教育現場のICT活用の現状と課題 地域間、学校間の格差是正へ

2020年11月30日、第2回『今後の社会を見据えた ICT 活用教育研究会』が開催された。今回は、ICT 活用における全国の教育現場の現状と課題、多様化する教育現場での ICT 活用などについて、各スピーカーから情報が提供され、議論を進めた。

平井聡一郎 情報通信総合研究所 ICT リサーチ・コンサルティング部 特別研究員

平井聡一郎
情報通信総合研究所

ICT リサーチ・コンサルティング部 特別研究員

伴野崇生 社会情報大学院大学 准教授

伴野崇生
社会情報大学院大学 准教授

これからの社会を見据えた教育のあるべき姿を描き、初等中等教育から高等教育・リカレント教育まで一貫性ある学びの在り方を検討していくことを目的に立ち上がった『今後の社会を見据えた ICT 活用教育研究会』。学校法人先端教育機構が主催する同研究会では、教育現場の ICT 環境整備・活用も含めた学びの在り方について、現状と課題を把握・整理。整理された論点をもとに、中長期的には実証研究を進めていく。

第2回の研究会では、『全国の教育現場の現状と課題』をテーマに平井聡一郎氏(情報通信総合研究所特別研究員)が登壇。その後、東大和市教育委員会から、教育現場における取り組み事例が報告された。さらに、伴野崇生氏(社会情報大学院大学准教授)は、『増加する外国人児童生徒等への教育の在り方』として、多様化する教育現場における ICT 活用の可能性について講演した。今回は、平井氏、伴野氏の講演について抄録する。

『ポストGIGA』の格差是正には、各自治体の教育ビジョンが必要

平井氏は『全国の教育現場の現状と課題』について、ICT の整備状況、運用面、活用面の3つの視点から現状と課題に言及した。

平井:教育現場の ICT の整備状況ですが、端末に比べ wi-fi の整備が遅れていることが全体としてあります。極端な話、端末は来ているけれど繋がらない状態が起きています。

運用部分では、整備と合わせてセキュリティポリシーを考えている自治体が多く、現在試行錯誤の段階かと思います。クラウド利用禁止が未だにあり、システムの設計・設定部分で、トラブルが多いのが現状です。ただ、表面に出てきていない運用面での細かなトラブルは他にも多くあることが予想され、こうしたトラブルを全部吸い上げる必要があります。

活用面に関しては、先行自治体と後発の自治体で格差が拡大していることが、大きな課題かと感じます。

そもそも、自治体に ICT を活用した教育に対するビジョンがあるかどうかが、整備状況、運用状況、活用状況全ての格差となって表われてきている。自治体間、学校種間、学校間、教師間、色んな差が今広がりつつあるのが大きな課題です。

ハード面の整備は、大型提示装置がどの学校でも必要となってくるかと思います。また今後、大きな格差が懸念されるのは、学校外の通信インフラです。センターサーバー(自治体・教育委員会のサーバー)を使う場合、回線への相当な負担が想定され、繋がらないことも危惧されます。

また、ICT 支援員やヘルプデスクなどのサポートがあるかどうかも格差拡大に繋がるでしょう。今後、オンラインが進む中で、学校と家庭、学校と子どもたちを繋ぐためのプラットフォームがきちんと整備されているかどうかも重要です。

こうした全ての要素は、整備する ICT を活用し、どんな教育を目指すのかのビジョンに影響されるかと思います。特に『ポストGIGA』で、整備が進んだ後、運用、活用という次のステップにどう進むのかにおいては、ビジョンは欠かせません。

ソフト面では授業支援、公務支援、デジタル教科書など、様々なものがこれからデジタル化していきます。『これをやればいい』というものではなく、全体的なレベルを上げていかなければなりません。授業での活用に限らず、日常的な生活の中で ICT が使われていくことが求められるかと思います。

ビジョンを持って、そのビジョンをもとに必要なものを揃えていく。こうしたことを、本研究会で提言し、各自治体に考えてもらいたい。そして、格差を是正していくことが必要かと思います。

『誰一人取り残さない教育』のための、ICT 活用の可能性

伴野氏は、『外国人児童生徒等への教育の在り方』を通し、多様化する教育現場における ICT の可能性について議論を投げかけた。

伴野:平成30年度時点で、日本語指導が必要な児童生徒は全国で5万人を超えています。うち、外国籍児童生徒数が4万人超、日本国籍の生徒児童数が1万人超。日本国籍で日本語指導が必要な児童生徒もかなりいることを、まずは押さえておく必要があります。

外国にルーツがある児童生徒は「英語」を使うという発想に陥りがちになりますが、日本語指導が必要な外国人児童生徒のうち、外国籍の児童生徒ではポルトガル語を母語としているのが全体の約4分の1、日本国籍の児童生徒ではフィリピノ語使用者が全体の約3割を占めます。

外国人児童生徒等に関し、現在、未就学あるいは未就学の可能性がある学齢相当の子どもは約2万人と言われ、進学率や就職率も低い状況です。社会全体の持続可能性を考える上でも、外国人児童生徒等への対応は重要だと言えます。

言語能力は伝達言語能力(BICS)と認知学習言語能力(CALP)に分けて考えられることが多いですが、日常生活に必要な BICS は比較的短い年数で習得可能だと言われています。一方、学習に必要な CALP の習得は5~7年、場合によってはそれ以上の時間が必要だと言われています。つまり日常会話ができても、学習に必要な力が十分あるとは限らず、継続的なサポートが必要なのです。

外国人児童生徒等の多様化は年々進んできています。そうしたなか、個別に十分な対応ができない事象も多く出てきています。日本語でのパフォーマンスだけで判断され、発達に問題があるとされるケースも少なくありません。

こうした外国人児童生徒等における ICT の活用においては、文部科学省の「外国人児童生徒等の教育の充実について(報告)」で言及されているように、多言語翻訳システムや音声読み上げ、漢字へのルビ振りなどの機能を持つ ICT 教材、日本語や教科学習のための配慮や工夫のなされたデジタル教材・コンテンツ、テレビ会議システムなどを活用した遠隔授業の実施などが求められています。

また、障害のある児童生徒のために作成されている音声教材や学習者用デジタル教科書も学習に有効だろうと指摘されています。さらに、学習に必要な言語をどれくらい習得しているかを評価できるよう、ICT を活用した評価手法を開発することも求められています。

大切なのは『誰一人取り残さない教育』の実現に向けて、外国人児童生徒等に必要なサポートを公教育の中でもしっかりと行なっていくこと、さらには、外国人児童生徒等という視点を通じてあらゆる児童生徒が取り残されない教育を実現していくことです。そのような視点で、ICT で何ができるのかを具体的に考えていく必要があると考えています。

次回、第3回の研究会では私立校や産業界の有識者から意見をもらうことを予定している。