平和活動をアップデート、広島から平和を「自分ごと化」する学びを広げる

平和とは何か。それは答えのない問いだ。NPO法人PCVは、個人の興味・関心と平和活動を結びつける「平和×○○」のプロジェクトを展開し、誰もが自分ごととして平和を考えられる機会を創出。学びや成長の場を創出し、「自分を知り、世界を変える」リーダーを輩出している。

被爆3世が問い続ける
「平和とは何か」

住岡 健太

住岡 健太


NPO法人Peace Culture Village 専務理事
株式会社PLAY SPACE 創業者
広島市出身の被爆三世として、幼少期から祖母の体験を聞き「平和とは何か」を探究してきた。25歳で起業し、「平和をつくる仕事をつくる」を理念に平和教育や事業創造を展開。独自プログラムを71ヵ国・延べ8万人へ提供。2023年G7広島サミット「次世代平和シンポジウム」ではモデレーター兼スピーカーを務め、2025年大阪・関西万博では「PEACE CONVERGENCE」を企画するなど、国内外で次世代に平和文化をつなぐ活動を続けている。

広島市を拠点とするNPO法人Peace Culture Village(PCV)の専務理事・住岡健太氏は、「平和をつくる仕事をつくる」を理念に、従来のボランティア依存型から脱却した持続可能な平和活動を展開している。広島で被爆3世として生まれた住岡氏は、幼い頃から祖母の被爆体験を聞いて育った。「なぜ人は争うのか、なぜ世界は平和にならないのかという疑問を持ち続けてきました」と振り返る。

大学時代に東京へ進学し、社会起業家サークルの活動に参加した後、飲食店経営やコンサルティング業に従事するなど、ビジネスの世界で研鑽を積んだ。転機となったのは、教員を務めていた父の急逝だった。2020年に広島へUターンし、PCVの専務理事として、自身のビジネス経験も活かして平和活動に参画するようになった。

イベントに登壇し、国内外に向けて平和活動を発信。

イベントに登壇し、国内外に向けて平和活動を発信。

住岡氏は平和教育が陥りがちな「べき論」から脱却し、個人の問題意識を尊重して平和活動を広く捉える。

「平和とは何なのか。それは答えのない問いです。誰かが主張する平和を鵜呑みにするのではなく、自分にとっての平和を考えていく。そのプロセスこそ重要だと考えています」

住岡氏は「平和×○○」というコンセプトを掲げる。「平和×学び」、「平和×スポーツ」、「平和×アート」、「平和×テクノロジー」など、異なる分野と平和を掛け合わせることで、「平和活動は一部の特別な人たちが取り組むことではなく、誰もがそれぞれのフィールドでできること」として、平和活動の可能性を広げている。

高齢化や資金不足の課題を解決、
持続可能な平和活動を実現

PCVは「平和×学び」の活動として、29歳以下の広島の若者たちが修学旅行生にガイドをする「ピース・ダイアログ」を2020年から展開。それは無償のボランティアではなく、有償の事業として進めている。

近年、被爆者の高齢化が進み、また資金面の基盤も乏しいため、多くの平和団体の活動が困難に直面している。ピース・ダイアログは若者参加とプログラムの有償化により、担い手不足と資金不足の課題を解決する試みだ。

ピース・ダイアログの特徴は、単なる知識伝達ではなく、対話を大切にしていることだ。大人数の生徒に対して、被爆の歴史などを解説する従来のガイドとは異なり、対話を軸に少人数グループで学び合い、平和についての考えを深める。

ガイドを担う若者はPCVの研修を受けてファシリテーション等を学び、「ピースバディ」として登録。修学旅行生の少し上の世代がガイドを担うことで、話しやすい雰囲気が生まれ、主体的で双方向のコミュニケーションが成立しやすくなるという。

「平和学習について、『つまらない』『退屈』などと思っている修学旅行生はたくさんいます。その意味で、マイナスの状況からガイドは始まります。ピース・ダイアログでは対話を通して修学旅行生の興味・関心を引き出し、平和を自分ごととして考える機会を提供しています」

 29歳以下の広島の若者たちがガイドを務める「ピース・ダイアログ」。対話を軸に少人数グループで学び合い、平和についての考えを深める。

29歳以下の広島の若者たちがガイドを務める「ピース・ダイアログ」。対話を軸に少人数グループで学び合い、平和についての考えを深める。

また、ピース・ダイアログはガイドする若者の成長にもつながっている。聴き手の関心を高めるプレゼンテーション能力、創発的な場づくりを実践するリーダーシップやファシリテーション能力など、ピースバディの活動によって多くの能力が鍛えられる。

2020年のピース・ダイアログ開始から5年間で累計約200名のピースバディが育ち、延べ71ヵ国・約8万人にプログラムを提供してきた。現在ではピース・ダイアログのノウハウを長崎や沖縄、第二次世界大戦時に特攻隊の基地があった鹿児島・知覧(ちらん)にも提供し、新たな平和学習を全国に広げている。

