特集紹介 教育現場とChatGPT 英語・プログラミング教育、働き方改革

ChatGPTをはじめ、生成AIの技術革新が飛躍的なスピードで進んでいる。ビジネスシーンで多様な活用が始まる中、教育現場も様々なメリットを指摘する声がある。一方、生成AI活用への懸念の声もある。教育現場における最新の取組みから、その可能性を探った。(編集部)

文部科学省が暫定的な
「生成AI ガイドライン」公表

ChatGPTなど、生成AIの技術革新が世界中から注目を集めている。既に、文章作成、翻訳、プログラミング、情報収集・分析など、ビジネスシーンでは多様な活用が始まっている。生成AIは大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)によって、統計的にそれらしい応答を生成する。そのため、回答には誤りが含まれる可能性があり、利用に年齢制限(ChatGPTの場合は13歳以上に限られ、18 歳未満は保護者同意が必要)が設けられている。

こうした特性を踏まえた上で、文部科学省は7月4日、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表した。ガイドラインでは基本的な考え方として「現時点では活用が有効な場面を検証しつつ、限定的な利用から始めることが適切である」とし、「子供の発達の段階や実態を踏まえ、年齢制限・保護者同意等の利用規約の遵守を前提に、教育活動や学習評価の目的を達成する上で、生成AIの利用が効果的か否かで判断することを基本とする」としている。

また、学校外で使用される可能性を踏まえ、全ての学校で、情報の真偽を確かめること(ファクトチェック)の習慣づけも含め、情報活用能力を育む教育活動を一層充実させ、AI時代に必要な資質・能力の向上を図る必要性を指摘。教員研修や校務での適切な活用に向けた取組みを推進し、教師のAIリテラシー向上や働き方改革に繋げる必要があるといった考え方も示している。

さらにガイドラインでは、生成AI活用における「適切でないと考えられる例」(図表1)、「活用が考えられる例」(図表2)を示している。

図表1 適切でないと考えられる例(一部を抜粋)

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図表2 活⽤が考えられる例(一部を抜粋)

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学校教育現場での活用から見る
生成AIの可能性とは?

文科省では教育現場のDX推進の支援として「学校DX戦略アドバイザー」の活用を進めている。その中の対応可能分野として「生成AI」を設け、既に4名が登録されている(2023年8月21日確認時点)。その一人であるスクールエージェント代表取締役の田中善将氏は、教育ICT研究授業サービスを手掛ける傍ら、関東第一高等学校の情報科教員としてChatGPTを活用した授業を展開(➡ こちらの記事)。まずは、プロンプトエンジニアリングの基本を理解することが重要と考え、課題を通じて試行錯誤しながら指示の仕方を学んでもらい、その後は、様々なタイミングでChatGPTを利用しているという。

また、同社では指導者である教員がChatGPTを活用できるよう、今年6月から7月まで「教育向けLLMプロンプトエンジニアリング マスターコース」(全5回)をオンラインで開催。すでにChatGPTを使って学習指導案を作成したり、評価に活用している教員も出るなど、着実にスキルを上げているという。

ChatGPTの活用は学校の働き方改革としての期待もある。 そうした中、2022年にNEXCENTを創業した代表取締役の小澤悠氏は、今年3月に、ChatGPTを活用した教育機関の働き方改革コンサルティングサービス「SmartTeach」を開始した。

業務効率化による負担軽減、探究学習の選択肢拡充、授業・学習支援、教育レベルの向上を目指した研修などを提供(➡ こちらの記事)。すでに静岡県の御殿場西高校での研修実施に加えて、兵庫県の三田学園とAI活用における共同研究のパートナーシップを結び、実践が始まっている。総合型選抜など大学進学に必要な小論文や自己推薦書の添削指導、探究学習における情報探索・整理、教員の授業準備、テスト作成サポートなどの対策に関わっていくという。

英語やプログラミング領域で
活用が進む高等教育

ChatGPTなど、大規模言語モデルを活用した対話型生成AIは、統計的にそれらしい応答を生成するため、一般化された知識、共通認識となった知識は得意領域といえる。

日本女子大学の倉光君郎教授は、今年4月から、ChatGPTを活用した対話型プログラミング学習支援システム「KOGI」を開発し、中高生の情報オリンピック講座から大学院生向けのデータサイエンス演習まで幅広い対象の学生たちに、AIを活用した能力向上に取り組んでいる(➡ こちらの記事)。「KOGI」は、学生から“KOGIくん”と呼ばれるAI犬。プログラミングで発生したエラーや質問を入れると、解決のためのヒントを出してくれる。現在、さまざまなレベルのクラスで「KOGI」の利用を行っているが、「エラーなどの初歩的なミスで演習が進まない」といった状況は、大幅に減ったという。

続いて、生成AIの活用が期待される領域の一つが英語学習だ。立命館大学は、2023年度前期、生命科学部・薬学部合わせて約150名を対象に、「ChatGPT」と機械翻訳を組み合わせた英語学習ツール「Transable(トランサブル)」を試験導入し、英語によるアウトプット精度の向上や社会で使える英語スキルを学生自身が能動的に体得することを目指した(➡ こちらの記事)。「Transable」は、①入力した日本語文をDeepLで英語文に自動翻訳、②GrammarlyのAPIで翻訳された英語文の文法をチェック、③完成した英語文を日本語文に“逆翻訳”して、意図した通りの英語文が作成できているかを確認、という作業が一画面でできるよう設計されている。

立命館大学生命科学部の山中司教授は「授業でのもっともシンプルな活用法は、①②の結果と自作の英文とを比較するものです。いい意味でレベルダウンするなど、修正・編集を加えて自分のものにするプロセスが、学生たちにとって良い気づきを与えてくれます」と話す。

生成AIが児童生徒・学生の学びの妨げになり得る一方で、上手に活用すれば、個々人の学びをサポートしたり、働き方改革に寄与するなど、様々な可能性を秘めている。本特集では、ChatGPT活用の最前線を追った。各取組みから、教育現場での適切な活用の一助となれば幸いだ。