多様性奨励のスローガンと現実の落差 トークニズムと政策・法整備の不在

「多様性と調和」を掲げた東京オリンピック・パラリンピックが幕を閉じたが、実質的な変革に向けた行動を伴わなければトークニズムに終わってしまう。
多様性の包含に向けた現状と政策・法整備について考察する。

多様性とトークニズム

岩渕 功一

岩渕 功一

関西学院大学社会学部 教授。<多様性との共生>研究所 代表(2021年10月設置予定)。早
稲田大学卒業後、日本テレビ入社。その後オーストラリアへ移り住み、西シドニー大学でPh.D取得。国際基督教大学、早稲田大学国際教養学部を経て2012年にメルボルンのモナシュ大学アジア研究所長に就任。2020年4月より現職。英語・日本語での著書・編著・学術論文は150を超える。日本語の主な著書としては『文化の対話力』(日本経済新聞社)、『トランスナショナル・ジャパン』(岩波現代文庫)。多様な差異を平等に包含し誰もが生きやすい社会の構築に向けた学びと対話の実践的な取り組み方を模索している。

前回紹介した多様性の奨励に関する批判的な議論は欧米やオーストラリアの文脈でなされたものだが、さまざまな差異をめぐる差別や不平等を解消する取り組みと関わらないまま多様性が肯定的なものとして奨励されがちなのは日本も決して例外ではない。多様性の奨励やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)というスローガンと現実の取り組み・実践の間には大きな落差がある。最近では東京オリンピック・パラリンピック競技大会が「多様性と調和」を掲げたにもかかわらず、委員長や開会式で重要な役割を担う大会関係者が女性や障害者を蔑視する発言により辞任するなど、実際にはスローガンと大きく乖離している内実が次々と明らかとなった。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、女性の新会長のもと女性理事の割合を高め、ジェンダー平等推進チームを立ち上げた。しかし、大会ビジョンで言及されている「肌の色、人種、性的指向、宗教」などに関する差別・不平等の是正について積極的に発信し取り組んだのだろうか。オリンピックの開会式でMISIAが…

(※全文:2583文字 画像:あり)

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