スポーツ庁、「スポーツコンプレックス」構想を提示 スタジアムを核に地域のにぎわい創出へ
スポーツ庁は9月3日、サッカースタジアム「エディオンピースウイング広島」(広島市、2024年開業のサンフレッチェ広島の本拠地)で、「スポーツコンプレックスの推進に関するシンポジウム」を開催した。「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」選定拠点の表彰式に続く催しで、会場とオンラインで300名を超える参加者を集めた。同庁が経済産業省と共同で進めてきた「スタジアム・アリーナ改革」を発展させた新たな概念「スポーツコンプレックス」を提示し、基調講演とパネルディスカッションを通じて、スポーツ施設を核とした地域づくりの具体像を共有した。
河合純一長官は、2016年11月の「スタジアム・アリーナ改革指針」以降、コストセンターと見なされてきた施設に民間活力を導入し、収益を生むプロフィットセンターへ転換する取り組みを進めてきたと説明。多様な世代が集う交流拠点として2025年までに20拠点の実現を目標に掲げ、昨年度までに21拠点を選定したとし、約10年での一区切りを迎えたとした。今後はこれを発展させ、核となる施設の潜在的価値を最大化し、周辺のインフラや公園、商業施設などと「面」で連携させるスポーツコンプレックスへ進める方針を示した。施設は集客型と地域拠点型に大別され、地域拠点型では観戦収入に依存せず多様な形で収益を生む点をもつことで、経済的価値と社会的価値を創出し、まちづくりと地域のにぎわいづくりの好循環につなげる。新たな表彰制度の創設も検討するという。
基調講演には、スポーツジャーナリストで元プロサッカー選手の中西哲生氏(川崎フロンターレのクラブ特命大使)が登壇した。無名だった川崎フロンターレが、1997年の結成当時から選手自らのビラ配りや、クリスマスに小児病棟を訪ねる「ブルーサンタ」の活動などを重ね、約30年かけて地域に根づいた歩みを紹介。「知ってもらいたい」という動機で始めた活動が、結果的にサッカーと直接関わりのないところで「誰かのことを思う」ことの積み重ねとなり、応援者を増やしたと述べた。「一人でも始めることが大切」「失敗を恐れず、目の前の人と誠実に関わる」ことの重要性を説き、勝敗の波は受け入れつつ、負けても観客の心を打つプレーや生き様が次の来場につながるとした。自身が携わった川崎市・等々力緑地の再編では、クラブのメリットではなく「川崎市民が喜ぶもの」にする視点を徹底したと紹介。スタジアムの屋根も、観客が濡れずに済むだけでなく、災害時に市民の役に立つよう備蓄機能を備えるといった発想が必要だと語った。
パネルディスカッションは「地域と共創する持続可能なスポーツコンプレックス」をテーマに、モデレーターを務めた信江雅美氏(広島経済大学客員教授)の進行で行われた。信江氏はまず、スタジアム・アリーナの価値は、施設の運営主体が受益する「財務価値」と、地域社会全体が受益する「社会価値」の総和であり、両者に通底するのが「にぎわい」だと整理。試合のない日にも人が集まる交流拠点にできれば、二つの価値を同時に大きくできるとし、「スポーツの熱狂と都市の日常をどう結びつけるか」が問われると述べた。
まちづくりの視点からは、広島の都心部・紙屋町・八丁堀(通称カミハチ)でエリアマネジメントを担う「エリアプラットフォーム・カミハチキテル」代表の若狭利康氏が登壇。マツダスタジアムとエディオンピースウイング広島が楕円形の都心の両端に位置し、それらを起点にエリア全体が活性化する「まちの活力の両輪」になっていると述べた。2017年から車中心の社会を人中心の都市へ転換することを掲げ、メインストリートの相生通りについて、北側半分を公園のような空間にし、南側を公共交通機関のみが通る「トランジットパーク」とする構想を紹介。人が歩き、時間を過ごす通りへと変え、広島を「選ばれる都市」にするため、2020年から社会実験を重ねてきたとした。市内三つのプロクラブの試合日に街歩きを促すスタンプラリーや清掃活動など、スポーツ組織と連携した取り組みも進めている。助言として、行政や一部の熱狂的なファンに頼るのではなく、市民と共につくる意識改革が重要だと述べた。
メディアの視点からは、創業134年の地元紙・中国新聞社の小宮潤氏(地域ビジネス局ソリューション推進室長)が参加した。広島県の転出超過数が5年連続で全国最多という状況を背景に、人や資金の循環が滞れば本業にも影響するとして、数年前からまちづくりに参画していると説明。新聞・メディアの発信力で、施設が生む賑わいや交流、子どもの教育への貢献を広く伝え、来訪の輪を広げたいとした。同社が事務局を担う広島市中央公園エリアマネジメント協議会の課題として、イベントのない日の賑わいづくりや、42.8ヘクタールに及ぶ園内の回遊性向上、防災機能の周知を挙げた。エディオンピースウイング広島は帰宅困難者約3000人を受け入れる一時滞在施設で、指定緊急避難所でもあるという。
交通の視点からは、路面電車やバスを運行する広島電鉄の諏訪正浩氏が登壇。人口減少とコロナ禍を機にオンライン化が進み、移動需要が縮小する中、地域公共交通の役割は「人や物を運ぶ」ことから「移動のきっかけと賑わいを創出する」ことへ変化していると述べた。広島県・市のビジョンでもスポーツは広島が誇る強いコンテンツと位置づけられ、プロスポーツファンの熱意も高いと指摘。①安心・安全なスタジアムへの移動の実現、②スポーツを生かした地域活性化——の二つを軸に、広島とスポーツのアイデンティティを打ち出すラッピング電車や、チケットが当たるキャンペーン、パブリックビューイングなどで来訪のきっかけをつくっていると紹介。試合後に来場者が一斉に帰宅し街に滞留しにくい課題に対しては、地元と県外双方のニーズに応えるイベントで立ち寄りと回遊を促す取り組みを挙げた。
プロスポーツの視点からは、サンフレッチェ広島の森﨑和幸氏(育成担当兼育成スカウト)が、大都市とは異なる中山間地域の事例を報告した。同クラブが「マザータウン」と呼び、練習拠点や選手寮を置く安芸高田市(広島県北部、人口約2万3000人。毛利元就ゆかりの地)を舞台に、地元の子ども向けのサッカーアカデミーや、県内外から多いとき約1200人が集う「吉田ふれあいサッカーフェスティバル」など、長年培ってきた地域交流を紹介。2027年2月には、中学生年代も加えたJリーグ初の中高一貫の選手寮(最終的に90人規模)が完成予定で、全国からの有望選手の獲得と一貫育成に加え、生徒数の増加や関係人口の拡大、地域のボランティアや飲食の担い手確保など、人口減少地域への波及効果に期待を示した。
信江氏は総括で、スポーツコンプレックスの本質は施設を集積させることではなく、地域のビジョンや人・組織・活動を結び、価値を循環させる仕組みをつくることにあると指摘。公共が関わる施設は周辺の商業者と競合するのではなく、「ジグソーパズルの最後のピース」のように都市に不足する機能を補い、まち全体の回遊や滞在を増やす存在であるべきだとした。地域社会にどのような価値を返せるかを考えることが、すなわち「持続可能性の追求」であり。それぞれの地域の文脈に応じて社会課題の解決につなげることが重要だと締めくくった。閉会あいさつでスポーツ庁の担当者は、スポーツコンプレックスを対象とした新たな表彰制度を近く公表する予定だと説明した。