フィジカルディスタンスによる接触の変化と、トロリー問題の考察

昨今、衛生面やソーシャルディスタンシングの観点で、人間同士が触れあう機会が減っている。哲学の分野で有名なトロリー問題に照らして、人に「触れる」ということについて考えてみたい。

スイッチを押すか、人を押すか

一ノ瀬 正樹

一ノ瀬 正樹

東京大学卒。東京大学名誉教授(哲学講座)。2018年4月より現職。オックスフォード大学名誉フェロー。日本哲学会会長。著書に『死の所有』(東京大学出版会、2011年)、論文に『Normativity,probability,and meta-vagueness』(Synthese[2017]194:10)などがある。

マイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱教室」で世界的に知られることになった「トロリー問題」を思い起こしたい。暴走するトロリーに自分が乗っている。このまま何もしないと、線路上で働いている5人の人々をひき殺してしまうことが避けられない。けれども、手前に方向切り替えのスイッチがあって、私がそのスイッチを操作すると、トロリーは別の方向に進み、5人をひき殺さないですむ。しかし、折り悪く、その別方向の線路には1人の方が働いていて、その人を…

(※全文:1974文字 画像:あり)

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