インストラクショナル・デザインを学び日々の様々な業務に応用

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成する社会構想大学院大学の実務教育研究科。本連載では、院生がどんな学びを得て、現場に実装したかを紹介する。

戦略的学習力との出会い

小泉 雄

小泉 雄

ライトヒアライトナウ合同会社
総合人材サービス会社やIT企業でコンサルタントや企画職のマネジメントを経て、2016年にビジネス・プロセス・アウトソーシングやプロジェクト支援を行うコンサルティング会社を起業。2021年4月に社会構想大学院大学に入学。「いまここをつくりだす」技法を開発するというテーマ設定で「実践の理論」について研究中。

リンダ・グラットン教授の『ライフ・シフト』がビジネス誌等で大きく取り上げられていたこともあり、人生100年時代やリカレント教育といった考えが世の中に浸透してきている。そのような中、私自身も、今後10~20年先を見据えたとき継続的に何に取り組んでいくべきかということについてぼんやりとした課題感を持っていた。

会社員を卒業し、起業を経て、今後の人生や仕事のテーマを広く探索する中、何かの記事で2030年に最も必要とされるスキルが「戦略的学習力(Learning Strategies)」だということを知った。自分自身のできること、社会に必要とされること、自分自身が今後取り組みたいことの重なる部分を検討する中で「戦略的学習力」というキーワードに集約されるスキルとは具体的にはどのようなスキルで、どうすれば身に付けられるのだろうかということに強い関心を持ちはじめた。

そのような意識を持って、セミナー参加や資格取得等を通じた学び直しを続ける中で、本学の実務教育研究科の設立記事に出会った。入学を決めたのは、専門職大学院という場でより中身の濃い研究やスキル開発ができるのではないかと考えたからだった。

※「戦略的学習力」:新しいことを学んだり教えたりするときに、状況に応じて適切なトレーニング/指導方法や手順を選択して使用すること。2017年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授が発表した「The Future Skills(未来のスキル)」という論文で取り上げられたもの。

研究テーマは「いまここを
つくりだす」技法の開発

現在、2年間の学習の集大成として「いまここをつくりだす」技法を開発するというテーマで専門職学位論文の執筆に取り組んでいる。抽象的なテーマではあるが、企業などに代表される社会集団が望ましい将来像に向かって進歩していくにあたり、その場、その時の状況、つまり〈いまここ〉の適切な解釈や意味づけを通じて、より有効・有意義な「実践」をつくりだすための過程を明らかにしたいと考えている。その過程の分析を通じ、集団のメンバーが必要とすることを、必要なときに、より進歩的に取り組み、望ましい成果をつくりあげるための具体的なアプローチについて探究している。

これまでに選択してきた授業では、論文の執筆に必要となる社会変化を理論的に踏み込んで考えるための知識習得に主眼を置き、主に社会構造や社会システムについて学習してきた。それらの知識習得と並行して「実践の理論」や「省察的実践」、「学習する組織」など、学習した理論を実務の中に適用・実践していくための方法論も学んでいる。

メーガーの3つの質問と
実務への応用

起業した会社では、ビジネス・プロセス・アウトソーシングやプロジェクト支援を行うコンサルティング事業を展開している。大学院での授業や演習を通じ、日々の業務に特に役に立っているのはインストラクショナル・デザイン(以下、「ID」)の知識だ。IDとは、教育研修の効果・効率・魅力を高めるために学習支援環境、例えばカリキュラムや教授方法などをデザインすることである。

IDの授業では多くのフレームワークやモデルの中からよく利用されているモデルについての解説を受け、その考え方を活用する形で授業設計の演習が行われた。これが筆者には大変効果的で、授業での演習や課題を通じてIDの使い方の要領を学ぶことができた。IDの授業の受講後、主要なIDのモデルについての理解と、実務への適用の仕方について理解が深まったことにより、研修設計だけでなく、日々の業務の様々な場面でIDの考え方を応用することができるようになってきた。

例えば、筆者が意識してよく使うものに「メーガーの3つの質問」というIDのツールがある。これは授業設計の考え方を順序立てる学習目標、評価方法、教授方法について整理する枠組みで、以下の3つのシンプルな問いから構成されている。

1)学習目標:どこへ行くのか?(Where am I going?)
2)評価方法:たどり着いたかをどうやって知るのか?(How do I know where I get there?)
3)教授方法:どうやってそこへ行くのか?(How do I get here?)

これらの問いは授業設計をシステマティックに行うのに有効な指針を与えてくれるが、それにとどまらず、日々のマネジメントにも十分応用することができる質問だと考えている。これら3つの問いは、①ゴールを明確にする、②評価指標項目と指標値、状態を定義する、③ゴールに至るアプローチをデザインする、という成果に直結する活動を設計するためのシンプルな論点整理の道具としても活用ができると考えられる。

IDは現場ですぐに実装できる具体的な一例だが、他の授業の学習内容もさまざまな場面で活用している。これまで曖昧にしてきたことや、無意識に見過していた事象について、その学術的な「定義」を理解したことによって、日々の業務等で、これまで以上に的確な思考や対話ができるようになってきたと感じている。

「マネジメントの学び」の新時代