オンライン探究学習「BEAU」 好奇心の追求こそが成長の原動力
地域密着型オンライン探究学習プログラム「BEAU LABO」が始動5年目を迎えた。福井県内の高校生を主な対象に、サポートする大学生の成長にも大きく寄与している。同プログラムを運営する一般社団法人BEAU(ビュー)代表理事の小原涼氏に、これまでの手応え、今後の抱負を聞いた。
中国・上海の活況に刺激され
早くも高校2年生で起業家に

小原 涼
一般社団法人BEAU 代表理事、株式会社RUProduction 代表取締役、株式会社FPEC 代表取締役CEO
2000年生まれ。17歳の時に福井でデザインとブランド戦略の会社を設立。2020年に高校生を対象とした地域密着型オンライン探究学習プログラム「BEAU LABO」を運営する一般社団法人BEAUを設立し、代表理事に就任。2022年にOOKABE Creations株式会社とともに株式会社FPECを設立。ブランディング・マーケティング支援事業と、福井県若者情報発信局(FWI)の運営を行う。
──一般社団法人BEAU設立の経緯をお聞かせください。
設立の背景には子ども時代の原体験があります。父の仕事の都合で10歳のときに家族とともに上海に渡り、3年ほど暮らしました。その間、2010年に上海万博が開催され、2011年には中国が日本のGDPを追い抜くなど、中国の経済がめざましく成長していく時期でした。街の活況を肌で感じる経験を通して、「お金」や「経済」、そして「会社」というものに関心を持つようになりました。そこで、学校のクラス内で架空のお金をつくり、実験的に運用したりしていました。
本格的に経営や商学を学びたいと考え、中学生時代は塾にも通っていたのですが、その塾の先生から「高校生でも会社をつくれる」と聞き、中学3年生で企業のロゴデザイン制作の仕事を始めました。会社を起こそうにも、どのような業種や業態があるのか見当がつかなかったので、まずは様々な企業の方の話を聞ける事業をしようと考えたわけです。ロゴをつくるには、依頼主のビジネスモデルや起業の想い、将来の展望などを深く理解する必要がありますから、大いに勉強になりました。
こうして高校2年生までには約200社のロゴを制作しており、事業として成り立つことに気づいて起業しました。その後、福井のおもしろい人やお店、観光地、商店街、著名人などを、高校生が取材して発信していく高校生団体としてBEAUを立ち上げました。高校生活の合間を縫って東京への出張も増えると、福井のことを紹介したくても、地元のことを何も知らないなと気づいたことがきっかけです。
やがて、探究学習が教育現場で注目されるようになり、より進路に直結した探究プログラムをつくろうと、2020年に「一般社団法人BEAU」として法人化しました。現在では、地域密着型のオンライン探究プログラムを展開するに至っています。

2024年度末のBEAU LABO第20期オリエンテーション。オンラインによる初顔合わせだ。
成長の原動力は好奇心
学校や学年の垣根を超えて学び合う
──オンライン探究学習プログラム「BEAU LABO」には、どのような特色がありますか。
BEAU LABOは、全国の仲間と3カ月間、本気で探究学習に取り組むオンラインプログラムです。現在、地域経済、農業、医療福祉、教育など10分野の「ラボ」があり、参加者はその中から1つ選んで参加します。BEAU LABOにおけるキーワードは「好奇心」です。好奇心を起点として、自分が関心を持つ分野が社会の中でどのように機能しているのかを探り、理解を深めていくことを大切にしています。
学校教育で得られるのは、いわば「脱文脈的」な学びです。同じ教科書を使っていれば、たとえ宇宙にいてもどこにいても、同じ知識を得ることができます。でも、ひとたび社会に出てみると、目の前で起こっている現実こそが最大の学びの材料になります。教科書のように順序立てて知識を得られるわけではないため、時には難しさを感じることもありますが、だからこそ「スッと入ってくる」感覚もあるんです。そこで得られるワクワク感は、学校での学びとは大きな差があると感じています。
私自身、会社経営とは日々現場で実務をこなしている人たちが築いている実践の積み重ねだと、起業を通じて学んできました。「知りたい」という強い気持ちがあるかどうかによって、同じ情報から得られるものがまったく違ってくるのだと気づきました。
そこでBEAU LABOでは、単に大学と連携してアカデミックな学びを提供するのではなく、ラボごとに企業や行政が連携し、実践レベルの学びを得られる環境を実現しています。地域の企業や個人で活動している人々とつながりながら、その分野が社会の中でどのように行われているかを理解することを重視しています。

