フィジカルAIに挑むGMO 熊谷正寿代表に聞くヒューマノイドの未来

GMOインターネットグループは2026年9月15日、「第4回 GMO大会議🍁秋 フィジカルAI 2026」をセルリアンタワー東急ホテル(東京・渋谷)で開催した。テーマは「フィジカルAI 産官学連携が描く日本の成長戦略」。セッション終了後、同社代表取締役グループ代表 会長兼社長執行役員・CEO 兼グループAI変革最高責任者・CAIOの熊谷正寿氏が報道関係者の質問に応じた。防衛分野との関わりから、ヒューマノイド普及の条件、そして事業に向かう動機など記者団との主なやり取りを紹介する。

取材陣の質問に答えるGMOインターネットグループの熊谷正寿代表

官需との距離をどう考えるか

――陸上自衛隊向けに四足歩行型ロボットによる警備の検証に取り組まれています。防衛分野におけるフィジカルAIの展開について、どのような展望をお持ちでしょうか。

率直に申し上げますと、事業家として、税金を原資とする売上はなるべく増やしたくないと考えてまいりました。助成金にせよ官公庁とのお取引にせよ、財源は国民の皆様が納めた税金です。それをいただくとなれば、自分にも組織にもより厳しくならなければならないという気持ちになります。ですので、当初はその方向には向かわないようにしていました。

考え方が変わったのは、サイバーセキュリティ事業に取り組んでからです。30年にわたって広げてきたインターネットを、悪用する人たちがいます。その状況を放置したまま終えるわけにはいかない、自分たちが広げてきたものは自分たちで守らなければならないと考えて事業に入りました。すると今度は、国を守る領域のご相談をいただくようになりました。民間企業への攻撃とは、攻めてくる相手の水準が異なるためです。

自衛隊の現場の方に伺うと、夜間の警備が最も過酷だといいます。冬も、雨の日も、雪の日も続きます。そうした業務こそロボットに担ってもらえればと考えています。積極的に営業をかけて官需を取りにいく会社ではありませんが、求められた場合にお断りするのもよくないと思っています。当社が引き受けなければ誰が担うのかという話にもなりますので、お受けした以上は全力で取り組みます。

なお、GMOインターネットグループは2026年6月18日、陸上自衛隊が推進する「警備用ロボット(四足歩行型)システムの導入検証に係る業務委託」を受託したと発表しています。グループ4社と、千葉工業大学の研究成果の社会実装を担う株式会社未来ロボットが連携し、全国複数の駐屯地で性能と安全性を検証する枠組みです。

普及を左右するのは「手」

――中国では人型ロボットの高度な動きが注目される一方、協働ロボットに比べて社会実装は進んでいません。ヒューマノイドの実装には、さらに厚い壁があるのではないでしょうか。

ご指摘のとおり、完全な社会実装までには越えなければならない最後の一歩があります。ただ、大前提として、ヒューマノイドは普及すると考えています。

イベントのオープニングではヒューマノイド「ひとみん」がダンスパフォーマンスを行った(GMOインターネットグループ提供)

1980年代から1990年代にかけて、日本はロボット分野で世界シェアの9割を占めていました。当時の主役だった企業や関係者の方にヒューマノイドについて伺うと、人型である必要はない、ハンドで十分だ、四足歩行でよいのではないか、という答えが返ってきます。皆さん、示し合わせたように人型を否定されます。

しかし私は異なる見方をしています。世の中にあるものは、すべて人間に合わせて設計されているからです。今お使いの椅子も人間用であって、ハンド用ではありません。ヒューマノイドがきちんと動けるようになれば、環境を作り替える必要がありません。労働力として最も汎用性が高いのは人型です。労働人口にヒューマノイドを加えたものに生産性を掛けるという、新しいGDPの考え方を成り立たせるのもヒューマノイドだと考えています。

――その最後の一歩とは、具体的に何でしょうか。

手の性能と判断です。諸説ありますが、作業の6割から7割は手が担っています。脚やボディではありません。人間と同じように繊細なものに触れ、扱えるかどうか。卵を割らずに持てるか、布をきちんと畳めるか。手が十分に動くようになったとき、初めて社会実装の壁を越えられます。

その課題は認識していますので、近くハンドを対象としたコンテストを始める予定です。国内外にある優れた技術や材料を集め、社会に出せる形として発表していただく場にしたいと考えています。国内のものづくり分野で著名な方々に審査をお願いする方向で準備を進めています。

まず事業所、次に家庭へ

――人とロボットが共存するには、街づくりや交通機関など社会環境の設計も変えていく必要があるのでしょうか。工場や倉庫にはすぐ入れても、街や住宅は別の話ではないかと思います。

ある程度は変えていく必要があると考えています。導入の順序としては、家庭よりも前に会社や事業所に入る可能性が高いと見ています。物流のように重い荷物を扱う現場や、24時間にわたって人の代わりにいてくれた方がありがたい場所からです。家庭に入るのはその次でしょう。Unitree Roboticsの王興興CEOも数年内の家庭普及に言及していましたが、私も同じ見方です。

環境面で必要になるのは充電です。電気自動車で示されているとおり、ヒューマノイドは電力さえあれば24時間稼働できます。人間は食事や休息を挟んで8時間ですが、彼らは違います。ですから、街の側に充電できる環境を増やしていく必要があります。理想を言えば、自分で移動して自分で充電し、短時間で満充電になる形ですが、どのような技術になるかはまだ分かりません。

