AIを活かせる人材の育成が次代のビジネス競争力を決める
生成AIの活用が進む中、日本では活用が遅れている。生成AIがもたらす働き方の変化を踏まえ、今後の人材育成戦略をどう描くべきなのか。本稿では、そのために必要なスキルや学びを紹介する。
生成AIがもたらす働き方の変化
2022年末にChatGPTが登場して以降、生成AIは瞬く間に広がった。一方で、日本では生成AIの利用経験者は26.7%にとどまるとの政府統計が25年7月に出ており、中国では81.2%、米国は68.8%、ドイツ59.2%との大差が開いている(図1)。この差は、単なる技術格差ではなく、「AIを前提とした働き方」への意識の違いを示している。
生成AIは、文章作成、翻訳、画像・動画制作、データ分析など、多くの業務を自動化・効率化できる。従来は専門スキルが必要だった作業も、誰もが短時間で高品質にこなせるようになった。ChatGPTで報告書を作成し、Canvaで資料を整える。そうした光景は、今や多くの職場で日常化しつつある。
一方で、AIによる自動化は「仕事の内容」を大幅に変える。事務や管理、販売などの定型業務は減少し、人間にはより創造的・戦略的な役割が求められるようになる(図2)。AIが代替するのは「思考しない仕事」であり、人間は意思決定や発想、対人関係といった価値創出に集中する時代へと進んでいる。こうした変化は、個人にとっても企業にとってもビジネスの“再定義”を迫るものである。単なるデジタルツールの導入ではなく、AIを前提とした業務プロセスや教育体系への転換――それこそが次の「働き方改革」であるともいえる。
キャリア戦略に求められる
新たなスキル
千葉 佑介
エデュニア株式会社 代表取締役
富士通ラーニングメディアで講師・コンサルタント・営業職など様々な業務を経験し富士通本社に転社。大学向けICT営業と新規事業企画職を経て、DMG森精機と野村総合研究所のジョイントベンチャー、テクニウムで教育ビジネスを立ち上げ、DX教育サービスや資格試験「5軸加工技術検定」をローンチ。ユームテクノロジージャパンでディレクターとしてAIリテラシー事業を立ち上げた後、現職。熊本大学教授システム学専攻博士前期課程を卒業、現在は岩手県立大学ソフトウェア情報学部で博士後期課程に在学中。現在は、H&Sホールディングスで最高執行責任者としてAIスクールを運営する傍ら、特定非営利活動法人デジタルラーニング・コンソーシアムでAI×人材育成研究会の主幹を務める。専門は教育工学。
生成AIの活用で最も重要なのは、「AIに何を、どう指示するか」である。AIを効率的に使いこなす鍵となるのがプロンプトエンジニアリングだ。これは、AIに対して目的・条件・形式を明確に伝える技術であり、出力の精度と品質を大きく左右する。
たとえば「概要をまとめて」ではなく、「管理職研修の講義用に、300字で要点を3つに整理して」と指示するだけで、結果は格段に変わる。2025年10月に発行した自著『AI実装宣言』では、このスキルを“AIリテラシーの中核”として位置づけている。
さらに、複数のAIツールを連携させる「AI統合スキル」も今後の必須能力である。ChatGPTで企画案を生成し、Midjourneyでビジュアル化し、GammaやGensparkで資料化する――こうした一連のワークフローを自律的に構築できる人材は、すでに企業の中核を担い始めている。
同書では、このようなAIの仕組みを業務全体に「実装」できる人材を「AI実装者」と定義し、単なるツール利用を超えた新たな職能として提示している。つまり、AIを使えるだけでなく、「AIを活かせる人」が次代のキャリアリーダーになるということだ。
学び続けるための実践環境
AIスキルは一度学んで終わりではない。進化のスピードが速い今こそ、継続的な学びと実践の循環が求められる。筆者が運営する「僕のAIアカデミー」では個人向けに、「My AI Academy」では企業・自治体職員を対象とした生成AIの実践スキルを体系的に学べる教育プログラムを提供している。23名の専門講師陣が設計した計100本を超えるeラーニング動画に加え、1on1指導や課題添削、集合研修を通じて、現場で使える力を育成する仕組みを整えている。
こうした“学びながらスキルを実装する”教育モデルは、個人だけでなく企業研修にも応用可能だ。AI人材育成を一部門の研修ではなく、組織全体のリスキリング戦略として捉えることが重要である。実際、国内外の先進企業では、社員のAIリテラシー教育を通じて業務改善と新規事業創出を同時に推進している。
「AIを使う人」から
「AIで成果を出す人」へ
AIの進化は、私たちの仕事を奪うのではなく、拡張するものである。人間にしかできない創造・判断・共感と、AIの分析・生成・自動化を掛け合わせることができれば、誰もがこれまでにないスピードと質で成果を生み出せる。重要なのは、AIを「業務効率化の道具」としてではなく、「発想を実装するための相棒」として扱う視点である。
この変化を恐れるのではなく、機会として受け入れ、自らのキャリアにAIを組み込むことが重要になってくる。
今後、AIを使える人材と使えない人材の差は、単なるスキル差ではなく“発想と行動の差”として明確に表れるだろう。AIを学び、試し、成果に変える――その一歩を踏み出し、当たり前のこととして実行できるようになることが、個人にとっては自身のキャリアを守り高めることに、組織としては自社や自組織の未来を切り拓く最も確実な戦略となる。
参考文献・出典
•総務省『情報通信白書2025』(2025)
•大和総研「生成 AI が日本の労働市場に与える影響」(2023)
•千葉佑介『AI実装宣言 ― 最先端のAIで安定収入を得る仕組みづくり』(アメージング出版, 2025)

