ICT利活用から教育の質向上へ、令和の日本型学校教育の実現を

2021年7月に月刊先端教育が主催した『ICT 活用による教育現場の効率化と創造的な学びの場の創出』をテーマとしたオンラインセミナー。基調講演では、文部科学省 情報教育・外国語教育課長板倉寛氏が、初等中等教育の未来に必要不可欠なICT利活用の必要性、施策等について講演した。

ICTの活用は必要不可欠
1人ひとりの子どもを主語に

板倉 寛

板倉 寛

文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課長、学びの先端技術活用推進室長、GIGA StuDX 推進チームリーダー

1人1台端末、校内ネットワークの整備が進み、GIGAスクール構想が、本格的に始動した。本格始動前、日本の学校はどの様な状況にあったのか。PISA2018の質問調査では、日本の児童・生徒のICT活用状況について、学校の授業におけるデジタル機器の利用時間が短く、OECD加盟37カ国中最下位。「コンピュータを使って宿題をする」頻度も最下位だった。一方で、「ネット上でチャットをする」「1人用ゲームで遊ぶ」頻度はOECD加盟国中1位となっている。

文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長の板倉寛氏は「デジタル機器の活用として、長時間使われているにも関わらず、学習などに使われていないことに課題があると考えています」と話す。

PISA2018では、全小問245題のうち、約7割の173題がコンピュータ使用型調査用に開発された新規問題であった。その中で、テキストから情報を探し出す問題やテキストの質と信憑性を評価する問題などの正答率が日本は低い結果となっていた。

今年1月の中央教育審議会答申では「新学習指導要領の着実な実施が重要で、ICTの活用は必要不可欠」とされている。

「新学習指導要領の着実な実施、学校における働き方改革、GIGAスクール構想などに取り組んでいくことで、1人ひとりの子どもを主語にする学校教育の実現を図っていく。知・徳・体を一体で育む日本型教育の良さを受け継ぎつつ発展させ、新しい時代の学校教育を実現していくことが大事です」

1人1台端末を利活用した
実践を行うための取組み

新学習指導要領は、2030年の社会と子どもたちの未来を前提に作られている。変化を前向きに受け止め、人間ならではの感性を働かせ、社会や人生、生活をより豊かなものにしていく。そこでのキーワードが「主体的・対話的で深い学び」と「個別最適な学び・協働的な学び」であり、それを支えるものとしてGIGAスクール構想がある。GIGAスクール構想はICTの特性を活かし、新学習指導要領を実現するために重要な役割を果たすものと位置づけられている。

「1人1台端末が全ての地域、学校に整備されたことは非常に大きな前進で、教育の水準の向上にも繋がっていきます。これをしっかりと資質・能力の育成に繋げていくことが大事です」

教育・学習におけるICT活用の強み・特性は大きく3つあると板倉氏は指摘する。1つが多様で大量な情報の取り扱いと容易な試行錯誤ができること。2つ目が時間的制約を超えた情報の蓄積・過程の可視化、3つ目が空間的制約を超えた相互かつ瞬時の情報共有(双方向性)だ。

「これらの強み・特性を活かして、探究学習ではインターネットを活用して情報収集し、表計算ソフトでデータの整理・分析を行うなど社会人が当たり前に行うことを子どものうちから体験できます。また、情報の蓄積・過程の可視化ができれば、教師は子どもの躓きや伸びについて見取りがしやすくなるし、空間的な制約を超えることは、子ども達の学びの保障や、ウェブ会議等を通じて、外国や地域等と繋がることで、アイデア創出の力を育むきっかけにもなります。紙ではできなかったことをICTでどう実現していくかが、授業改善、学びの充実に繋がっていきます」

一方、1人1台端末は、多くの学校・教師にとって大きなチャレンジとなる。実際、1人1台端末での実践に、ある程度蓄積がある自治体は約4%という数字もある(図参照)。

図 全ての教師が1人1台端末を利活用した実践を行うための取組

画像をクリックすると拡大します

「ですから、試行錯誤が大事で、教育委員会も研修などをサポートする必要がります。最終的には、自治体間の横のつながりを強化し、お互いに助け合い、協働、自走できる体制を構築していくことが重要です」

文部科学省では、1人1台端末の利活用をスタートさせる全国の教育委員会・学校に対する支援として、ホームページ『StuDX Style』を開設。「すぐにでも・どの教科でも・誰でも」活かせる1人1台端末の活用法に関する優良事例や本格始動に向けた対応事例などの情報発信・共有を行っている。また、『GIGA StuDX推進チーム』を作り、教育委員会・学校との情報交換プラットフォームを構築。文部科学省と自治体、自治体同士の繋がりを強化し、ICT活用の充実に向け、協働してGIGAスクール構想を推進している。

デジタル教科書、教育データ活用し
令和の日本型学校教育を目指す

デジタル教育コンテンツでは、文科省「学習者用デジタル教科書普及促進事業」によって、4割程度の小中学校(1人1台端末整備校が対象)にデジタル教科書が提供され、実践を通じた課題等の検証が進められるなど、デジタル教科書にも大きな流れが起きている。また、文科省は国や地方自治体など公的機関等が作成した問題を活用し、児童・生徒が学校や家庭で学習やアセスメントのできる「学びの保障オンライン学習システム」(MEXCBT:メクビット)を開発。昨年度、300校の小中高で実証を進め、今年度は希望校を対象に展開を進めている。

さらに先端技術×教育データの利活用の推進を併せて進めている。例えば京都市では授業中の児童生徒の音声データを解析。発言内容・量を可視化することで本人も気づかない点をフィードバックし、気づきを与え、主体的な学びに繋げている。

「教育データの利活用もしながら、学習や教育の充実に繋げていくことが大事です」。そのための教育データの標準化も重要だ。昨年10月には教育データを①主体情報、②内容情報、③活動情報に分類する枠組みを提示するとともに、学習データの起点として学習指導要領にコード付与を行い、「教育データ標準」(第1版)として公表された。

「人生が単線ではなくマルチステージとなり、グローバル化、人口減少が進む。こうした大きな社会変化を予想しながら、GIGAスクール構想を基盤とする令和の日本型学校教育を考えていきたいと思います」