特集紹介 創造性はどう育むことができるのか?研究の知見や教育実践から探る

近年、VUCAの時代とよく言われるとおり、変化の激しく予測困難な時代を担う子ども達にとって、創造性を育むことの重要性は増してきていると感じる。創造性の発揮には多様な要因が存在する中で、どんな知見があり、どんな視点で考えるべきなのか。その現状を追った。(編集部)

社会や企業が求める「創造力」は
特別な才能をもつ人の能力か?

教育基本法は、その全文の中で「我々は、この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する。」と記載している。

また、同法第2条(教育の目標)では、「二 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。」としている。このように、従来から、教育において「創造性」を育む重要性は、指摘されてきた。

一方、近年、VUCAの時代とよく言われるとおり、予測困難な時代を担う子ども達にとって、創造性を育むことの重要性は増してきていると感じる。2023年3月8日に中央教育審議会の総会において取りまとめられた「次期教育振興基本計画について(答申)」でも、そのコンセプトの中で、「Society5.0で活躍する、主体性、リーダーシップ、創造力、課題発見・解決力、論理的思考力、表現力、チームワークなどを備えた人材の育成」が盛り込まれている。

また、経団連のアンケートによると、企業は多種多様な人材を求めつつ、特に期待する「資質」として、回答企業の約8割が「主体性」「チームワーク・リーダーシップ・協調性」、4割近い企業が「学び続ける力」を選択。そして、特に期待する「能力」としては、「課題設定・解決能力」(80.1%)、「論理的思考力」(72.1%)、「創造力」(42.6%)が上位に挙がっている(図)。

図 特に期待する能力

画像をクリックすると拡大します

こうした創造力を育むにはどうすればいいのか。創造性は特別な才能を持つ人が発揮するものと考える人も多いが、研究者の間では、創造性は「特別な才能を必要としない、万人が発揮しうるもの」といった合意形成がされつつある。

創造性について研究している和光大学の阿部慶賀准教授は、創造性を左右する性格的な要因として、最低でも3つの要因、「①初めから偏見をもたない」こと、「②柔軟に考えを改めることができる」こと、「③自分の誤りを適切に見直せる」ことがあると指摘、さらに重要なのは「情報への感度」だと話す(➡ こちらの記事)。

創造性を育むアウトドア教育と
プログラミング教育

創造性は万人が発揮しうるものとして、実際に教育現場では、創造性をどう育むことができるのか。

その一つとして期待されるのが2020年度に小学校で必修化されたプログラミング教育だ。一つの正解を求めるのではなく、答えのない問いに挑むことが、主体性や創造性を育むことにつながると考えられる。

創造性の発揮には多様な要因が存在する中で、プログラミング教育やアウトドア教育を通じた良い実践事例の蓄積が期待される。画像はイメージ。

photo by BalanceFormCreative/ Adobe Stock

創造的プログラミングアプリ「Springin’Classroom」は、2021年のリリース以降、小中高や特別支援学校、幼稚園・保育園など400か所以上の教育機関に導入されている(➡ こちらの記事)。

同アプリを手掛けたしくみデザイン代表取締役の中村俊介氏は、プログラミング「を」学ぶのでなく、プログラミング「で」学ぶ重要さを強調する。それは性別や年齢などの属性に関係なく、誰もが創造性を解放するために必要なことだという。

「Springin’Classroom」は、文字入力なしのタップによる直感的な操作で、低学年の子どもでもすぐに覚えられる。描画、録音や編集、画像の撮影など、さまざまなクリエイティブを実現し、作品はオンラインでの提出・発表により生徒間で共有・共創することも可能だ。実際の小学校では、上級生が下級生に向けて学習向上を促すアプリを作るというプロジェクトをするなど、開発者の予想を超えた事例も生まれている。

学校教育に続いて、幼児教育に目を向けると、創造性を育む教育として、アウトドア教育が注目されている。特に、幸福度、国際競争力など様々な指標で注目を集めるスウェーデンでは、科学的根拠に基づいたアウトドア教育が実践されている。

スウェーデンをはじめ北欧のアウトドア教育に詳しい、宮城学院女子大学の西浦和樹教授は、もっとも大きな効果は「五感を使い、経験を積み重ねることで、インスピレーションが研ぎ澄まされること」だと指摘する(➡ こちらの記事)。

五感を使い、「できた」経験をすると、子どもの中で「できるからやってみよう」というサイクルがまわりはじめる。モチベーションや自己肯定感が高まり、「自主性や起業家精神の芽生え」につながることもわかっている。こうしたスキルよりもマインドセットを大事にしているのもスウェーデン流アウトドア教育の大きな特徴だという。

創造性を育むには
クリエイティブな教師も必要

社会や企業が創造力を求める一方で、子ども達の創造性(クリエイティビティ)を育む教師にもそれは求められるといえる。

筑波大学の佐藤博志教授は、クリエイティブな教師を「未来への見通し、柔軟性、応答力を持ち、子どもの発達可能性を最大限引き出すために、リソースを集め、新たな着眼点や手法を自分であるいは同僚と構築し、授業、学級経営、学校行事等において、豊かな学びをつくる専門家」と定義する(➡ こちらの記事)。

また、コンピテンシーの観点から教師のクリエイティビティを考えると、佐藤氏は3つの次元から構成されると指摘。「教育実践の質を豊かにし、経験の構造化によって直観的判断力を形成していけば、教師はクリエイティブになれるはずです」と話す。

最後に創造性を育むという点で、アート・芸術に触れる重要性を指摘する人も多いだろう。

アーティストの佐藤悠氏は、美術館や企業研修、中学・高校・大学等で、日常でアートに触れ、楽しめることを目指して、美術鑑賞プログラムを展開している(➡ こちらの記事)。

創造性の発揮には多様な要因が存在する。本特集が創造性を育む様々な取組みへの一助となれば幸いだ。

※「採用と大学改革への期待に関するアンケート結果」(2022年1月18日)経団連