企業や行政などの協力により、BEAU LABOでは「現場」を体験する機会も提供している。
──各ラボでは、具体的にどのような活動が行われていますか。
何に取り組むかは、各チームの自主性に任せています。とはいえ、高校生だけでは難しい部分もあるため、各ラボには大学生のボランティアが1人ずつ入り、「ディレクター」として活動をサポートしています。
例えば、農業ラボでは、無農薬・無肥料の自然栽培で育てられたみかんを使ったスコーンを開発し、大手百貨店で販売したチームがありました。あるいは工業ラボでは、プログラミングのスキルを活かして実際にサービスをリリースしたこともあります。国際問題ラボでは、各種イベントを企画・開催するなど、アウトプットの機会が多い傾向にあります。
また、地域経済ラボでは「自分で物を売る体験をしてみたい」と、本の表紙を隠し、感想文だけを書いたカバーをかけて販売する「シークレットブック」のような形で、商業施設で書籍を販売するプロジェクトを実施したこともありました。このように、各ラボでは実社会とつながりながら、独自のテーマに基づいた多様な活動が行われています。
悔しさをバネに学びの質を深める
大学生ボランティアも大きく成長
──参加者の様子について、お聞かせください。
初回の1期生は、わずか8人しか集まりませんでしたが、新型コロナウイルスの影響で2期生からオンライン開催に切り替えたところ、参加者が一気に30人に増えました。その後は期を重ねるごとに増えていき、5年目に入った現在では、毎期およそ140人の高校生が参加し、これまでの累計参加者数は1,935名に達しています。
特に地域制限は設けていないため、海外在住の日本人高校生が参加することもありますが、全体の約8割は福井県内からの参加です。というのも、県内すべての高校にチラシを配布させていただいており、多くの先生方が積極的に紹介してくださっているためです。
初めて参加したときにも学びがあるのはもちろんですが、2回目、3回目と参加し続けていると、同じ3カ月間でも成長の度合いが大きく異なります。やはり初回は戸惑っているうちに終わってしまうこともあるでしょう。グループでテーマ設定をするだけでも、スムーズに進むとは限りませんから。そこで、「リベンジしたい」という意欲を持って取り組むと、やはり学びの質が変わってきますね。
また、ディレクターとして関わる大学生にとっても貴重な成長機会となっています。さらに、ディレクターたちをまとめる「マネージングディレクター」という役割も設けているのですが、その定例会議を見ていると、まるで企業の経営報告会のようです。大人顔負けのマネジメントができるようになる学生も多く、そうした成長を見ると、本当に嬉しくなります。プログラムも5年目に入り、かつて高校生として参加していた卒業生が、大学生スタッフとして運営側に戻ってくるという循環も生まれ始めています。

