考えIDの理論を教師だけでなく、子どもたちにも教える取り組みを行っている。

一方で、文科省ではGIGA端末の標準仕様に含まれている汎用的なソフトウェアとクラウド環境を活用し、児童生徒の情報活用能力の育成を図りつつ、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実や校務DXを行い、全国に好事例を展開するための事業「リーディングDXスクール」を実施している。

その中で町内全ての小中学校がリーディングDXスクールの指定校に選ばれ、全国から年間600人以上が視察に訪れるのが静岡県吉田町だ(➡こちらの記事)。当時、吉田町教育委員会の指導主事として、DXを推進したキーパーソンの一人だった平井奉子氏は、現在、文部科学省初等中等教育局GIGA StuDX推進チームに出向している。平井氏には、端末活用が当たり前になるまでの取り組みや、端末活用が日常化した授業の様子、校務での変化などについて話を伺った。

1人1台端末による
次世代のいじめ対策

1人1台端末の活用は、教育活動や校務に限らない。スタートアップのスタンドバイでは「助けたい人を助けられる社会」の実現を目指して、いじめ防止授業、匿名いじめ報告相談アプリ「STANDBY」、こころの健康観察及びいじめリスクアセスメントアンケートアプリ「シャボテンログ」の3つのサービスを展開している(➡こちらの記事)。

STANDBYは児童生徒用の「STANDBYアプリ」と相談員や管理者用の「STANDBY Admin」から成る報告・相談プラットフォーム。児童生徒はスマホやタブレットのSTANDBYアプリから、自治体や教育委員会、カウンセラーなどの専門相談員に、匿名によるチャット形式で報告や相談をすることができる。

電話やメールよりも心理的なハードルが低い上、利用料を児童生徒1人当たり年間数百円と安価に設定していることもあり、現在、アプリの導入は32自治体・1304 校へ拡大。相談件数は年間8000件に到達している。いじめの未然防止から早期発見、早期対応までの鍵は、被害者がいかに報告、相談しやすい状況を作るかにあると同社代表取締役の谷山大三郎氏は力を込める。

本特集ではGIGAスクール構想の第2期を「NEXT GIGA」と題して、その展望と課題を追った。教育現場における端末活用などの一助となれば幸いだ。

NEXT GIGAでは1人1台端末の更なる活用が求められている(画像はイメージ)。

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