量子コンピュータ:その桁違いの計算能力で何ができるのか?

スーパーコンピュータを凌駕する計算能力をもつ「量子コンピュータ」。その能力は素因数分解や行列計算、微分方程式の求解などで特に発揮される。創薬、物流、通信分野への応用や、新素材開発などへの応用によって新産業への展開を考える時期にきている。

コンピュータが最初に作られたときは4台で世界中の計算の需要に応えられるといわれていたそうである。ところが、当時とは桁違いに高性能なコンピュータがスマホにまで入っているが、計算能力に対する要求にはとどまるところがない。量子コンピュータはある種の計算を従来のコンピュータよりも高速で行うことが期待されている。例えば、素因数分解や行列計算、微分方程式の求解などでは量子コンピュータと従来のコンピュータの計算速度の比はデータ量の指数関数になることが示されている。そのため、データ量が大きくなると量子コンピュータの優位性が特に顕著になると考えられている。

組み合わせ最適化問題と
量子イジングマシン

富田 章久

富田 章久

北海道大学大学院情報科学研究院教授。
1984年東京大学大学院理学系研究科修士了、1998年博士(工学)東京大学。日本電気株式会社を経て、2010年より現職。この間、JST ERATO今井量子計算機構プロジェクト、ERATO-SORST量子情報システムアーキテクチャプロジェクトで量子情報実験グループリーダーを兼務。専門は量子情報技術。著書に『量子情報工学』(森北出版)。

一口に量子コンピュータといっても二つの動作原理がある。一つはイジングマシンやアニーラーと呼ばれるもので、組み合わせ最適化問題に特化している。組み合わせ最適化問題の有名な例に巡回セールスマン問題という、都市を一筆書きで回る時、距離が最小になる経路を見つける問題がある。組み合わせ最適化問題には経路の探索や資源の分配といった様々な応用があるが、問題の複雑さが増すと、選択肢がネズミ算式に増えてコンピュータでは歯が立たなくなる。

組み合わせ最適化問題は物理学で知られているイジングモデルと等価である。イジングモデルでは、たくさんの小さな磁石の向きの組み合わせで問題を表現する。エネルギーの和が最小になる…

(※全文:304文字 画像:あり)

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