MOC 未来を創る「社会実験場」、自ら挑戦する人を支える
2024年4月に発足した官民連携の団体「宮崎オープンシティ推進協議会」は、スタートアップ支援や共創のマッチング、人材育成など複合的な事業を展開。アイデアを形にする伴走支援に力を入れ、地域に挑戦の土壌を育み、宮崎発のイノベーション創出を目指している。
「自燃型人材」を支援し、
挑戦の土壌やきっかけを創出

杉田 剛
一般社団法人 宮崎オープンシティ推進協議会 創発本部長
1975年宮崎市生まれ。1999年大学卒業後、NTT東日本へ入社し主に法人営業を担当。2007年宮崎商工会議所入所。商店街の活性化や観光の振興、スタートアップ支援を行う。2019年より01Boosterへ転職し、大手企業とスタートアップの連携事業、企業内起業家育成支援、地域における事業育成及び課題解決事業、マッチング事業を担当。2021年より宮崎で引き続き同事業を行う。2024年4月、一般社団法人宮崎オープンシティ推進協議会 創発本部長。中小企業診断士(2008年登録)。
宮崎オープンシティ推進協議会(Miyazaki Opencity Council、以下MOC)は2024年4月、官民連携の団体として発足した。事業の柱として、①ローカルスタートアップの発掘・育成、②地域企業のイノベーション、③食産業・農業の革新と発展、④交流・共創の場という4つを展開。それら4つの事業を複合的に推進し、新たなチャレンジを生み出している。
MOC創発本部長の杉田剛氏は、次のように語る。
「MOCは未来を創る『社会実験場』です。一般に『モック』とは『試作品』等を意味しますが、私たちはMOCの名の通り、アイデア段階や初期フェーズにある事業をサポートします。自ら挑戦する人(自燃型人材)を支援し、挑戦の土壌やきっかけを創出しています」
MOCは今年 4 月、宮崎市中心部の複合商業施設「HAROW(ハロウ)高千穂通」に新拠点を構えた。HAROW高千穂通は、旧NTT西日本宮崎支店のビルをリノベーションした施設で、宮崎県初となる「歩行者利便増進道路制度(通称:ほこみち制度)」を活用している。
「JR宮崎駅から300~400mに立地し、建物の容積率等の規制緩和や固定資産税等の軽減を盛り込んだ、宮崎市の『まちなか投資倍増プロジェクト』のエリアでもあります。オープンスペースやコワーキングスペースも備えていて、今年4月の開設以降、2000名以上の方が利用し、様々な起業支援やマッチングを提供しています」

