全国に無料相談窓口を設置 中企業庁に聞く事業承継のポイント
多くの経営者にとって事業承継は複数回経験するものではなく、一度きりであることが少なくない。未経験のことであるがゆえ、専門的な知識が不足し、準備が間に合わず、事業承継に失敗するというケースもある。中小企業庁はスムーズな承継を実現するために、さまざまな支援策を実施している。
全国47都道府県に設置する
無料の相談窓口
長縄 遼太郎 中小企業庁 事業環境部 財務課
中小企業庁は国内における企業の事業承継に対して、さまざまな支援を実施している。その背景にある問題は、経営者年齢の高齢化と蔓延する後継者不足だ。事業承継が必要となる70代以上の経営者は依然として多く、後継者不足により廃業する中小企業が存在しているという。
支援の内容は多岐にわたる。承継する際に納税猶予の措置を設ける「事業承継税制」などの税制支援や補助金、関連するルールや方法をわかりやすくまとめた「事業承継ガイドライン」、後継者育成の研修などがあり、さまざまな視点から課題解決に取り組んでいる。
その中の1つに、全国47都道府県に設置する公的相談窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」がある。2011年度から第三者承継に関する専用窓口として設置を開始し、2017年度から親族内承継に関する「事業承継ネットワーク」を別途設置していたが、2021年度に統合して、現在の形になっている。運営は、同庁から各地の商工会議所などが委託を受け、実施している。
「中小企業庁で1件ごとの相談を受けることはできないため、事業承継に関する具体的な困りごとがある場合はセンターで相談を受け付けています」と話すのは、同庁財務課の長縄遼太郎氏。
事業承継・引継ぎ支援センターは無料で相談に対応している。相談後は要望に合わせて、事業承継を実施するまでワンストップでの支援も可能で、その過程で弁護士など専門家が介入する場合は別途料金の負担が必要になるという仕組みだ。
「事業承継に関して悩みや不明点があれば何でも相談していただきたいです。親族内承継であれば、株式や事業用資産の集約、取引先や金融機関との調整、事業承継税制の活用、後継者育成の計画等を可視化し、円滑な事業承継の実施を支援します。M&Aであれば、実施の流れや注意点などをお伝えした後、センターで譲受希望の企業とマッチングすることや、支援する専門機関におつなぎすることも可能です」
増加する相談件数
さらなる支援力向上へ
事業承継・引継ぎ支援センターへの相談件数および成約件数は毎年、右肩上がりで増加している。相談に来るタイミングはケースによりさまざまだが、「少し若めの方でも来てくださる方が増えたという話をセンターからは聞いています」と長縄氏。ただ、シニア世代や、病気などの突発的な理由により来訪するケースも依然として少なくないという。事業承継には計画的な準備が欠かせず、その有無は承継後の経営にも影響する。
「まずは事業承継を自分事として捉えてもらうことが、私達にとっての課題です。『自分の代で会社を畳む』という経営者の方もいますが、単に後継者が不在だからという理由で諦めてしまうことがないように、いかに気づきの機会を提供するかが課題になると考えています」
事業承継に関する支援制度の整備とともに認知の拡大は必須だ。
「各地の商工団体や金融機関、自治体と連携して、事業承継の相談会やセミナーを開催し、現時点では関心がない経営者に対しても啓発を行い、承継を意識してもらうように働きかける掘り起こしをセンターでは実施しています。各団体の方には経営者の方と接するなかで、事業承継の課題があると感じたら、おつなぎいただくなど、連携が重要です。実際に、連携先の声掛けで来訪する方も多数います」
認知拡大と同時に支援力の向上を図る取り組みも行っている。中小企業基盤整備機構では優れた事業承継支援の取り組みを実施した事業承継・引継ぎ支援センターを表彰する制度を今年3月から開始している。同機構は、全国のセンターに対する助言や情報提供、研修・人材育成、データベースシステムの運営、広報活動等を行う中小企業事業承継・引継ぎ支援全国本部を担い、多面的なサポートを実施している。
「表彰先の投票は中小企業庁や地方経済産業局の担当者も共に行いました。事業承継は案件毎の違いが大きいため、良い支援事例を全国のセンターでノウハウや知見を共有し、センター全体のレベルアップを図っています」
近年増加しているのは
第三者承継、M&A
相談内容に関しては時代による変化がある。近年、増加傾向にあるのは後継者不足を背景とした第三者承継だ。「2026年版 中小企業白書」によれば、M&Aの件数は2011年以降から右肩上がりの増加傾向にあり、2023年からは急速な増加を見せている(2023年度:4015件、2024年度:4700件、2025年度:5115件)。
「M&Aが一般的な選択肢に入ってきた印象があります。その際のセカンドオピニオンとして相談に来る方も最近は多くなりました」
同庁は、M&Aにおける株式取得価額を損金に算入することが可能になる「中小企業事業再編投資損失準備金」など、M&A関連の制度を整えている。また、中小企業大学校では、座学や演習などによる経営後継者研修を行うなど、後継者育成・支援も行われている。
さまざまなケースがある事業承継だが、長縄氏は事業承継をスムーズに進めるためのポイントについて次のように説明する。
「早めの相談が何よりも大切です。少しでも気になったら躊躇することなく相談に来ていただきたいです。多くの方にとって事業承継は人生で初めてのことであり、わからないことがたくさんあると思います。切羽詰まった段階での相談は親族内もM&Aも適切な対応がどうしても難しくなります。一方で、早めに来ていただけると、後継者への承継に向けて事業内容の見直しや磨き上げ、改善などを行ったうえでバトンを渡すように準備を整えられます。また、M&Aは契約を締結してしまうと後から変更することは難しくなります。事前にセンターへご相談いただければ、第三者的な中立・公正の立場でアドバイスや助言ができ、必要に応じて専門家につなぐ対応も可能です」