BEAU LABOを支える大学生のディレクター。彼らにとっても貴重な成長の場となっている。
──これまでの成果や手応えをどのように捉えていますか。
3ヵ月間の最後には「最終発表会」を設けています。これは単なる発表の場ではなく、取り組みを言語化し、内省する機会です。私たちは、探究とは「やって終わり」ではなく、「仮説を立て、検証し、その結果を自分の言葉で振り返る」ことが重要だと考えており、それを何度も繰り返すことで、学びが深まっていくと信じています。
BEAU LABOでは、プロセスそのものを重視しています。例えば、先ほど紹介したスコーンづくりの事例は、確かにわかりやすい「成果」ではあるのですが、そうした事例ばかりを大々的に打ち出したいわけではありません。最近の探究学習は「どんなアウトプットが出たか」に注目されがちですが、そこは本質的ではないと私は考えています。
私たちが大切にしているのは、見栄えのいいアウトプットではなく、あくまで「好奇心をとことん追求するプロセス」です。場合によっては、調べ学習で終わっても構わないと思っています。ただし、それもいい加減に終えるのではなく、「なぜ?」「どうして?」を徹底的に繰り返す姿勢が大切です。形だけ整えて満足するのではなく、自分の好奇心に素直になってほしい。そういう学びを重視しています。
中途半端な結果に終わることもあります。「やりたいことがうまくできなかった」と悔しさを感じることもあるでしょうが、それも1つの学びとして価値があると思っています。あるいは、「このメンバーでもう少し活動し続けたい」と申し出てくれるケースもあります。そうした場合には、BEAU LABOへの継続参加ではなく、自分たちで学生団体を設立するなどの形で活動を継続するように勧めています。
非営利事業と収益事業の両輪で
地域経済の活性化に寄与したい
──BEAU LABOでは、企業や行政とも連携していますね。
福井県内でも、地域全体のことを深く考えている企業の皆さんがBEAU LABOに関わってくださっています。地域がよくなれば、最終的に自社の環境もよくなるという考え方で協力くださっているのだと思います。
例えば、高校生が進学などで県外に出たとしても、福井とのつながりが続けばいい。将来、東京など都市部で就職したとしても、「東京で取り組んでいるプロジェクトを福井に持って帰ってきたい」と考えるような人材が育つかもしれません。そうした動きが広がれば、関係人口も自然と増えていくでしょう。
福井出身の意欲あふれる若者が、たとえ県外に出ても、好奇心を持って学び続ける人生を歩むことで、将来的には地域全体のエネルギーを高めることになるはずです。長期的に見れば、そうしたポテンシャルのある学生を応援することは、地元企業にとっても大きなメリットになると思います。
──今後力を入れたい取り組みや挑戦したいプロジェクト、目標やビジョンをお聞かせください。
非営利型法人の経営を確立して、1つロールモデルになりたいと考えています。一般社団法人BEAUでは、現在、大きく4つの事業を展開しており、その1つが今お話ししてきたBEAU LABOです。高校生からは参加費も取らず、協力企業の寄付だけで成り立っている完全に非営利の事業です。
これを中心に、教育職員や教育事業関係者向けの研修事業「BEST」や、近隣の高校の地域連携・探究をサポートする域協働コーディネーター業務、さらにBEAU LABOの設計および運営のノウハウを活かした、他団体や行政向けのアウトソーシング事業も行っています。
BEAU LABOを中心に据えながら、多様な学びを支援する体制づくりを進め、非営利事業部門と収益事業部門の両輪をしっかりと育てていきたい。経営方針としても、非営利事業と収益事業が、財務上もリソース配分も、できるだけ半々になることを目指しています。
重要なのでは、あくまで「BEAU LABOありき」で全事業を捉え続けることです。よくありがちな例は、収益事業を大きくして、それだけで経営が回るようになることです。世間一般では、収益事業で得た利益を非営利事業に「還元する」という考え方が主流でしょう。でも私たちは、「非営利事業を軸に据えて、それがあるから収益事業が成り立つ」モデルを大切にしたい。非営利事業が「おまけ」のような扱いになることは避けたいと思っています。
最終的に目指しているのは、将来、私の孫に当たる世代が「日本に生まれてよかった」と思えるような、安心・安全な社会づくりです。そのためには、日本、特に地方の経済を下支えしていく必要があります。だからこそ、地方でどんな経済活動を生み出せるか、自分自身でも日々考え続けています。

一般社団法人BEAUでは収益事業も手掛けるが、非営利事業とのバランスに気を配っている。