越境と対話による自己変革力の学習モデルをテーマに研究

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成する社会構想大学院大学の実務教育研究科。 本連載では、院生がどんな学びを得て、現場に実装したかを紹介する。

事業構想大で見つけた
探求テーマ

成瀬 岳人

成瀬 岳人

パーソルプロセス&テクノロジー株式会社
パーソルグループに入社後、ITエンジニア派遣事業、業務コンサルティング事業に従事。企業のデジタル人材育成支援サービス『WORK SWITCH+DIGITAL』、キャリア自律支援サービス『プロテア』を立ち上げ、責任者を務める。2021年4月に社会構想大学院大学 実務教育研究科に入学。「自己変革力の学習モデル」について研究中。

私は2020年度に先端教育機構のもう一つの専門職大学院である事業構想大学院大学を修了した。事業構想大で学ぶ中で「実務家教員」の存在を知り、修了時には自分自身の本当にやりたいことがさらに明確となり、実務家教員という新たなキャリア目標も見つけることができた。

その後、コロナ禍になり、新たな学びを渇望している頃、本学の実務教育研究科の新設を知った。私自身は40代前半で、経験的に「まだ早いかな」という気持ちもあったものの、意欲と時間がある内にチャレンジすべき、という気持ちが勝り、実務教育研究科に入学した。入学の動機は、「実務家教員になりたい」というキャリア志向だけでなく、事業構想大で見つけた自分自身の探求テーマである「自己変革力」をより専門的に研究したい、という目的もあった。

自己変革力を研究
カギは「越境経験」

自身の属する組織とは異なる環境に身を置き、多くの葛藤と対話を重ねる「越境体験」が「自己変革力」を養うのではないか。(画像はイメージ)

自身の属する組織とは異なる環境に身を置き、多くの葛藤と対話を重ねる「越境体験」が「自己変革力」を養うのではないか。(画像はイメージ)

photo by metamorworks / Adobe Stock

私の研究テーマは「越境と対話による自己変革力の学習モデル」。私の実務経験は、組織・人材開発のコンサルタントとして複数企業・団体の働き方改革や新規事業開発、昨今ではDX(デジタルトランスフォーメーション)領域の人材育成支援だ。社会環境の変化が加速するなか、多くの企業、多くの個人が変革を求められている。様々な組織の制度や仕組みの変革を支援していく中で、気づいたことがある。

それは、システム(制度や仕組み)が変わっても、そこで働く一人ひとりが変わらなければ、本当の意味での変革にはならない、ということだ。「変わらなければならない」「変わりたい」と考える人は多くいるが、一人では変われない。変わるための術を持たない。そんな景色を多く見てきた。

そのため、自らを変革させるための力である「自己変革力」は、どうすれば得ることができるのか。「自己変革力」は、学び、高める能力にできないのか。そんな想いがモヤモヤと頭の中に長い間あった。かつて、私自身も自己変革力がそこまで高くはなかった。しかし、そんな私が変革するきっかけになったのが実務上での「越境経験」だった。

自身の属する組織とは異なる環境に身を置き、そこで多くの葛藤と対話を重ねる中で、自らを変えていく力が養われたという経験があった。この実務での経験は、他の人にも適用できるのではないか。そう考えている時に、本学で掲げている「実践の理論」を知り、自身の実務経験から生み出した「自己変革力の学習モデル」を多くの人に広めることができる形にしたいと考え、研究に取り組んでいる。

院生同士の学び合いが
自身を変革する学びに

実務教育研究科の様々な授業は、実務で直接的に役立っていることが多々ある。私自身、現在は企業向けに人材育成を提供するサービスの責任者なので、授業で学んだことや、刺激を受けて自ら学びを深めたことを、自社のサービス設計で活用したり、自組織の社員教育に活かしている。例えば、教育活動の効果等を高める手法を学ぶインストラクショナル・デザイン(ID)の授業では、改めてIDを学んだことで、研修設計におけるポイントを見直したり、社員に改めてIDを説明することで、自組織の研修設計の専門性向上に取り組んでいる。

また、ナレッジ・マネジメントの授業では、実務上の課題をテーマに、職場での暗黙知を形式知にするアウトプット重視の講義となっているため、実務上で暗黙知が共有化されていない課題に取り組むことになり、実務における課題解決につながっている。

さらに、研究に取り組むための演習も含めて、他業界の多様なバックグラウンドを持つ院生同士が、共通の知識やテーマに取り組み、互いの実務経験を基にアウトプットし合う機会が多くあり、同期の院生同士で「学び合う」状況が日々生まれている。

例えば、「営業」を研究テーマに取り組んでいる院生との学び合いでは、自身の実務における営業に対する考え方に刺激を受けて、実務での思考や行動を変える、といったことも起きている。また、授業や演習全般を通じて、本や論文を読む習慣が身についたことも大きい。これまで、経験と勘で培ってきたことに加え、理論や知識をどう融合し、新たな自分なりの知識や手法をどう生み出していくのか、そのように考えられるように自分自身を変革できたことが、本学で得た最大の学びだと思っている。

社会構想大学院大学