特集2 金融・メディアリテラシー教育の実践
テクノロジーの急速な発達やグローバル化などを背景に、社会が複雑多様化する中で、これからの時代を担い、自由に生きていく上で、子ども達にとって今必要なリテラシーとは何だろうか。金融・メディアリテラシーに焦点を当て、その意義や最新の教育実践などを探った。(編集部)
教育現場で広がる
金融リテラシー教育
2005年、政府が「金融教育元年」と位置付け、学校における金融教育の推進に重点を置いた活動を展開してから間もなく20年が経過する。
金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査(2022年)」によると、「金融教育を受けたことがある」と認識している人の割合は、日本が7%に対して米国は20%となっている。
一方で、日本財団が2024年3月に公表した「18歳意識調査」結果によると、義務教育で「もっと学んでおきたかったと思うこと」に関しては、男女の回答を合計した1位が、「生きていく上で必要なお金に関する知識や能力を身に着ける」(金融リテラシー)で、約2割を占めた。
同年3月に閣議決定された「国民の安定的な資産形成の支援に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」では、2028年度末を目途に「金融経済教育を受けたと認識している人」の割合を7%から米国並みの20%に増やすことを掲げている。
また、金融経済教育を受ける機会の拡大に向けて、同年4月に金融経済教育推進機構が設立された。
こうした中で、金融経済教育を提供する企業・団体の取り組みが教育現場に広がってきている。
2022年12月に設立された一般社団法人日本金融教育支援機構は「人生の選択肢を増やす金融教育を」を理念に掲げ、中高生を対象とした金融教育動画コンテスト「FESコンテスト」(以下「FES」)の主催を軸に、金融教育の出前授業やワークショップを全国展開している(➡こちらの記事)。
「FES」は、小学生のための金融教育動画を中高生が制作し、そのクオリティを競うコンテスト。お金の機能に着目した8つの力「使う、稼ぐ、納める、貯める、備える、贈る、借りる、増やす」からテーマを1つ選び、1分以内の縦型ショート動画でまとめる。作品は各地のワークショップや同機構による学校への出前授業を機に制作されたものなどから応募される。「FES」は2023年6月に一般財団法人三菱みらい育成財団助成事業にも採択。また、みらい育成アワード2024ではグランプリを受賞し、その活動は高く評価されている。
世界銀行グループ、ゴールドマン・サックス証券などに勤務していた川上泰弘氏と、裁判官を務めていた弁護士の岡本陽平氏が立ち上げたベータ研究所。同社の金融教育プログラム「Beta Investors+」は、タイムトラベラーのように過去に行き、当時の投資風景を体験できる投資シミュレーションアプリ「Beta Investors」を活用して、体験型の金融経済教育プログラムを提供している(➡こちらの記事)。
アプリがはじまると、タイムマシンで過去のある時点に移動する。例えば、新型コロナウイルス感染拡大期などだ。90秒で1か月が経過し、その都度投資の選択を迫られる。その時のニュースや財務指標、決算発表といったさまざまな指標を試行錯誤しながら活用し、投資先を選び、5つの銘柄でポートフォリオを組んで投資していく。約20分で1年間の変動を体験後、銘柄が明かになり、投資のタイミングをとらえることができたかどうかを振り返る。
「Beta Investors+」は主に中学・高校を対象にアプリの活用方法や授業設計・参考資料の提供などを含めたサービスだ。同社は、経産省「働き方改革支援補助金2024」事業者に採択されている。制度を利用してサービスの無償導入が中学・高校ではじまっている。
また、金融リテラシーの内容に関しては、金融経済教育推進会議※の「金融リテラシー・マップ」が参考になる。「最低限身に付けるべき金融リテラシー」(お金の知識・判断力)を年齢層別(小学生/中学生/高校生/大学生/若年社会人/一般社会人/高齢者)に分けた上で、体系的かつ具体的に示している。
金融リテラシーは、「①家計管理」「②生活設計」「③金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択」「④外部の知見の適切な活用」の4分野に整理。さらに③は、「金融取引の基本としての素養」「金融分野共通」「保険商品」「ローン・クレジット」「資産形成商品」の5つに分類されている。
メディアリテラシー教育で
クリティカルシンキングを育む
ボス会議(世界経済フォーラム)が2024年1月に発表した「グローバルリスク報告書2024年版」では、今後2年間の短期的リスクにおいて「異常気象」「社会の二極化」「サイバー犯罪」などを抑えて、「誤報と偽情報」がトップになった。
総務省の「新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査報告書」(令和2年6月)によると、「新型コロナウイルスに関する間違った情報や誤解を招く情報」に対して、15歳-19歳のうち、一つでも「正しい情報だと思った・情報を信じた」を選んだ比率は36.2%で、若い年代ほど情報を信じた割合が高くなる傾向を指摘している(全体は28.8%)。
また、こうした情報を見たり聞いたりして「正しい情報と思った・情報を信じた」又は「正しい情報かわからなかった」場合に、それらの情報について1つでも共有・拡散を経験したことがあると答えた人の割合は年代別で見ると、10代が45.4%、20代が41.1%と若い年代ほど、共有・拡散経験が高い傾向が指摘されている(全体は35.5%)。
学校現場ではGIGAスクール構想の推進により、1人1台端末が整備されたなか、ネット上に誤情報・偽情報が蔓延する時代に生きる子ども達にとって、真偽を見極めるクリティカルシンキングを身に付けることがより重要になってきたといえる。
ニュースアプリ「Smart News」を運営するスマートニュース株式会社のシンクタンク、スマートニュース メディア研究所では、活動の大きな柱の一つに「メディアリテラシー教育の研究と実践」がある。同研究所の研究員である長澤江美氏に、メディアリテラシーの本質とは何か、また身につけるためにどうしたらいいのか、同研究所の実践などについて寄稿いただいた(➡こちらの記事)。
また、Classroom Adventureが提供する「レイのブログ」は、誰でも楽しくメディアリテラシーを身につけることができる教育プログラムだ。「レイのブログ」では謎解きゲームに没入しながら、情報への向き合い方や専門的な検証スキルを学べる(➡こちらの記事)。主に中学・高校で導入されており、「総合的な学習(探究)の時間」「情報」「特別授業」で活用されることが多い。
2023年4月のリリース後、米国のほか台湾などアジア圏でも展開しており、参加生徒数は世界累計5,000人を超えている。
本特集は「金融」と「メディア」の二つに焦点を当て、いま学校現場に必要なリテラシー教育の実際を追った。変化の激しい時代を生きていく子ども達にとって、こうしたリテラシーを育むことが求められる中、金融・メディアリテラシー教育実践の一助となれば幸いだ。

社会が複雑多様化する中、これからの時代を担い、自由に生きていく上で、子ども達にとって今必要な金融・メディアリテラシー教育の実践が求められる。画像はイメージ。
photo by metamorworks/ Adobe Stock
※金融経済教育推進会議は、関係省庁(金融庁、消費者庁、文部科学省)、有識者、金融関係団体 (全国銀行協会、日本証券業協会、投資信託協会など)、金融広報中央委員会をメンバーとして、金融広報中央委員会の中に設置された。