リカレント教育の費用対効果をどう考えるか

社会人や企業がリカレント教育への取り組みを考える際にまず気になるのが費用対効果だといえるだろう。しかしその「効果」はどのように見ればよいのだろうか。今回は、リカレント教育の費用対効果を考える際の視点を多角的に検討する。

川山 竜二

川山 竜二

専攻は知識社会学、高等教育・大学論。筑波大学人文社会科学研究科修了。
筑波大学ティーチング・フェロー(TF)、リサーチ・フェロー(RF)を経て、現職。事業構想大学院大学客員教授、武蔵野大学法学研究科客員教授。専門職大学等創設プロジェクト研究、実務家教員、リカレント教育等に関する公職を歴任。

リカレント教育は、社会に出た後に再度教育を受けることで、現在もっている知識・技能を強化し、今とは異なる分野の知識・技能を習得することを目的としたものといえよう。このプログラムは、現在の経済的状況において、個人のキャリア発展や企業の競争力を高めるために必要不可欠なものであると認識されている。しかし、リカレント教育を受けるためには、費用がかかるため、費用対効果を気にする人は非常に多いといえる。今回は、リカレント教育の費用対効果について、考えてみたい。

リカレント教育の費用対効果に影響を与える主な要因は、コースの種類、期間、場所、資格、および個人の目標やニーズである。教育プログラムが長期間であったり、専門的な資格を取得する必要がある場合、費用は高くなる傾向がある。また、地域によっても費用に差が生じることがある(オンラインなどの教育でも費用に差が生じる)。

さらに、リカレント教育を受ける目的によっても、費用が異なることがある。たとえば、自分のスキルアップや職務遂行能力向上を目的とする場合と、給与アップや転職のために資格取得を目的とする場合では、必要な教育プログラムが異なり、費用対効果も主観的に異なることがある。

投資回収期間

リカレント教育の費用対効果を考える際には、投資回収期間を考慮することが重要である。投資回収期間とは、投資した費用を回収する期間のことで、リカレント教育によって得られるメリットが、費用を回収する期間内に実現できるかどうかを考慮することである。リカレント教育によって得られるメリットには、スキルアップや資格取得による給与アップ、転職の成功などがある(こうした比較は、給与面だけでなく自己実現したという満足度も考慮に入れる必要がある)。

リカレント教育の費用対効果を考えるときには目標やニーズの明確化が重要だ

リカレント教育の費用対効果を考えるときには目標やニーズの明確化が重要だ

photo by guy2men / Adobe Stock

これらのメリットによって得られる収入増加や転職成功によって得られるメリットは、投資回収期間を短縮することができる。一方、リカレント教育によって得られるメリットが投資回収期間内に実現できない場合、費用対効果(に対する満足度)が低下する可能性がある。そのため、リカレント教育を受ける前に、目標やニーズを明確にすることが、費用対効果を最も引き合上げることになる。

また、リカレント教育を受けることによって、将来的なキャリア発展や収入増加につながる可能性がありうるが、これらのメリットは必ずしもすぐに現れるわけではない。リカレント教育によって身につけたスキルや資格を活かすためには、自己アピールやネットワーキング、求人情報の収集などのリカレント教育外での努力が必要となる。そのため、リカレント教育を受ける前に、教育プログラムで培われる能力の他に、自己アピールや就職支援サービスなど、キャリア発展に必要なスキルを習得することがカギとなることもある。

企業の費用対効果

リカレント教育は個人のキャリア発展だけでなく、企業の競争力向上にも寄与する。企業が従業員にリカレント教育の機会を提供することで、従業員のスキルや知識を更新し、生産性向上を見込むことができる。また、従業員による研究開発や新商品開発など、企業のイノベーションに貢献する可能性もある。そのため、企業がリカレント教育に投資することは、長期的な視野で見れば費用対効果が高い。企業がリカレント教育に積極的に取り組むことで、従業員のモチベーション向上や離職率低下などの副次的な効果を期待することができる。しかし、リカレント教育には一定の費用がかかる。個人が費用を負担する場合、教育プログラムによっては高額な費用がかかる。また、企業が従業員に機会を提供する場合でも、教育プログラムの導入や従業員の時間の確保などに費用がかかるため、コスト面を考慮する必要もある。

そのため、企業側がリカレント教育の費用対効果を正しく判断するには、投資回収期間やキャリア発展に必要なスキル習得など、多角的な視点で考える必要がある。また、教育プログラムの選択やキャリアパスの設計など、戦略的なアプローチが必要だ。

例えば、IT業界では、技術の進化が早く、スキルアップが必要不可欠である。このような業界では、従業員にリカレント教育の機会を提供することで、企業の競争力向上につながると考えられる。最新の能力を身につけたものが、企業組織に定着するために、教育以外の点にも配慮する必要がある。

目的意識が費用対効果を高める

リカレント教育を受ける前に、目標やニーズを明確にすることが最も重要である。例えば、収入増加が目的であれば、自分の希望する職種や業界で求められるスキルや資格を習得する必要があるし、キャリアパスを拡大するためには、新しい技術や知識を学ぶことが必要だ。目的に応じて、適切な教育プログラムを選択することが重要なのである。

さらに、リカレント教育は単発的なものではなく、継続的な取り組みという視点が重要だ。新しい技術や知識が日々進化する現代社会において、一度学んだことを維持するだけでなく、常に新しいことを学び続けることが求められる。そのため、リカレント教育を継続的に行うことで、従業員の能力やスキルを常にアップデートしていく。そのこと自身が、費用対効果を高めていく。

費用対効果からの改善へ

リカレント教育の効果は、教育プログラムの内容や実施方法、従業員のレベルや能力によって異なる。そのため、教育プログラムの評価や改善も必要となる。教育プログラムの評価には、従業員のフィードバックや能力の向上度合いを測定することが挙げられる。改善には、教育プログラムのカリキュラムの改良やトレーニングの方法の改善が含まる。

リカレント教育は単にスキルアップや知識更新だけでなく、従業員のキャリアアップにもつながる。従業員がリカレント教育を受けることで、自己成長を促進することができ、企業内でのキャリアアップの機会を増やすことが可能となる。

以上のように、リカレント教育には多くのメリットがあるが、費用対効果を正しく判断するには、投資回収期間や目的に応じた教育プログラムの選択など、様々な要素を考慮する必要がある。リカレント教育を通じて、従業員のスキルアップや能力向上、企業の競争力向上など、長期的な視野での効果が期待できることは間違いない。企業や個人がリカレント教育に積極的に取り組むことで、持続可能なキャリアや社会の実現につながるのである。