渋沢栄一流・社会的ネットワーク形成術

数多の経営者と協力し、数多くの会社立ち上げ・運営を進めてきた渋沢栄一。同時進行する幾多の事業の進行を支えたのが、共に困難に挑んだ経営者たちの存在である。経営者との関係構築や後進育成による社会的ネットワークの形成について取り上げる。

「閥」に属さず
数多の経営者たちと関係を築く

島田 昌和

島田 昌和

1987年 早稲田大学大学院経済学研究科経済学修士号取得、1993年 明治大学大学院経営学研究科博士課程単位取得満期中退、2006年経営学博士(明治大学)。
文京女子大学(現・文京学院大学)経営学部専任講師、ミシガン大学日本研究センター研究員、一橋大学日本企業研究センターフェロー等を経て現職。専門は経営史、経営者論。渋沢研究会代表を務める。著書に『渋沢栄一 社会企業家の先駆者』(岩波新書、2011年)、『渋沢栄一と人づくり』(共編著、有斐閣、2013年)など。

たくさんの社会的資源を持つ人ほど、社会的地位を上昇できるという考え方がある。社会的資源には、資産などの物的資源、人脈などの人的資源、知能や学歴などの情報的資源、地位や権力などの関係的資源に大別される(詳しくは、拙著「渋沢栄一の青少年期~人間形成理論を利用して」『月刊資本市場』第425号、2021年1月参照)。

渋沢栄一はこれらの大半を手にしていた。地位や権力は途中で手放しているわけだが、私は人的資源づくりの達人だったことが彼の社会的地位を形成していたように考えている。出自は農民で、旧幕臣系列であった。薩長閥、財閥、学閥といった「閥」のメンバーであることに社会的なポジションが大きく左右された戦前日本にあって、それらと距離を置いて、経済界を中心に政治や社会全般、教育などありとあらゆる分野で多くの実績を残すことができたのはどうしてであろうか。

公平性、公共性、計数能力の高さ、視野の広さ、…

(※全文:2491文字 画像:あり)

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