特集1 人事が変われば、会社が変わる 組織成長を導く戦略人事

人的資本経営を推進する企業が増えていく中で、経営戦略と人材マネジメントの連動によって、企業の競争優位を実現する戦略人事の重要性が高まっている。本特集では、これからの時代に必要な戦略人事について、有識者への取材などを通じて検証した。

戦略人材が機能していない原因は
「人事部門のリソースの問題」

経営戦略と人材マネジメントの連動によって、企業の競争優位を実現する戦略人事。従来の労務管理や制度運用といった定型業務を中心としていた「守りの人事」に対して、戦略人事では経営層と同じ視座に立って、事業目標の達成に繋がる人材施策を立案・実行していく「攻めの人事」と言われる。

現在、企業における戦略人事の状況はどうなっているのか。『日本の人事部 人事白書2025』によると、「戦略人事は機能している」と回答した割合は5.1%に留まる。機能していない原因については「人事部門のリソースの問題」が55.3%と最も割合が高く、「経営陣の問題」(54.1%)、「人事部門の位置づけの問題」(48.4%)と続いた(図表1)。

図表1 貴社において戦略人事が機能していない場合、その原因は何だと思いますか(全て)

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戦略人事を実行するリソースとして、「人」に焦点を当てれば、経営者と同じ目線で人と組織の面から事業成長の問題解決をサポートしていくHRBP(Human Resource Business Partnerの略)の存在が重要となる。

ただ、同調査によると、HRBPが「いる」と回答した企業は15.7%だった。また、「いないがこれから設ける予定」は12.0%、「現在おらず、今後も設ける予定はない」は60.7%だった(図表2)。従業員規模別に見ると、5001人以上の企業では半数の50.0%が「いる」と回答しているが、規模の割合が小さくなるほど「いる」割合は下がっている(図表3)。

図表2 貴社にはHRBPがいますか(一つ)

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図表3 貴社にはHRBPがいますか(一つ)

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人事特化型ビジネススクール「Every HR Academy」では「HRBP養成講座」を開講。同講座はHRのグローバルスタンダードを体系的・学術的に学べるプログラムだ。同Academyを運営するEvery代表取締役CEOの松澤勝充氏に学びの特長などを聞いた(➡こちらの記事)。

戦略人事と人的資本経営を
連動する企業はまだ少ない

人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値の向上につなげる経営の在り方である人的資本経営を推進する企業が増えている。

こうした中、戦略人事の重要性も高まっていると思われるが、実際に戦略人事と人的資本経営を連動させている企業は多くはない。『日本の人事部 人事白書2025』によると、戦略人事を「人的資本経営」と連動させる取り組みを行っているかどうかの問いに対して、「行っている」と回答した企業は14.7%だった(ただ、昨年度の13.7%より1.0ポイント増加している)。また、「行いたいができていない」は46.9%、「行っていない」は31.4%だった

タナベコンサルティングの古田勝久氏は「経営トップから『人的資本経営』の方針が出ているにもかかわらず、現場で人材のマネジメントを担う管理職は、従来と変わらない職場運営を続けています。つまり、人的資本経営が現場のマネジメントに落とし込まれていない。トップと現場の間に大きな溝が生まれており、この溝を埋めることが、今後の大きな課題だと考えています」と指摘する。古田氏には、動的な人材ポートフォリオの構築や「人事中期計画」の策定など、これからの時代、人事が担うべき役割や機能について話を聞いた(➡こちらの記事)。

また、立命館大学教授の髙橋潔氏には、日本企業が直面する人的資本経営の課題や企業における人材の採用・評価・育成の在り方は、今後どのように変わるのかなどについて話を聞いた(➡こちらの記事)。

優れた人事制度でも、現場で機能しなければ形骸化し、実効性を失う。人的資本経営も現場で実践され、定着してこそ意味を持つ。「運用」の視点から人事制度を研究する関西学院大学准教授の森谷周一氏は、人事部と現場マネージャーの協働関係が、制度を機能させる鍵になると説く(➡こちらの記事)。

創造的で生産性の高い
オフィス環境を整備する

戦略人事の実現には、働きやすい職場環境の整備も重要な視点だ。創造的で生産性の高いオフィス環境について東京大学大学院准教授の稲水伸行氏に話を聞いた(➡こちらの記事)。

企業は合理的な選択をするため、個人でなく組織による意思決定がなされるが、実際は不合理なものになることが多い。そのような意思決定はなぜ起きるのか。「ゴミ箱モデル」を用いたシミュレーションで、その解明に取り組む鹿児島大学助教の安藤良祐氏に話を聞いた(➡こちらの記事)。

変革の時代に戦略人事は組織全体の生産性向上とイノベーション創出につながる企業競争力の源泉そのものとなる。本特集が戦略人事に取り組む上での一助となれば幸いだ。

参考資料
『日本の人事部 人事白書 2025』
https://jinjibu.jp/article/detl/hakusho/3899/