ICTを活用した教育へ向けた 私立校と産業界の取組み

12月16日、第3回『今後の社会を見据えた ICT 活用教育研究会』が開催された。今回は、私立校における初等中等教育(義務教育)のあり方について荒木貴之氏、産業界からの声として東京書籍、ソニーマーケティング等が登壇。情報共有と意見の交換を行なった。

ベテランと若手の垣根を超えて、オンライン授業のノウハウを構築

初等中等教育から高等教育・リカレント教育まで一貫性のある学びの在り方の検討を目的に立ち上がった『今後の社会を見据えた ICT 活用教育研究会』。第3回では、ドルトン東京学園中等部・高等部校長の荒木貴之氏が同校の ICT 活用について発表した。

荒木:ドルトン東京学園は開校2年目の共学中高一貫校で、中学校1年生・2年生の約250名が在籍しています。アメリカの女性教育者、ヘレン・パーカーストが唱えた「ドルトン・プラン」という教育メソッドに沿って「自由と協働」を軸に、学習者中心の教育を行なっています。

 全館オンライン環境で、生徒は必要に応じて PC を活用する(ドルトン東京学園)

全館オンライン環境で、生徒は必要に応じて PC を活用する(ドルトン東京学園)

PC は BYOD(Bring Your Own Device)で、生徒1人ひとりが自分の PC を持ち込むことにより、授業や家庭、学校外とシームレスに学べる環境を実現しています。全館インターネットに繋がる環境で、生徒たちは必要に応じて PC を使うことができます。

本校では「まなBOX」というクラウド型の LMS(学習管理システム)で課題の提示・提出、学習履歴の把握等に活用しています。

教室は1クラス25人の少人数制です。25人を超えると、学習状況の把握は難しいと考えています。授業は PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)を中心に、プレゼンやレポートの提出等のアウトプットを重視します。普段の授業では、発表する機会がたくさんあります。人前で話すことが苦手な生徒も、多くの経験を通じて、コミュニケーション力やプレゼン力を育んでいます。

コロナ禍の際は、4月上旬からオンライン授業が始まりました。ベテランも若手の先生もほぼ未経験でしたが、それが返ってフラットなコミュニケーションに繋がりました。たとえば、Slack(オンラインコミュニケーションツール)で「授業ノウハウ共有」というチャンネルを作ると、オンライン授業のヒントが先生方からたくさん寄せられました。

オンライン授業は生徒にもメリットがありました。不登校気味でもオンラインで家庭からなら授業に参加できる、人前で発表することが苦手でもチャットなら自分の意見を言うことができる等です。現在、分散登校とオンライン授業を併用しながら進めています。それぞれの良さをいかしながら、今後も進めていきたいと思います。

教科の枠組みを超えた、SDGs を起点とした『新しい学び』

産業界からは東京書籍の長谷部直人氏が登壇。SDGs を起点にした次世代教育への取り組みをテーマに、実践的教材ツールについて発表した。

長谷部:GIGA スクール構想で、学校現場では ICT 利活用やデジタル教科書への関心が高くなっています。

一方、新学習指導要領が子どもたちを「持続可能な社会の創り手」と示すように SDGs(持続可能な開発目標)をどう教育に取り込んでいくのかにも高い関心が集まっています。そして SDGs の担い手となる子どもたちに必要な資質・能力を育むために、学校と社会が連携・協働する必要性が、クローズアップされています。

こうした SDGs を起点とした学びでは、教科や学年を超えた『新しい学び』が始まっています。そこで、東京書籍では、教科の枠組みを超えた学びを実現する SDGs 教材として「EduTown SDGs」を開設しました。

「EduTown SDGs」の TOP 画面

「EduTown SDGs」の TOP 画面

「EduTown SDGs」は、SDGs を実践的に学ぶことができる Web サイトです。SDGs の17の各目標に対する解説、それぞれの目標に対する企業の具体的な取組み、さらに、映像教材やワークシートなどを用意し、すべてのコンテンツを無料で利用できます。また「EduTown SDGs」に掲載した内容を B5サイズのリーフレット「SDGs スタートブック」として教材化し、全国の小・中・高等学校から注文を受け無料で配布しています。今年は1,100校から申し込みがあり、約22万冊を配布しました。

SDGs 教材の制作では、東京書籍と日経BP、映像制作会社の TREE でアライアンスを組み、各社の強みを活かして、様々な企業・自治体から情報を収集し、動画や記事を作成しています。SDGs に取組む具体例を元にした教材を提供することで、SDGs を取り入れた教育を推進し、持続可能な社会の創り手を育成していくことが目的です。現在、アライアンスパートナーとして15社の協賛をいただいています。

1人1台の端末環境が実現した時、「EduTown SDGs」は、教科や学年を超えた SDGs のコンテンツとして、子どもたちの学びに活用していただけると思います。

スマホ感覚で簡単に操作できる、大型提示装置を

続いてソニーマーケティングの光成和真氏は、ICT 教育の実現に向けたソニーの取組みと教育現場の現状課題について発表した。

光成:ソニーは「学校における ICT 環境整備を促進し、『教育の質の向上』を実現する」ことをビジョンに、2019年から取組みをスタートしています。たとえば、大型提示装置に関して、多くの学校との実地検証を通じて、最適な画面サイズや使い勝手、遠隔授業への対応等を検証してきました。

こうした中、いくつかの気づきがありました。それは先生の PC等の操作や接続の不安を解消する必要があること。各学校が使用する ICT 機材の機能や使い方、授業支援ソフトが不統一のため、操作方法の標準化が困難であることです。

大型提示装置には様々な可能性が期待される

大型提示装置には様々な可能性が期待される

解決策は大きく2つ。1つ目は、すべての先生が実践できる「ICT 機材+デジタル教科書、遠隔授業」のパッケージをつくること。たとえば、大型提示装置をスマホのタッチやテレビのリモコンのような感覚で操作が出来ないか。Android TV の特長を活かし、デジタル教科書ポータル画面を作成し、教科書アプリや Google Classroom、Zoom、YouTube等、必要なソフトを事前に実装できれば、スマホを使う感覚で、授業に活用できるのではと考えています。

2つ目は、すべての先生が指導者用・学習者用デジタル教科書を使いこなすために各教科の授業に沿った操作方法の確立(ロールモデルづくり)です。教科書会社や教育委員会と連携して、たとえば1年目に教育委員会内の全校の教科別指導主事育成、2年目に指導主事による全校指導者への横展開といった中期計画を立てながら、オンラインセミナー等協力したいと考えています。

学校から様々なデジタル化の相談も増えてきました。大型提示装置を活用した遠隔授業だけではなく、デジタル放送室やデジタル新聞など、様々な取組みにも挑戦していきたいと思います。