量子情報社会を拓く人材育成と専門教育 現状のカリキュラムと今後の課題

10〜20年先には社会実装が進むことが見込まれる量子情報技術。次世代の社会基盤を担う人材は今から育成を進めておく必要がある。日本国内でも、すでに育成のための取り組みが進んでいる。

量子情報技術はまだ歴史の浅い分野であるため、研究開発や産業化を進めていく人材が不足している。このため量子人材の育成は極めて重要である。今回は専門教育について考えよう。

情報系の量子力学?

富田 章久

富田 章久

北海道大学大学院情報科学研究院教授。1984年東京大学大学院理学系研究科修士了、1998年博士(工学)東京大学。
日本電気株式会社を経て、2010年より現職。この間、JST ERATO今井量子計算機構プロジェクト、ERATO-SORST量子情報システムアーキテクチャプロジェクトで量子情報実験グループリーダーを兼務。専門は量子情報技術。著書に『量子情報工学』(森北出版)。

現在、量子情報技術の研究者の多くは物理、応用物理系学科を卒業している。他には化学系、電気電子系、原子核など学部時代に量子力学を学んだ人が多く、数理系や情報系の出身者は比較的少ない。情報系はAIやデータサイエンスなどからの需要があり、あえて量子情報に参入するモチベーションが弱いことも考えられるが、やはり量子力学の取りつきにくさも影響しているように思われる。

ところが、現在多くの大学で教えられている量子力学は原子、分子を理解するための伝統的なものでシュレディンガー方程式の解法に時間がかけられている。量子情報技術に必要な状態ベクトルや測定の概念は波動関数を使って簡単に、しかも、あまり見通しよくなく教えられている。量子情報技術で使う量子力学は、…

(※全文:1964文字 画像:あり)

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