量子情報技術超入門 量子コンピュータの実現が夢ではない理由

「モノ」でなく「コト」を表す理論である量子力学。この性質を利用して情報処理を行うのが「量子情報技術」だ。コト、つまり量子の「状態」を操作することで莫大な情報量を扱うことが可能となる。量子コンピュータの実現が期待されるのもこれによっている。

状態を知る、とは?

富田 章久

富田 章久

北海道大学大学院情報科学研究院教授。
1984年東京大学大学院理学系研究科修士了、1998年博士(工学)東京大学。日本電気株式会社を経て、2010年より現職。この間、JST ERATO今井量子計算機構プロジェクト、ERATO-SORST量子情報システムアーキテクチャプロジェクトで量子情報実験グループリーダーを兼務。専門は量子情報技術。著書に『量子情報工学』(森北出版)。

量子情報では量子状態を操作することで情報処理を行う。ところで、その状態というのは何なのだろうか? 日常の世界にある物体には色や形、硬さ、温度といった様々な属性がある。私たちは興味に応じて適切な属性を選び、値を測ることでその属性で表される状態について知識を得る。最も簡単な場合としてコイントスを考えよう。知りたいことはコインの表裏だけで、色やら大きさやら、金額さえも問題にならない。そこで例えば表を1、裏を0といったように数値化すればコインの状態を二値で表すことができる。

量子の状態も一番簡単な場合は二値で表される。ただし、干渉といった波の性質を持たせるために状態は単なる数ではなく、向きを持つベクトルになる。図1(a)に示すように、表であることが確定した状態(ベクトル1)と裏であることが確定した状態(ベクトル0)だけではなく…

(※全文:2274文字 画像:あり)

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