「主体的学び」を促進する方法 動機づけ、メタ認知、学習方略が重要に

学びを促進するためには、外発的動機づけよりも内発的動機づけの方が前向きな行動に結び付きやすい。人の学びにおいて、主体的かつ意欲的であるとはどういうことか、教育心理学の立場から研究する九州大学・伊藤崇達准教授に、学習行動を促進する方策について話を聞いた。

動機づけにおいて、
大切なのは「自己効力感」

伊藤 崇達

伊藤 崇達

九州大学大学院 人間環境学研究院 准教授
1972年生まれ。愛知教育大学、京都教育大学等を経て、2018年より現職。博士(心理学)。専門分野は教育心理学。著書に『自己調整学習の成立過程:学習方略と動機づけの役割』など。

── 伊藤先生は、人の「主体的学び」に関する研究に取り組まれています。

私は主に学校教育・大学教育における学習者を対象とした研究をしていますが、これからの時代、生涯学習を視野に入れて主体的に学び続けることは、ビジネスパーソンを含めて全ての人に必要とされるでしょう。

人の主体的学びを考えるうえで、重要なキーワードの一つが「自己調整学習」です。教育心理学では「自らの学習を調整しよう」とする学習を「自己調整学習」と呼び、理論的には「動機づけ」「メタ認知」「学習方略」の3つの要素について、学習者が能動的に関与していきます。この3つの要素を備えていると、「自己調整学習ができている」状態であると言えます。

動機づけにおいて大切なのは、自己効力感です。「自分にはできる」という確かな手応え、単なる自信ではなく強い確信のようなものが自己効力感であり、それが形成されていると、人は自ら進んで学習します。

また、動機づけには「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」があります。内発的動機づけは「自分がしたいから」「面白いから」など、自分の心の内側にある思いが学びの原動力になりますが、一方で外発的動機づけは外部から報酬を得たり罰を避けることを目的に、「仕方なく」「やらされて」学習活動に取り組みます。

自己調整学習を進めるためには、外発的動機づけよりも内発的動機づけの方が前向きな行動に結び付きやすいと言えます。学ぶことに楽しさや意義を認め、そこに自己効力感が伴ってくると、強固な動機づけとなります。

近年、企業社会において、自ら主体的に仕事に変化を加え、働きがいを高める「ジョブ・クラフティング」が注目されていますが、それは内発的動機づけに基づく自己調整学習とも近しい概念だと言えるかもしれません。

メタ認知とは、自分自身を客観視すること、俯瞰して見ることです。ただひたすら一生懸命に努力するのではなく、一歩引いた視点から自分の学びがうまく進んでいるかどうかを観察し、別のアプローチを試してみるなど自分で調整していく。そうした「学び方を学ぶ」プロセスがメタ認知です。

学習方略とは、効果的に学習するための方法や工夫のことです。ただし、単なる学習スキルやテクニックではなく、学習内容を深く理解するための認知や思考の在り方までを含んでおり、メタ認知とも密接に関連した概念です。学びの質を高めるためには動機づけだけでは不十分であり、メタ認知や学習方略が重要になります。

社員の学習行動の促進に向けて
企業には何が求められるのか

── 企業の人事や人材育成担当にとっては、社員の学習行動を促進するために、どのような方策や環境づくりが重要になりますか。

自己調整学習の機会を提供し、個々人の主体的な学習行動を引き出していくことが大切だと思います。本人任せにしたり、逆に押し付けて「仕方なく」「やらされて」学習行動に取り組むようにするのではなく、コーチング等により内発的動機づけに働きかけていくことが必要でしょう。

コーチングの理論として、部下やクライアントのGoal(目標・理想の状態)、Reality/Resource(現状の把握)、Options(選択肢)、Will(意志)を大切にするGROWモデルなどが知られています。簡単ではないと思いますが、社員の自己研鑽をサポートする立場にある人は、いろいろな学びの方法やアプローチを提案し、気づきをもたらしてメタ認知を広げていくことが求められます。

また、学習者同士が対話を通して学ぶ「ピア・ラーニング」も有効だと思います。ピア・ラーニングには「対等性」「互恵性」「類似性」という特徴があります。

メンバー同士が対話を通して学ぶ「ピア・ラーニング」も有効な方法だ(画像はイメージ)。

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上司・部下という縦の関係性の場合、上司から部下への一方通行で教育指導が行われ、学びが限定的になる側面もあります。一方で対等な立場にあるメンバー同士のピア・ラーニングでは、お互い自由に意見やアイデアを出しやすくなるとともに、学ぶ人が時に教える人になるという互恵的な関係性が築かれます。ピア・ラーニングは動機づけを促進し、メタ認知、学習方略に広がりを持たせる方法になり得ます。

創造的で深く探究する
自己調整学習の知見を深める

── 自己調整学習のプロセスは、理論的にはどのように整理できますか。

自己調整学習では、「予見(見通し)」「遂行/意思コントロール(深め進める)」「自己省察(振り返り)」の3つのサイクルを回していくことが重要です。予見(見通し)とは学習の下準備にあたり、目標設定や学習方略を計画するプロセスです。課題への関心や自己効力感も必要となります。

遂行/意思コントロール(深め進める)とは学習方略を行う中でうまく学習できるよう集中したり、順調に進むように調整したりするプロセスです。自己省察(振り返り)とは学習後に成果の自己評価を行うことであり、ここで学習方略の問題点に気づけば、次の学習の予見(見通し)に反映させることで、学びのサイクルが成立します。

私は今、創造と探究を促進する自己調整学習の研究に取り組んでいます。昨今、変化が激しく先が見通せない時代において、学校でも企業においても、社会に適応する力だけではなく、社会を変えていける力の育成が重要になっています。

創造と探究の促進に向けては、自己調整学習のサイクルも変わってきます。予見(見通し)の段階で何をゴールにすべきか、何が正解なのかを見通すのは難しく、遂行/意思コントロール(深め進める)段階では、試行錯誤しながらいろんなアプローチ、学習方略の可能性を探究することが求められます。また、自己省察(振り返り)では、よりクリエイティブな解決を考案するような創造性が必要になるでしょう。

私が代表を務める研究プロジェクトでは、主体的な学び合いにおいて、創造的で深く探究する学びがどのように実現されるかについて、教育心理学の見地から明らかにすることを目指しています。それはこれからの時代、企業の人材育成を考えるうえでも有用な知見になると思います。