MOCは、宮崎市中心部の複合商業施設「HAROW高千穂通」に拠点を構える。ビジネスや起業に関する相談、実証実験のフィールド提供、ビジネスマッチング、資⾦調達の機会、事業者間のネットワークづくりなどをサポートする。
様々なプロジェクトを展開し、
共創やイノベーションを創出
MOCの取組みの一つとして、「X-dojo(クロス道場)」がある。X-dojoでは、地元企業が自社のありたい姿や課題(共創テーマ)を提示。そのテーマに関するアイデアや解決策を持つスタートアップや中小企業、大手企業などから広く共創プランを募り、マッチングを行っている。
また、「MIYAZAKI STARTUP VALLEY(宮崎スタートアップバレー)」は、宮崎のスタートアップと投資家や実業家をつなぐ場だ。起業家がビジネスアイデアを投資家に直接アピールして、資金調達や事業拡大のチャンスを広げている。
自ら挑戦する人材の成長・交流を促進する取組みの一つが「ミヤダイミライ塾(みやざき未来研究所)」だ。宮崎大学研究・産学地域連携推進機構と連携し、各分野の第一線で活躍するゲスト講師を招き、受講者との活発な議論を行っている。
「ミヤダイミライ塾は、学生も一般の方も受講できます。ゲスト講師は単なる自社事業の紹介ではなく、自分の生き様を含めて、自らの経験や信念を語ります。イノベーションの創出にはスキルやノウハウだけでなく、挑戦するマインドが欠かせません。ミヤダイミライ塾は教科書では学ぶことができない、チャレンジ精神を育んでいます」
起業家人材に伴走支援、
宮崎に挑戦の土壌をつくる
杉田氏は宮崎市の出身で、1999年に大学を卒業した後、NTT東日本に入社。2007年にはUターンし、宮崎商工会議所で地域振興やスタートアップ支援に従事した。さらに2019年からは、企業のオープンイノベーションや新規事業開発を支援する01Booster(ゼロワンブースター)に転職。こうしたキャリアの中で、長年にわたりスタートアップ支援の経験を積んできた。
杉田氏はMOCにおいても、起業家人材への伴走支援を行う。メンタリングを行う際には、5W2H(Who:誰が? What:何を? Where:どこで? When:いつ? Why:なぜ? How to:どうやって? How much:いくらで?)で整理してアドバイスすることも多いという。
事業アイデアを持っていても、リサーチや顧客インタビュー等が不足している起業志望者も多いため、まずは顧客が抱える真の課題を発見し、深掘りするよう促すことも少なくない。課題解決にあたっては、他の業界や地域、過去の事例等も参考になるため、徹底したリサーチを繰り返して本質的な解決策を導き出すことが求められる。
東京でも数多くの新規事業開発をサポートし、メンタリングを行ってきた杉田氏は「東京の人も宮崎の人もアイデアの質や量はそれほど変わりませんが、圧倒的に違うのは実証実験など試行錯誤の質と量です」と指摘する。
地方では東京など都市部に比べて、人材、資金、情報といった新事業立ち上げに必要な経営資源が不足している。そのため、地方ではアイデアを持っていても、それを試すためのハードルが高くなる。MOCでは、挑戦を志す人たちが協力企業や投資家と連携できるように、積極的に環境づくりやマッチングを行っている。
「『自分には才能がない』と思っている人が多いと感じますが、そうではなく、打席に立つ機会がないだけです。地方においても、そうした人たちが少しでも多く打席に立てるように、場や機会を提供することが重要です」
杉田氏は、周囲の心ない言葉でイノベーションの芽が摘まれることを無くしたいと考えている。起業家が語るアイデアや事業プランの難点を指摘するのは簡単だが、それでは何も生まれない。イノベーション創出には、挑戦を否定せず、可能性を信じて伴走することが大切だ。
また、杉田氏が宮崎でスタートアップ支援に力を注ぐ背景には、宮崎のイメージを変えていきたいという思いもある。
「東京から九州や宮崎へ異動した場合に、『左遷された』という印象を抱く人がいます。しかし、九州や宮崎には素晴らしい魅力や資源がたくさんあります。地域の強みを活かした新事業創出を支援し、宮崎のイメージを変えていきたいと考えています」

今年4月に開催したグランドオープニングイベントでは、産官学の登壇者が「次世代につなぐ地域イノベーション」をテーマにパネルディスカッションを行った。
MOCの支援をきっかけに、
新たなチャレンジが続々と始動
MOCの支援をきっかけに、既に様々な共創プロジェクトが生まれている。
MOCでのインターンをきっかけに地元大学生が、ほこみち制度のスタートに合わせて「高千穂通り」を活用したイベントを企画。学生が考える新しい通りの活用(五感で感じるくつろぎの空間)を具現化しようと、様々な企業や団体と連携しながら、ゼロからイベントをつくり上げている。今年7月に開催した実証イベント「タカチホドオリ フラワーナイト」では、「花」と「光」を使い、夜の高千穂通にくつろぎの空間を演出し、80名近い市民を集め、通りの新たな賑わい創出に一役買っている。
また、MOCは高い鮮度保持技術を持つ東京の企業、ZEROCOとの協業も推進。その技術を活用し、宮崎産の完熟マンゴーを長期保存する実証実験を行っている。

地域企業と連携し、宮崎カカオの実証事業を推進。
ローカルスタートアップの発掘・育成も着々と進んでいる。宮崎市内でカカオ栽培に取り組むスタートアップ「宮崎カカオ」は、高品質で特徴的なフレーバーを持つカカオ豆の生産にチャレンジしている。同事業を手掛ける大田原尊之氏は県庁に勤務していたが、香り豊かなクラフトチョコレートに魅了されてカカオ栽培の研究を開始。2023年には、カカオ農家として独立した。現在、地域の電機メーカーと協業し、LEDを活用した実証実験に取り組み、宮崎で安定したカカオ栽培ができる技術の確立を目指している。
宮崎市は環境省の「脱炭素先行地域」に選定されており、杉田氏は今後に向けて、「カーボンニュートラルやサステナブル経営に資する取組みも増やしていきたい」と語る。未来を創る「社会実験場」として、これからもMOCは宮崎発の様々なチャレンジを積極的に支援していく考えだ。