グローバル人材におけるキャリア発達プロセスを研究

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成する社会構想大学院大学の実務教育研究科。本連載では、院生がどんな学びを得て、現場に実装したかを紹介する。

MBA取得後に目指した
経験と理論の融合

五十嵐 篤

五十嵐 篤

社会構想大学院大学 実務教育研究科 第1期生
欧州企業アンドリッツ・ファブリック&ロール株式会社(日本法人)代表取締役社長。日本企業5年(東京)、東南アジア企業(マレーシア現地)12年、米国企業5年(東京)を経て、現職。日アジア米欧資本の各企業で、事業運営・組織/人的マネジメントの実務を積む 。早稲田大学卒、英Strathclyde Business School(MBA)。2021年4月に社会構想大学院大学に入学。グローバル人材のキャリア発達プロセスについて研究中。

入学を考え始めたのは、コロナ禍の2020年秋。働き方や社会の大きな変容を仕事や日々の生活で感じ、人生100年時代と言われる中で、これから何をしていこうかと漠然と思い、自分の経験をどう活かせるかと考え始めた頃だった。海外でMBAを取得していたが、既に10年近く昔のことで、文字通り既に陳腐化していると感じていた。

自分の経験を誰かに伝えようにも、体験談を語るだけでは、多くの人が活かせる形にはならないだろう。そんな時に、この社会構想大学院大学実務教育研究科の開設を知り「自分の経験は、様々な理論と照らし合わせると、どのような価値があるのか。そして、その理論を実践の場で利活用するために重要なことは何か」を学び、理解し、身につけたいと考えた。これが、本研究科に入学しようと思ったきっかけであり、目的である。

私の研究テーマは「グローバル人材へのキャリア発達プロセス」である。新型コロナウイルスによる社会経済の大きな変化、2022年2月から激変したウクライナ情勢は、グローバル化の影響を誰もが受け、私たちが世界と繋がっていることを示している。今後も世界で起きる事象の影響から切り離すことのできない日本の社会経済において、言語・文化的背景の異なる他者と働くことができる人材を増やすことは、より重要になってきている。

私自身は、高校卒業まで、新潟で育った。その頃は外国人とほぼ関わることもなく、まして外国人と話した記憶もない。そんな自分が、都内の大学を卒業後、日本企業・東南アジア資本企業・米国資本企業を経て、現在、欧州資本の日本法人の代表取締役を担っている。組織のまとめ役として、日々ビジネスの実務で社員の成長に関わっているのである。

また、社員の成長に関わるだけでなく、将来は実務家教員として大学教育や高校などのキャリア教育に関わることを考えている。その際に、自分の体験談だけに頼らず、なにを伝えられるのかを考えた結果、グローバル人材へのキャリア発達プロセスという研究テーマに辿り着いた。

研究対象者は、子どものころには家庭の内外で多文化・多言語環境になかったが、様々なキャリア径路を経て、異なる言語・異文化背景の人たちと働いてきた人たちとし、文化心理学の研究手法であるTEM(複線径路等至性モデリング)を用いて研究をしている。研究対象者がキャリア発達の過程で、なにを経験し、葛藤し、迷い悩み、意思決定し、行動したのか、また、意思決定や行動に影響を与えた要因には何があったかについて、分析・考察を行なっている。

学問的アプローチは
実務にも貢献

主観を一旦留保して、ものごとを捉えられるようになることが、学問を学ぶ意味ではないだろうか。実務においては、自分自身の体験、これまでに染まってしまった考え方、そして、時間的制約がある中で意思決定をすばやく行う必要がどうしてもある。そのような日々の中で、ものごとを俯瞰して客観的に考えることは容易ではない。

俯瞰して客観的に考えるアプローチの1つが、様々な分野、研究を学ぶことであり、それを繰り返すことで、「何が客観的で、どの部分が主観的なのか」「自分の思考において、客観的な事象として捉えているのか、主観が大きく作用しているのか」が分かってくるように感じている。

知識を得ることは視野を広げると言われるが、情報過多な現代社会においては知識そのものを得る手段は余るほどある。大学院で学ぶ中で、単に知識を得ることだけでなく、俯瞰して考えるために様々な分野や研究を知ろうと思えるようになったことは、私にはとても大きな学びである。「自分の判断は主観に頼りすぎていないか」「判断するために客観的な根拠やそれに基づく思考は足りているか」と自ら問いかけることは、実務での判断の質に貢献している。

専門家である仲間と
業界・職種を超えて高めあう

実務教育研究科で学ぶ学生は、各実務領域における専門家である。業界・職種が異なる人と共に学ぶことには、自分とは異なる意見を知るメリットがあるとよく言われているし、私もそう思う。だが、それだけではない。異業種・異職種の話は、ともすると自分たちとは異質のものとして扱いがちだが、本大学院では、専門家である院生が、その実践知を言語化・概念化し、普遍的に捉えようとしている。

そのようなスタンスで講義や演習を通じて学ぶ院生同士の対話からは、業界・職種を超えた共通性や未来展望について考えたり、気づいたりすることができ、実務に大変役立っている。

この大学院で学ぶ大きな価値があると私が感じているのは、ここで学ぶ人たちが、各専門領域に詳しいだけでなく、その実践知を形式知化して人に伝えたり、教えたりすることを前提として研究する人たちだからだと考えている。

オープンキャンパス