特集紹介 海外留学・進学の新潮流

政府の教育未来創造会議が今年4月に公表した第二次提言では、2033年までに50万人(コロナ前22.2万人)の海外留学派遣を目標として掲げている。本特集では、海外留学・進学の魅力や具体的なプログラム、サポート体制などを追い、その実態を探った。

2033年までに
海外留学50万人へ

政府の教育未来創造会議が今年4月に公表した第二次提言では、2033年までに50万人(コロナ前22.2万人)の海外留学派遣を目標として掲げている。

同提言を踏まえ、6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」においても、「我が国の未来を担う若者の留学を通じた成長・活躍は社会を変革する鍵となるものであり、より質の高い留学生交流を進める視点も重視しつつ、2033年までに日本人学生の中長期の海外派遣の拡大を含む海外留学者年間50万人(中略)の実現に向け、留学生の派遣・受入れの強化や卒業後の活躍に向けた環境整備、教育の国際化の推進等に必要な取組を速やかに進める」としており、今後、コロナ禍前よりも更に留学の機運を高めていくために、産官学を問わず、オールジャパンで様々な取組みが加速していくと予測される。

その代表的な取組みとして期待されるのが、「トビタテ!留学JAPAN」の留学支援だ(こちらの記事)。2013年10月から文部科学省が始動した留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」。主な取組の一つである「官民協働海外留学支援制度~トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム~」は、2014年からスタート。これまでに、約9,500名(高校:約3,400名、大学生等:約6,100名、2021年10月現在)を採択してきた。

昨年8月、政府は第2ステージ(2023年度~2027年度)の実施を発表。「トビタテ!留学JAPAN新・日本代表プログラム」として再始動し、高校生への留学支援をより強化(5年間で高校生4,000人、大学生等1,000人以上)している。 新・日本代表プログラムは、民間寄附による返済不要の奨学金(最大16万円/月、及び留学準備金25万円)、語学力・成績不問、充実した事前・事後研修といった特長がある。加えて、最大の魅力は、留学プランを自分で設計できる点だ。さらに、今年度からは都道府県から応募を募り、採択された自治体と連携して、留学支援を行う拠点形成支援型を新たに展開する。

「トビタテ!留学JAPAN」公式サイト内の「データでみる日本の留学対象別の留学生数データ」によると、学修活動を目的とした短期の海外研修(修学旅行は除く)を含めた高校在学中の留学数は、2017年度に過去最高を記録したが、コロナ禍の影響から大きく減少している(図)。

図 高校生の留学生数の推移

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海外留学では、マインドセットが壁となることもある。高校生の段階で留学を早くから経験することは、海外留学へのマインドセットを醸成し、その後、海外大学進学や大学での長期留学にも繋がるといえる。

なお、上記サイト内では、都道府県別の海外留学生数と海外留学生率を公開している。2021年度の海外留学生率でみると、富山県(0.59%)が最も高く、大分県(0.33%)、京都府(0.30%)と続いている(なお、東京都は0.20%)。第2ステージでの拠点形成支援型が地域の留学促進になることも期待される。

民間が行う留学サポート
海外キャンプの取組み

民間での海外留学・進学支援の取組みも広がっている。公立高校の英語教員を8年間務め、2021年秋にコロンビア大学教育大学院に留学した田原佑介氏は、2022年夏に修士課程を修了後、日本で海外大学への進学を支援する教育ベンチャー「LOOPAL(ルーパル)」を起業した(こちらの記事)。

LOOPALの「海外大学出願サポートMYCOLLEGE」は、地域を問わない、進学先を絞らないことが大きな特徴。通常の留学エージェントは、米国や英国を専門に提携校を斡旋することが多いが、同社では世界トップ500の大学を対象に、志願者がリストアップした大学に対し、サポートする。留学=米国か英国、英語圏のオーストラリア、カナダとしてしまうと、学部でも大学院でも800万~1000万円必要となる。しかし、対象を世界トップ500に広げ、非英語圏で英語のプログラムを提供している大学まで含めれば、日本の大学と同じくらいの学費で進学できる道はあるという。

また、「次世代リーダーの創出」をミッションに、教育系スタートアップとして2016年に設立された海外インターンシップ事業を手掛けるタイガーモブ。今年3月にはアジア・中東・アフリカの7ヵ国(ドバイ・フィリピン・インドネシア・南アフリカ・インド・カンボジア・スリランカ)で、主に高校生を対象にしたスプリング・キャンプを開催した(こちらの記事)。

共同代表取締役COOの中村寛大氏は、「キャンプは実践的な内容で、現地の起業家やNGOの方々から課題やイシューを預かり、参加者がそれに挑戦します。単なる文化交流でなく、活動を通じて一人ひとりが社会とつながる感覚や、英語で物事に挑戦する機会を提供します」と話す。今夏予定のサマー・キャンプでは、ニュージーランドやデンマーク、フィンランドのような先進国も加わり、開催国が18ヵ国に増える予定だ。

学部独自の留学プログラム
奨学金の情報収集を

日本の大学でも、独自の留学支援に取り組んでいる大学もある。関西学院大学は2014年度、文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」に採択され、世界53ヵ国・地域の271校・4国際機関と協定を締結。全学的に留学支援する国際教育・協力センターを設置し、留学プログラムの充実に注力してきた。その結果2018年度は、海外の大学との協定による留学生派遣数が1,833人と国内トップになっている。なかでも、総合政策学部では3つの留学プログラムを実施している(こちらの記事)。例えば、「ソノマ州立大学英語研修&フィールドワーク」は英語学習だけではなく、フードバンクなどの地元での社会活動への参加、小学校や高校での文化交流、サンフランシスコで働くOBとの交流などボランティア活動を通したフィールドワーク、交流活動を行い、キャリア形成へとつながる学びを醸成。また、3つの独自プログラムの他、外部機関(タイガーモブなど)と連携したプログラムもある。

最後に、海外留学・進学を考える際、奨学金の情報を確認することが重要だ(こちらの記事)。返済不要の給付型奨学金は、官民問わず、多様な団体が展開しているので、随時、ウェブサイト等を通じた情報収集も必要となる。本特集では、海外留学・進学の機運醸成に向けて、サポート体制や実際の取組みなどを取材した。本特集が海外留学・進学への一助となれば幸いである。