グローバルリーダーとミドルシニア、2つのテーマで研究と実践を往還

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成する社会構想大学院大学の実務教育研究科。本連載では、院生がどんな学びを得て、現場に実装したかを紹介する。

間接経験による学習を通じた
グローバルリーダー育成

小枝 英孝

小枝 英孝

大学卒業後、電機メーカで設計・開発、海外営業・マーケティング、事業開発、経営企画・管理などを経て、企業内大学にて人材育成を担当。現在、企業内大学副学長。2度の海外駐在を含む25年以上のグローバルでの業務経験を生かして、社内グローバル人材育成プログラムの企画・設計・実行・講師を行っている。2022年3月に社会構想大学院大学実務教育研究科修了(1期修了生)。学士(工学)、MBA、実務教育学修士(専門職)。

私は2022年3月に社会構想大学院大学の実務教育研究科を修了した。私が本校で学び始めた2020年4月はコロナ禍がはじまったばかりの頃で、会社も原則在宅勤務体制となった時期でもあった。入学式はなく、講義、ゼミおよび発表会も全てリモートでの参加となった。学生として実際に高田馬場の校舎に行ったのは、結局入学前の面接と修了式の2回となったが、リモートでの参加で無事修了できたのは、先生方やスタッフ、同期やゼミの仲間の皆さんのおかげだ。

入学のきっかけは、勤務していた会社で人材育成部門への異動に関する内示を受けたことであった。それまで会社組織において、日々の業務を通じて、部下の育成や教育・訓練の講師は行ってきた。だが、全社的な人材育成業務というのは社会人人生のなかで初めての経験であった。そこで、実務と並行して人材育成について体系的かつ理論的に学んでみたいという思いがあり、入学を決めた。

異動の際に聞いた私の主なミッションは、「グローバル人材の育成」だった。当時、コロナ禍で働き方や学び方がオンラインにシフトしていくなかで、海外出張や新たな海外駐在という直接経験ができない状態になったことから、1年目は、「間接経験による学習を通じたグローバルリーダー育成について~これからの育成のあり方の考察~」をテーマに論文の執筆を行った。

言うまでもなく、人間の学びや成長における直接経験の意義は大きい。グローバルリーダー育成という視点では、直接経験が大きな源泉であることは先行研究でも指摘されているところである。しかし、海外出張や新たな海外駐在といった直接経験ができる人材は限られていること、withコロナ・afterコロナの時代における学びや成長という視点から考えると、日常における小さな経験や他者からの間接経験(含む研修)は軽視できない。そこで、研究においては、グローバルリーダー育成モデルをその必要な素養とともに定義し、良質な間接経験や他者との協働学習を通じて、省察を含む経験学習サイクルを如何に回していくかが重要との結論に至った。

2年目の研究テーマは
ミドルシニアの学びと成長実感

2年目には研究テーマを変え、「おとな(ミドルシニア)の学びを通じた成長実感について~知識基盤社会におけるミドルシニアの成長の在り方の考察~」とした。近年、Society5.0、人生100年時代、労働人口の減少、 70歳雇用延長(努力義務)や人的資本経営が言われるなか、このコロナ禍になって所謂「働かないおじさん問題」が紙面やネットに出るようになった。また、実務においても社員の成長実感が会社目標の1つとなり、対外的にも掲げられた。

すでに行われていた社内調査結果を分析したところ、成長実感と年齢には負の相関があり、45歳前後から(ミドルシニアと定義)目標となる数値を下回る結果となっていることがわかった。また、この傾向は、同調査開始以降、3回連続で同様の結果であることも明らかになった。そこで、研究と実務のために2021年に「成長と学び」に関する社内アンケートおよびインタビューを実施し、仕事を通じた学びと成長実感との関係を調査し、理論的な分析を試みた。専門職学位論文では、ミドルシニアの学びと成長実感には学習戦略が必要であり、自分の意識付け、客観視するためのメタ認知、それを支える周囲の環境や伴走者との接点、そして小さな成功体験が重要な役割を果たすと結論付け、その仕組みについて提案した。

常に現場(実務)での実装や
理論への反映の往還を意識

以上のような研究成果をもとに、実務への展開も行ってきた。1年目の研究成果をもとに、グローバル人材育成に必要な素養を整理し、それをもとに企画した教育体系を作成した。その一部は、研修プログラムとして、2021年度から実装されている。また、2年目の成果であるミドルシニアの学びと成長実感については、論文の中で提案をした仕組みを社内でトライアルとして実施する方向で進めている。

この2年を通じて、意識したのはまさに「連載タイトル」にある「実務教育研究科の学びと(現場での)実装」の往還である。上述研究テーマ以外にも講義を通じて学んだことを、教育体系や研修資料、運営にも反映し、それぞれを改良してきた。例えば、研修のシラバスやルーブリックの作成などは、現場でも直接活かすことができるものであった。私自身、現場(実務)での実装や理論への反映の往還を常に意識してきた。学術的な知見を現場で試してみる、現場での学びや気づきを学術的な理論に戻してみる、この往還を繰り返すことで、両者がより近づき、ともに発展していく。実践に紐づいた学術的知見および学術的知見に紐づいた実践、それらを通じて学ぶことで成長実感につながり、世界中のすべてのひとが学べる「ラーニングソサエティ」が作られていく。ひいては世界の平和につながると考える。

ウェルビーイングに向かう学びのかたちを探る~レジャーから生まれる学びを支援する社会教育士の可能性~