多様性の認識をめぐる三つの問い

多様性が社会における重要な問題として考えられるのは、そもそもなぜなのだろうか。多様性は社会を豊かにすると言われるが、それは果たして何を意味するのだろうか。多様性の認識のされ方から差異の共生に関する根源的な問題について改めて考察する。

多様性は達成・実現するもの?

岩渕 功一

岩渕 功一

関西学院大学社会学部 教授
同大学<多様性との共生>研究センター 代表。
早稲田大学卒業後、日本テレビ入社。その後オーストラリアへ移り住み、西シドニー大学でPh.D取得。国際基督教大学、早稲田大学国際教養学部を経て2012年にメルボルンのモナシュ大学アジア研究所長に就任。2020年4月より現職。英語・日本語での著書・編著・学術論文は150を超える。日本語の主な著書としては『文化の対話力』(日本経済新聞社)、『トランスナショナル・ジャパン』(岩波現代文庫)。多様な差異を平等に包含し誰もが生きやすい社会の構築に向けた学びと対話の実践的な取り組み方を模索している。

6月にゼミ生たちが学内で多様性についてインタビューしたところ、日本に多様性がないと答えた学生たちが少なくなかったが、そのほとんどは多様性を奨励する取り組みが日本では進んでいないことを意味していた。「日本には多様性がない」、「多様性のある社会・組織の実現を」と言われるように、多様性は奨励して達成すべきものという発想が広く浸透している。違う文化や価値観を互いに認め合い、活かし合うことが創造性や彩りをもたらして企業や社会を豊かにするという発想がその根底にある。確かにそうなのかもしれない。しかし、そもそも、さまざまな差異を持つ人たちを平等に包含することが重要なのはなぜなのだろうか。期待的な意味や視座が多様性という言葉に付与されることで、差異の共生に関する根源的な問題が見失われてしまっているように思える。

多様性は実現させたり達成したりするものではない。すでに社会の現実は多様性に溢れている。奨励して達成すべきことがあるとすれば、それは多様性を形作るさまざまな差異をめぐる差別・不平等の解消である。しかし、多様性が達成・実現すべきものとして語られるとき、多様な出自や複合的な文化背景を持った人々が日本社会を共に構成してきたこと、…

(※全文:2851文字 画像:あり)

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