特別支援教育における子どもたちのICT活用を研究

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成する社会構想大学院大学の実務教育研究科。本連載では、院生がどんな学びを得て、現場に実装したかを紹介する。

特別支援教育における
ICT活用の在り方を模索

佐藤 里美

佐藤 里美

ソフトバンク株式会社勤務。
ソフトバンク株式会社・東京大学先端科学技術研究センターが主宰する障害のある子どもの困りをテクノロジーで解消する 「魔法のプロジェクト」ディレクター。学習上の困りをテクノロジーで解消する「SNラボ」主宰。スペシャル・ニーズ・サポート株式会社取締役。著書に『特別支援教育ですぐに役立つ! ICT活用法』学研プラス他。2021年4月に社会構想大学院大学に入学。

私の研究テーマは「『特別支援教育におけるICT活用』―『魔法のプロジェクト』の実践研究から―」である。

私は長く教育へのICT導入に携わってきた。課題を一つひとつ攻略し、学校での日常の学びにタブレット端末が定着していく過程の中で、子どもたちの苦手をテクノロジーによって補う効果を強く実感してきた。その実感は、私が携わってきた東京大学先端科学技術研究センターとソフトバンクによる実証研究「魔法のプロジェクト」に繋がっている。

プロジェクトを開始した2011年当時、タブレット端末は高価で学校では希少な存在であり、活用事例は殆どなかったが、ICTは教育に資するという認知は広まり、2020年度にはGIGAスクール構想により一人一台の環境整備が実現した。プロジェクトは今年で12年目となり、タブレット端末を活用した特別支援教育の事例を創出し公開を続けている。

しかし、残念ながらICTを学びに活用する上での課題が全て解消したとは言いがたいと考えている。今まで行ってきたプロジェクトの実践研究を総括し、子どもたちが社会に出る未来の社会について予測した上で、今後、プロジェクトが目指していくべき方向性を見いだすことを目的として社会構想大学院大学実務教育研究科に入学した。

※携帯情報端末の教育現場での活用の有効性を検証し、より具体的な活用事例を公開していくことで、学ぶ上での困りを持つ子どもの学習や社会参加の機会を増やすことを目指している。プロジェクトは東京大学先端科学技術研究センターとソフトバンク株式会社による。

学習に困難のある子どもたちの
ICT活用を支援する塾を主催

特別支援教育の子どもたちが、ICTを活用し、自分達の力を拡張しようとする際、様々なコンフリクトが起こる。例えば、学習障害は、書くことや読むことの速度や正確性に課題が発生する。知的な能力は「健常」であっても、手書きで文字を書くことや印刷された文字を読むことに困難が生じる。

その場合、日常の学習において手書きだけではなくタイピングによる代替手段や、読み上げによる情報取得を使用することが効果的だが、試験や受験においてタイピングでの回答や読み上げが認められることは容易ではない。試験の公平性が保てるのかについて文科省の指針が明確に示されておらず、学校現場での判断が難しいことにその一因がある。法律では障害者差別解消法により合理的配慮を求めることができるとなっているが、教科ごとに現場で判断をすることは難易度が高いと想定できる。

こうした現状に対応すべく大学院で得た知見を基に学習障害のある子どもたちが必要なICTスキルを身につけ、学びに活かすサポートを行う塾(SNラボ)を主宰している。また、社会参加においても課題がある。現行の特別支援教育を受けた子どもたちの社会参加の想定は、現代社会が求める人材とは大きな解離がある。

しかし、少子高齢化が加速する日本において、特別支援教育の子どもたちは求められる人材となる可能性を秘めている。この課題への解決策の一助として、先のSNラボを運営するスペシャル・ニーズ・サポート社では、デジタル人材を育成するカレッジ(放課後デイサービス)を開設している。このため、大学院でも、社会にでた特別支援教育の子どもたちを追跡調査し、現状と課題を分析している。

図 SNラボの思い

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ICTを活用して
自分の力を拡張する

現代社会において、スマートフォン等ICT機器は身近な道具のひとつで、コミュニケーションや決済等、生活に必要な様々な事が可能となった。逆に言えばスマートフォンは無くなると非常に困る道具の筆頭にあるともいえる。スマートフォン等ICTはもはや自身の力の一部といえる存在になったとも考えられる。

大人は様々なことにICTを活用し、自身の力の一部としている。しかし子どもたちは今も印刷された紙の教科書を読み、手書きでノートをとるアナログな学び方が主流だ。もちろん、アナログな方法で問題なく学べる子どもたちが大半ではある。

一方で、特別支援教育の対象である子どもたちは、書くことが苦手、読むのが遅い、ページをめくれない等、アナログの手段では困難が生じている。特別支援の子どもたちの困難を補助し、自分の力を拡張することがICTでは可能であり有効であることを、プロジェクトの実践事例を分析することで示したいと考えている。

参考

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