途中で停止した機体に対応するため、2026年9月に人型ロボット専用の保守車両「GMOヒューマノイド救急車」を導入しますが、頻繁に出動する状況は避けたいところです。各所で機体が止まったままにならない仕組みが必要になると考えています。少し話が広がりますが、AIの進展によって医学の難題も解かれ始めており、長く生きられる時代に入りました。私たちが現役でいるうちに、人とヒューマノイドが同じ街を歩く時代は訪れるのではないかと思います。

ロボット運動会参加で得た学び

――2026年8月に北京で開かれた第2回世界人型ロボット運動会に、日本企業として唯一出場されました。結果をどう受け止めていますか。

多くの学びがありました。100メートル、400メートル、1500メートルに出場し、いずれも完走しています。1500メートルでは7位に入りました。

当社は走行専用の機体ではなく汎用機体で臨みました。専用機には差をつけられましたが、汎用機体の中では最も速いタイムでした。専用機が人間の記録を超えたと報じられ、その意義は大きかったと思いますが、壁に接触してしまった機体もありました。当社はダンスにも使う機体をそのまま用い、きちんと止まることができています。

ソーシャルメディアでは中国勢に及ばなかったという指摘もいただきましたが、冷静に見れば十分な成果があったと考えています。日本企業の出場がゼロという状況は避けたいという思いもありました。出場してよかったですし、走行以外の種目への挑戦も検討しています。学習には、ニューイヤー駅伝で優勝したグループ陸上部の選手の走行データを活用しました。

「27年間は前座だった」

――インターネット事業を長く手がけてこられた熊谷代表が、なぜロボットに向かわれたのでしょうか。

この業界に30年おりますと、流行りと廃りの波がいくつもあります。当初はOpenAIがChatGPTを公開した当初は面白い、楽しいという程度の受け止めでした。

ところが使い込むうちに、これは本物かもしれないと思うようになりました。使い始めて1〜2カ月が経った頃です。これを使わなければ大きく差がつく、と考えました。

当時27年にわたって築いてきたインターネットは、人の情報格差を縮めるサービスでした。それ以前は調べ物に図書館へ行く必要がありましたが、スマートフォンで分かるようになりました。一方でAIは、使う人と使わない人の格差を広げます。そこで気づいたのが、自分たちの位置づけです。IT革命の本番の主役だと思っていましたが、27年間は壮大な前座だったのだと感じるようになりました。

――前座だと感じられたのは、どのような理由からでしょうか。

AIが学習していたのがウェブだからです。現在はさまざまなデータが使われていますが、当初のAIはウェブを収集して賢くなっていました。日本で検索エンジンをお使いいただく際、その多くは当社グループのサービスが関わっています。ドメイン、サーバー、ウェブサイト、SSL、決済といった領域です。つまり、私たちが整えてきたものがAIの学習材料だったわけです。

そこから先を考えました。AIは画面の中だけでは完結しません。これが社会に出てくる経路はロボットであり、なかでもヒューマノイドだと、2年半ほど前に気づきました。それを踏まえて、2024年6月18日にGMO AI&ロボティクス商事を設立しています。

社名に「商事」を用いたのは、事業は財閥に学ぶという考え方からです。長く続いている組織に学ぶという意味ですが、旧財閥系のグループを見ると、金融を手がけ、流通に展開し、商社機能を備えています。今回もヒューマノイドの流通と周辺事業を担う意思を込めて、この名称としました。

日本から立ち上げる理由

――国内のロボット産業が勢いを失ったと言われるなかで、日本から立ち上げて勝てるとお考えになる理由を教えてください。

日本は今、周回遅れになったと見ています。インターネットは米国発でしたので当初は遅れていましたが、当社も同時期のベンチャーも努力して、何とか追いつきました。ところがAIはスピードが速く、一気に引き離されました。

本来であれば、AIを取り込んでロボット産業を再生させるべきでした。しかし1980年代から90年代の成功体験に縛られ、新しい挑戦に踏み出せなかった面があります。その結果、中国や米国のヒューマノイドメーカーに差をつけられ、部品は日本製が使われているのに、完成した機体を持てない状況になりました。理由はいくつもあるのでしょうが、この業界にいてそう感じています。

ですので、当社が入れば勝てるということではなく、やらなくてどうするのか、という思いです。私は現在63歳です。世界から尊敬される国にして次の世代に残したいという気持ちがあります。

――収益についてはどのようにお考えですか。

Windows 95の時代から数えて31年目に入りますが、一度も使ったことのない言葉があります。「儲かるからやれ」という言い方です。8,000人を超える仲間に、一度も申し上げたことがありません。今回も同様で、儲かるからロボットをやる、とは申しておりません。

事業は結果であって目的ではないと考えています。もちろん収益は必要です。どれほど崇高なことを掲げていても、資金が尽きればすべてが失われます。ですからキャッシュは重要ですが、それは目的ではなく、よいサービスを提供した結果として得られるものです。ヒューマノイドによって世の中がよくなり、その役割を十分に果たせれば、収益は後からついてくるはずです。そうした思いでこの事業に取り組んでいます。