スポーツ、アート、テクノロジー
「平和×○○」の可能性を広げる

「平和×スポーツ」では、地元のプロサッカーチームの協力を得て、平和とスポーツをテーマにしたツアーを開催し、広島の高校生がガイドを務めた。また、スタジアムにおいて、修学旅行生が平和への祈りを紙に書き、それを紙飛行機にして飛ばすイベントを実施した。

被爆者であり壁面七宝アートの第一人者である田中稔子氏の作品を展示するピースカルチャーミュージアム。

被爆者であり壁面七宝アートの第一人者である田中稔子氏の作品を展示するピースカルチャーミュージアム。

「平和×アート」では、被爆者であり壁面七宝アートの第一人者である田中稔子氏の作品を展示するピースカルチャーミュージアムを開設。「過去(被爆の実相)」と「未来(平和文化)」をアートでつなぎ、表現する場を創出した。このミュージアムには海外からも要人が訪れるなど、平和文化の発信拠点の役割を果たしている。

メキシコのアーティストによる広島空港での壁画制作など、海外のアーティストとのコラボレーションも推進。

メキシコのアーティストによる広島空港での壁画制作など、海外のアーティストとのコラボレーションも推進。

さらにメキシコのアーティストによる広島空港での壁画制作など、海外のアーティストとのコラボレーションも進んでいる。

「平和×テクノロジー」では、広島の記憶を新しい世代へと継承するARコンテンツを開発。スマホやタブレットで「ヒロシマの記憶AR」アプリを起動すると、目の前に平和公園が出現し、被爆前の街並みや人々の暮らし、被爆の実相や被爆者の証言、被爆後の復興のストーリーを体験できる。

PCVによる数々のプロジェクトは、住岡氏がモデレーター兼プレゼンターを務めた、2023年のG7広島サミットのパートナーズ・プログラム「次世代シンポジウム」や、2025年の大阪・関西万博での「PEACE CONVERGENCE」企画など、国際的な舞台でも注目を集めている。

さらにPCVは、広島県や広島県教育委員会、国連機関が実施する平和教育プログラムの運営にも携わり、活動の輪を広げている。企業とのパートナーシップも推し進め、CSV(共有価値の創造)経営や、コレクティブインパクト(多様な主体が連携して社会課題解決に取り組むこと)が重視される流れの中で、「平和×ビジネス」としてピースマーケティングを実践している。

「平和×リーダー育成」
平和を探究するスクールを展開

PCVが現在、力を入れている取組みの一つが「ピースカルチャーアカデミー(PCA)」だ。「自分を知り、世界を変える」をコンセプトに、半年間のオンラインプログラムで「平和×○○」を実践するリーダーを育成している。

「ピースカルチャーアカデミー」では、「平和×○○」を実践するリーダーを育成・輩出。

「ピースカルチャーアカデミー」では、「平和×○○」を実践するリーダーを育成・輩出。

PCAの受講生は自分自身と向き合い、「自分は何者で、どうありたいのか」を探究し、自分が実現したい「平和×○○」を深掘りしていく。受講生は少人数のユニットに分かれ、卒業生がナビゲーターとなってファシリテートし、共に学び合い、支え合い、成長していく。

多彩なゲストも用意されている。被爆者や国連職員、ノーベル平和賞受賞団体などがゲストに招かれ、「広島だけでなく世界に目を向ける」プログラム設計により、グローバルな視点で平和を考える機会となっている。

PCAは月2回、オンラインで開催され、受講生は自分のライフストーリーを振り返り、価値観を明確化していく。その上で、自分の関心・特技・価値観などを踏まえて実現したい「平和×○○」を構想する。最終的には、自分にとっての「平和×○○」を発表するプレゼンテーションを行う。この一連のプロセスを通じて、自己探究力、創造力、コミュニケーション力、協働力という4つの力を身につけていく。

PCAは2021年にスタートし、毎期40~60名程が参加。国際的な舞台で活躍する卒業生を輩出するほか、卒業生の中にはピースバディとして平和教育ガイドをするメンバーもいるなど、それぞれの形で平和を発信している。

着実に成果をあげているPCVの活動だが、住岡氏は今後に向けて、「広島に地球市民ミュージアムをつくりたい」という大きなビジョンを描く。それは「広島だけでなく、地球のためのミュージアム」であり、アート作品の展示やPCAのような学びの場を開設するほか、ピースバディがファシリテートして世界中から訪れる人々に平和体験を提供するミュージアムだ。PCVが展開してきたプロジェクトが、このミュージアムに集約され、共創が起きる場を構想している。その実現に向けて、住岡氏はチャレンジを続けている。