特集2 教育の新潮流 高校DX、生成AIなど政策から2024年を展望する

急速に進むデジタル化、生成AIの登場、デジタル・グリーンなど成長分野を担う人材育成の必要性など、急速な社会変化に伴い、これからの教育を、どう考えていくべきだろうか。「教育の新潮流」をテーマに、様々な取材を通じて、2024年の教育を展望した。(編集部)

成長分野を担う人材を育成
高校DXの加速化を推進

政府の「教育未来創造会議」が2022年5月に公表した第一次提言は、成長分野といわれるデジタル・グリーン分野における国内の人材不足を背景に、自然科学(理系)分野に着目した。

近年、自然科学分野を専攻する学生の割合は諸外国が40%を超えるところも多い一方で、国内は約35%にとどまっている。第一次提言では、自然科学(理系)を専攻する学生について、「世界トップレベルの5 割程度」という目標を設定。デジタル・グリーン等の成長分野への大学等の再編を掲げた。

こうした状況を受け、文部科学省では「大学・高専機能強化支援事業(成長分野をけん引する大学・高専の機能強化に向けた基金)」において、デジタル・グリーン等成長分野を牽引する高度専門人材の育成に向けて、意欲ある大学・高専の学部再編等を後押ししている。

こうした中、23年11月29日、令和5年度補正予算が国会で成立。文部科学省関連では、「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」に100 億円が計上された(➡こちらの記事)。同事業では、情報、数学等の教育を重視するカリキュラムを実施するとともに、ICTを活用した文理横断的な探究的な学びを強化する学校などに対して、必要な環境整備の経費を支援するために、公立・私立の高等学校等(1,000校程度)を対象に、補助上限額1,000万円/校の定額補助を実施する。

支援対象は、ICT機器整備(ハイスペックPC、3Dプリンタ、動画・画像生成ソフト等)、遠隔授業用を含む通信機器整備、理数教育設備整備、専門高校の高度な実習設備整備、専門人材派遣等業務委託費などが想定されている。

生成AIの教育現場の活用
不登校とオンラインフリースクール

2022年末、Open AIがChatGPTを公表し、ビジネス現場だけでなく、教育現場での応用も期待される中、23年7月、文科省から「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」が公表された。また、同ガイドラインを踏まえ、文科省としてのパイロット的な取組みとして、教育活動や校務において生成AIの活用に取り組む53校を指定し、「効果的な教育実践の創出」を行うことで、今後の更なる議論に資するよう、知見の備蓄をすすめている。さらに、教育現場のDX推進のためのアドバイザーによる支援「学校DX戦略アドバイザー」においても、同アドバイザーの対応可能分野として「生成AI」を設けている。

教育現場で徐々に活用が広がるなか、2月9日『教師の仕事がAIで変わる! さる先生のChatGPTの教科書』を上梓する、「さる先生」こと坂本良晶氏は、今後、生成AI の教育利用に関する期待感について、「教員の働き方を大きく改善する「福音」になると確信しています」と話す(➡こちらの記事)。坂本氏は「AIの活用は、まだ過渡期なので、どういう運用になるのかも、良いか悪いかも判断しにくいですが」と前置きしつつも、「子どもたちにとっては、時短や効率化ではなく、『表現(創造力)の拡張性を高める』ことが、AIを活用する魅力かなと捉えています」と話す。

また、校務や授業の準備などにおけるChatGPTの活用について、いくつか具体的な取組みについて話を伺った。

文科省が23年10月4日に公開した「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」結果によると、小・中学校における不登校児童生徒数は299,048人であり、前年度から54,108人増加し、過去最多となった。

23年度補正予算においても、校内教育支援センターの設置促進、教育支援センターのICT環境整備やアウトリーチ機能の強化、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーの配置充実、1人1台端末等を活用した「心の健康観察」の導入推進など「不登校・いじめ対策等の推進」に51億円を計上している。

不登校児童・生徒の多様な学びの場の確保を考える上で、注目されるのが、オンラインの活用とフリースクールの存在だ。23年11月に正式開校したオンラインフリースクール「SOZOWスクール小中等部」は、「好きを学びに。未来を自在に。」をコンセプトに、メタバース上のキャンパスに、アバターで通い、好きなこととデジタルを組み合わせた学びに取り組んでいる(➡こちらの記事)。

同フリースクールを運営するSOZOW代表取締役の小助川将氏は、「不登校になると、自信を失いやすい。もう一度自信を育み、社会で活きる力を身につけるには、大人が一方的に教えるのではなく、正解・不正解のない問いを出して、大人も一緒に考えたり、仲間と共に学んだりすることや、アウトプットをしていくことが重要だと考えています」と話す。

生成AIの活用、オンラインスクールなど、2024年も教育現場へのテクノロジー活用はさらに注目を集めそうだ。

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教育政策に必要なエビデンス
大学入試に求められる専門人材

先に紹介した「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」など、毎年度、多様な政策が打ち出される中、EBPM(証拠に基づく政策立案)をはじめ、教育政策の意思決定にエビデンスを重視する機運が高まっている。

2023年11月に上梓した『教育政策をめぐるエビデンス』で「なぜエビデンスに基づいた教育政策の議論は困難なのか?」を検証した桃山学院大学准教授の中西啓喜氏に、教育政策におけるエビデンスの利用について話を伺った(➡こちらの記事)。

中西氏は、教育政策におけるエビデンス利用について、①手段改善と、②目的発見にわけたモデルを提案する。また「教育政策における有意義な議論には、現場で働く教師の意見もエビデンスの一つであると、エビデンス概念を広く捉えて、現場が何を求めているのかを含めて議論する必要があります」と指摘する。

また、少子化が進み大学入試の多様化が進む中で、23年12月、大学入試を研究対象とする大学教員や進路指導を行う高校教師などから構成される「大学入試学会」が設立された。学会設立を主導した東北大学教授の倉元直樹氏に、学会設立の背景や同学会が目指す未来について話を伺った(➡こちらの記事)。

学会設立の背景について、倉元氏は「大学入試を一つの学問分野として確立しつつ、学問的知見やエビデンスに基づいてきちんと制度設計ができる人材を育成する仕組みが必要だと考え、大学入試学会を設置するに至りました」と話す。

また、同学会では個人会員の集まりである学会本体の下に大学側・高校側の協議会をそれぞれ設置し、大学教員や高校の先生がフラットな関係で意見交換や情報共有を行える場も設けるという。

本特集では「教育の新潮流」をテーマに、多様な角度から2024年の教育を展望した。2024年の学び、教育等はどうあるべきか。その一助となれば幸いだ。