楽しみながら試行錯誤を通じて、クリエイティビティを育む

STEAM 教育フォーラムのトークセッションでは、「子どもたちを夢中にさせるプログラミング教育」と題し、前後編の2部構成で開催した。モデレーターを社会情報大学院大学の荒木啓史准教授が、コメンテーターは情報通信総合研究所特別研究員の平井聡一郎氏が務めた。

夢中になって試行錯誤を繰り返す

前半の「子どもたちを夢中にさせるプログラミング教育 学校現場の取り組み」では、プログラミング授業にフォーカスして、キューブ型のロボットトイ「toio™(トイオ)」を活用する人吉市立人吉西小学校での取り組みが紹介された。

本来は前人吉市立教育研究所情報教育部会長の林敬三氏と人吉市立人吉西小学校高田敬史教諭の登壇を予定していたが、7月に熊本県南部を襲った豪雨災害のためやむなく辞退となり、「toio」開発者であるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の田中章愛氏が代理として人吉市の取り組みを紹介した。

田中章愛

田中章愛

ソニー・インタラクティブエンタテインメント プラットフォームプランニング & マネジメント部門 T 事業企画室 課長(事業開発担当)

「toio」は、ゲーム、工作、プログラミングなど、様々なあそびが楽しめる。ロボットはレゴ®ブロックや紙の工作をのせたり、好きな形を創ることができ、数ミリ単位の正確な動作も命令できる。またコンソールに別売のタイトルに同梱されたカートリッジを差し込むことで、多様なあそびを切り替えて楽しむことができる。

「toio」専用タイトル「GoGo ロボットプログラミング ~ロジーボのひみつ~」では、コマンドが印刷された特殊なカードを並べて、ロボットに命令を読み込ませる。絵本を開いてスタート位置にロボットを置くと命令通りに動く。スタートとゴールは決まっているが、解き方は自由だ。パズルを解く感覚で、順次処理、条件分岐、反復といったプログラミング的な思考が身につく。

トークセッションをグラフィックレコーディングで再現

トークセッションをグラフィックレコーディングで再現

人吉西小学校では、3人1組のチームで「GoGo ロボットプログラミング」を活用。どうやったらロボットがゴールへ辿り着けるのか。試行錯誤を繰り返しながら子ども同士でディスカッションする様子が紹介された。授業では、黒板に拡大された「命令カード」が貼られ、各グループの発表内容を視覚的に並べることで議論しやすい場がつくられた。

議論が終わった後は、「ふりかえり」のシートに各自記入する。シートでは「難しいところもあったけれど楽しかった」「チームで協力したらできた」といった感想が紹介された。

平井氏は、「人吉市の授業を見ると、子ども達は楽しみながら、試行錯誤を繰り返すプロセスを通して、学び方や考え方を自然と学ぶことに繋がっている」と指摘した。

「『toio』であそんでいると、ロボットに感情移入して、ロボットと同じ視点で物を見て考えることができます。子ども時代のそうした原体験を通じて、プログラミング的思考を肌感覚で身に付けることは、これからの社会で活きる力として重要だと考えています」と田中氏は述べた。

敷居の低さと発展の高さ 高機能が創意工夫を引き出す

後半では「教材開発や教育実践等へ企業ができること~実践サポート」をテーマに、子ども達の学びをいかに企業側の視点でサポートできるかが話し合われた。

2020年度から小学校で必修となったプログラミング教育は、教科として新しく追加されたのではなく、各教科の中で行うことが求められている。文科省も「プログラミング教育の手引き」を作成。算数ではプログラミングを通して正多角形をかく、といった実践例を示している。

足利昌俊

足利昌俊

内田洋行 ICTリサーチ&デベロップメントディビジョン 学びのコンテンツ&プロダクト企画部

小学校高学年向けの算数×「toio」のプログラミング教材開発を担当する内田洋行の足利昌俊氏は「toio」の特長を2つ指摘する。

「1つ目は敷居が低いこと。先生方の多くはプログラミングを習っていません。パソコンを使わないアンプラグドの教材は先生方にとってもハードルが低く、授業でも扱いやすい教材です。2つ目は発展性が高いこと。『toio』は、ビジュアルプログラミングで正多角形をかくこともできますし、中学、高校、大学では JavaScript 等の言語を駆使して本格的なロボットプログラミングもできます」

また、東京大学大学院の博士課程でロボット工学を修めている足利氏はキューブの性能にも注目。「リアルタイムの絶対位置検出で動きを制御する機能を備えたものは他にみられません」と強調した。

小林靖英

小林靖英
アフレル代表取締役社長

アフタースクール向けにプログラミング教材のカリキュラムを提供するアフレル。同社代表の小林靖英氏は、「アフタースクールが学校と大きく異なるのは教科に縛られず、自由な枠で学べること」だと指摘する。

「STEAM 教育ではクリエイティビティの要素が強い Arts(芸術)の部分を特に重視しています。『toio』は、6軸姿勢検出・イベント検出で外からの刺激にも反応できるので、自在にロボットを動かせるし、ロボットはただの立方体。知恵を働かせばなんにでもなれます。物語を創れるし、絵も描ける。色々なことができるので子ども達が、どれだけ楽しみながらクリエイティビティを創り出せるか。どれだけ失敗しながら熱中できるか。それらを重視して『toio』のカリキュラム開発をしています」と小林氏は言う。

平井氏も「子ども達の『もっとプログラミングをやりたい』という青天井の意欲に応えるのは民間の役目です。子ども達の学びをサポートできる場を民間が創ることで子ども達の学びがより広がる」と指摘した。

田中氏は「大人のクリエイターでも満足できる表現力や天井の高さを目指して開発しました。教材として開発しなかったことで生まれた余白が、間口の広さに繋がっていると感じます」と述べた。

また、「エンジニアとして自分自身がロボットづくりを楽しんできました。その体験と学びを全国にも届けたい想いで『toio』は開発しました。今後も、皆さんと協力しながら、子ども達の学びをサポートしていきたいです」と締めくくった。

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