特集紹介 新たな価値を生み出していく、マインドや行動力などを育む学び

急激な社会環境の変化が起きている中で、新たな価値を生み出していくマインドや行動力を備えた人材の創出が求められている。政府は、「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、学校(小中高)でのアントレプレナーシップ教育の普及・推進にも力を入れ始めている。(編集部)

起業家教育の受講者を
2027年度までに1万件

政府は、2022年末に「スタートアップ育成5か年計画」(以下、「5か年計画」)を策定し、2027年度にスタートアップ投資を従来の10倍超の規模(10兆円規模)とする目標を掲げ、人材・ネットワークの構築や資金供給の強化などを本格化する。

5か年計画では、学校(小中高)でのアントレプレナーシップ教育の普及にも力を入れている。具体的には、「小中高生を対象にして、起業家を講師に招いての起業家教育の支援プログラムの新設」を盛り込み、さらに「起業家教育に体系的に取り組む高校・高等専門学校や、STEM分野で高い能力を有する小中高生に対する教育機会の支援を強化する」としている。

この支援プログラムの新設については、5か年計画のロードマップを見ると、同支援プログラムを通じた小中高を対象とした起業家教育の受講者数を、2027年度までに1万件という目標を掲げている。

小中高におけるアントレプレナーシップ教育は、中小企業基盤整備機構の起業家教育事業や、科学技術振興機構の次世代人材育成事業「ジュニアドクター育成塾」などで提供されてきたが、今回の5か年計画を契機に、全国各地で小中高生等に対するアントレプレナーシップ教育の機会が拡大していくものとみられる。例えば、文部科学省では、2023 年度「EDGE-PRIME Initiative」の事業を通じ、アントレプレナーシップ教育の機会を高校生などにも拡大していく方針だ。このEDGE-PRIME Initiativeでは、スタートアップ・エコシステム拠点都市の大学が中心となり、これまでのアントレプレナーシップ教育の知見等を活かし、自治体や産業界とも協力して取り組みを進めていく(➡ こちらの記事)。

小中高で求められる
アントレプレナーシップ教育とは?

アントレプレナーシップと言うと、「起業家精神」と訳されるが、特定非営利活動法人アントレプレナーシップ開発センター理事長の原田紀久子氏は、「アントレプレナーシップは、新しい事業を創出し社会に変革をもたらそうとする行動力で、あらゆる職業に求められるものです。精神というよりも、訓練して習得する『起業家的行動能力』と訳すほうが基本概念に近いと考えています」と話す(➡ こちらの記事)。

こうした考えのもと、アントレプレナーシップ開発センターでは、小学校から社会人までを対象とした幅広い教育プログラムを提供しているが、中学生の頃に将来の進路を決める人が多いことから、特に小中学生向けのプログラムに力を入れている。

例えば、小学校高学年から中学2年生を対象に月2回実施している「ジュニアリーダーズクラブ for Social Action」は、身近な社会問題をテーマに、子どもたちがその解決に役立てるような事業を企画し、仲間と協力しながら実際に取り組むことで、リーダーとしての素養を培うものだ。

この3年間で、目の見えない人と一緒に遊べる「目隠しパズル」、コロナ禍で外出できない高齢者のために、行きたい場所に代わりに行って動画を撮影する「バーチャルツアー」、ハロウィンの仮装をしてゴミ拾いを行う「ハロウィンチャレンジ」などのプロジェクトを実施してきた。

続いて、博士・修士課程に在籍するメンバー15人で創業した株式会社リバネスでは、アントレプレナーシップを「自らの意思で新境地に飛び込み、未知の事柄に挑戦し続けるマインドや行動力」と定義し、小中高校生のアントレプレナーシップ教育に取り組んでいる(➡ こちらの記事)。

また、リバネスがアントレプレナーシップ教育のカリキュラムを設計する際、「体験的アプローチ」を重視しているという。

「総合的な探究の時間」を活用し
高校でアントレ教育を推進

「5か年計画」では、「小中高生向けに総合的学習等の授業時間も活用した起業家教育の実施の拡大を図る」と記載されている通り、特に高校で必修化された「総合的な探究の時間」は、アントレプレナーシップ教育推進の後押しになるという期待も寄せられている。

こうした流れを受けて、高校生向けアントレプレナーシップ教育“StartupBase U18”を運営する株式会社まつりばは、2023年4月、学校向けの動画教材の提供をスタートさせた。8つの動画教材、ワークショップ、コンテストからなるパッケージで、「総合的な探究の時間」8コマでプログラムを修了することができる(➡ こちらの記事)。

動画教材では1年間の「総合的な探究の時間」の中で、分散して授業を実施することができ、授業と授業の間にインターバルが生まれる。時間的な余白が生まれることで、ヒアリングや制作など生徒それぞれの得意やモチベーション次第で十分な時間を割くなど、アントレプレナーシップが育まれることが期待される。

今回の取材を通じて共通していたことは、学校現場で、アントレプレナーシップ教育は起業家を育成する教育と思われることが多いが、実際にはそうではないという指摘だ。

小学生のためのアフタースクール「キンダリーインターナショナル」を運営する一般社団法人子供教育創造機構では、2021年からアントレプレナーシップ教育を「キンダリーインターナショナル」でスタート。代表理事の森博樹氏は、アントレプレナーシップ教育を起業家マインドと起業家的能力を育む経験学習であり起業家を育成する教育ではないと話す(➡ こちらの記事)。そして大切なことは「グロース・マインドセットと心理的安全性」だと続ける。失敗してはいけないと思っていたり、評価を気にしていたりする子どもは多いため、「まずは、やりたいことをやろう、やってみよう」と発信。その上で、やりたいことを誰も否定せず、内発的動機で最後までやり抜ける環境を整え、グロース・マインドセットの醸成に努めているという。本特集では、アントレプレナーシップ教育を開発・実践・普及に努める企業や団体に焦点を当て、その実際を追った。文部科学省が「社会に開かれた教育課程」を掲げる通り、学校外のリソースの活用が一層求められる中、教育関係者のアントレプレナーシップ教育実践の一助となれば幸いである。

急激な社会環境の変化が起きている中で、新たな価値を生み出していく行動力やマインドを育むために、小中高からのアントレプレナーシップ教育が求められている。画像はイメージ。

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