日本がリードする「量子暗号」の技術 100年経っても破られない仕組みとは

情報社会の高度化で課題となる情報漏えいだが、これを防ぐのが暗号技術だ。量子の特性を生かした「量子鍵配送」はプラットフォームの国際標準づくりを日本がリードしており、さまざまな産業領域での応用が期待されている。

量子暗号の必要性

富田 章久

富田 章久

北海道大学大学院情報科学研究院教授。
1984年東京大学大学院理学系研究科修士了、1998年博士(工学)東京大学。日本電気株式会社を経て、2010年より現職。この間、JST ERATO今井量子計算機構プロジェクト、ERATO-SORST量子情報システムアーキテクチャプロジェクトで量子情報実験グループリーダーを兼務。専門は量子情報技術。著書に『量子情報工学』(森北出版)。

盗聴やなりすましの危険がない安全な通信は現代社会においては極めて重要であり、暗号が広く使われている。現在の暗号は解読するまでに非現実的な時間がかかることを安全性の根拠としている(計算量的安全性)。ところが、汎用量子コンピュータは現在の暗号の多くを短時間で解読できることが知られている。量子コンピュータがなくとも解読法やコンピュータ技術の進歩によって暗号は解読できるようになる。実際、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)では20~30年ごとに暗号を世代交代することを推奨している。問題になるのはそれ以上の期間価値が変わらない情報の安全性である。例えばヒトゲノム情報は一生の間、あるいは子孫の代まで守るべき情報であろう。このような情報を現在の暗号で秘匿化しても、通信を傍受して保管し、…

(※全文:2081文字 画像:あり)

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